孤独と不条理の中で

@607rin

第1話

 「友情」という言葉を僕は、心から軽蔑する。それは上辺のきれい事に過ぎない。所詮友というものは、ある時は金づるであり、ある時は機嫌取りであり、ある時は言い訳である。都合の良いものに過ぎない。


 信用は冗談でしか使えない。気遣いは常にしなければならない。嘘と騙すは当たり前である。いつから人間社会というものはこんな風になってしまったのだろうか。所詮人間というものは、どんなに金持ちで偉かろうと、結局の所は、誰もが同じ一つの受精卵じゃないか。人間が人間に頭を垂れるなど、普通に考えればおかしいことがわかるだろうに。


 あぁ、世の中は矛盾と混沌に満ちている。


 僕は人間が、それ以前に自分が嫌いだ。人間として生まれたことを悔いている。人間は自分たち人間より劣っているからと動物達をけなす。しかしそれは間違いだ。僕からしてみれば、人間は本能と素直さに欠け、偽りばかりの生き物である。そんな大きな欠陥に気づかずに、動物の方が欠陥だらけだと言っている現状は見苦しくて仕方ない。


 さらに僕もその中の一人となっている事が何よりも屈辱である。


 僕は正しいことを見て知っている。この世の中が間違っていることも知っている。しかし、人間という組織に縛られた一人だ。逆らうことのできない何かに囚われている、小さく、弱い一人に過ぎない。


 そう思うたびに嫌になる。雄叫びを上げよう。平和への反戦歌を歌おう。何もかもを常識でさえひっくり返して見せよう。このまま砕け散って砂漠の砂となろう。


 怖いくらいに酔った次の日は、いつも決まって二日酔いだ。後味が悪くてこれはだめだ。苦笑しながら首を振る。煩わしい人間関係に巻き込まれるならば、孤独の方がよっぽど良い。今日も屋上に一人である。


 手元に愛読書。目の前によくあるベンチ。それに掛けた皮のロングコート。昨日の残りの二五〇円の弁当と差し入れのみかん。それを静かに食しながら考えている。孤独はそんなに怖いことなのだろうか。こんな事を考えるのも、僕が、ただこの世の中に無知だからではない。僕が変わり者であるだけでもない。それは、



 僕がこの世の常識を嫌っている、というか理解ができないためである。



 別に僕は、自分が有能であるとか優れているだとか、そんなうぬぼれたことを言いたい訳ではない。それこそ僕が軽蔑するものに等しい。むしろ僕は、自分を含めた人間が、どれだけ無能で馬鹿なのかを言いたい。


 こんな事を言った後に信用できないだろうが、僕は人間を美しいと思っている。無論上辺のみだ。一見、人間は幸せそうに見える。それなりに笑顔で、それなりに楽しい家庭を築き、それなりに金もある。さらに言えば、富や名声、人気や注目、そんな武器を持った者もいる。


 しかしじっくりと観察すれば、幸せも砕け散るだろう。戦争で倒れていく者。貧困に悩み続けている者。さらには、富や名声、人気や注目を乱用し、不条理なことをする者。いじめに耐えている者。デモを起こす者。ひどい重労働を強いられる者。犯罪に手を染める者。ずるがしこい者。暴力をふるう者。暴言を言い散らす者。他にも多々の人々が悩み、苦しみ生きているに違いない。


 ではその者を救い出すのは何なのだろうか。励ましの歌はきれい事に過ぎない。心ない言葉は、さらに追い打ちをかけるだけである。


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