第2話

「飛び行くは自由の翼」



2080/1/8 裏ジオフロント


トウヤとユーナが戦機【真紅】に搭乗してから2日が経った。

「ふむ、やはりナノドライブとナノブレインの同調率はコレが限界か…」

悩ましい表情を見せていたのはユーナの父ヴァニティア・ラザフォードだった。

「出力的には従来の戦艦より出せます。それにナノブレインの恩恵で半永久エンジンでもありますので問題は無いかと。」

モニターを見つめながら淡々と話しているのはアザレア・アイリーン。White wingの整備班長であり特殊部隊ウロボロスのオペレーターでもある。

「アザレア、コレで外に居る連合共の艦隊を相手に出来ると思うか?エンジンが半永久的でも機体強度には限りがある。」

そう言うのはトウヤの父であり特殊部隊ウロボロス隊長の東雲ゲンヤだった。

「と言うよりココを出てどうするの?」

ひょこっと現れ質問を投げかけたのユーナだった。

「いい質問だ。流石は私の娘だ。これから私達は独立国家コロニー群L2に向かう。そこで匿って貰うのと下準備を始める」

そう語るヴァニティアの表情は何処か楽しそうでもあった。

「んー…その先が全然見えないしL2に辿りつけるかどうかも…トウヤはどう思う?」

ユーナは不安そうにトウヤに問う。

「確かに見えない部分は多いけど何時までもココに居るわけにも行かないよね。それにオヤジやヴァニティアさんだって無理な事はしないさ。」

トウヤはゲンヤとヴァニティアを見つめそう語った。

「ふっ…流石は我が息子だ。その通り俺たちは…うぐっ!?」

ゲンヤが何かを語ろうとしていた中それを退かしたのはヴァニティアだった。

「トウヤくん、私の事はお義父さんと呼んでくれて構わないと言ってるだろう?それと私達を買ってくれているのは凄く光栄なのだがこれから先どうなるかは君を含む戦姫のパイロット達に掛かっているのだからね?」

ヴァニティアは微笑みながらそう語った。

「…そろそろ本題の方に戻ってもよろしいですか?」

そう言ったのはアイリーンだった。

「あぁ、そうだね。とにかく今動かせる戦姫は3機。真紅、黄河、黒金だ。青椿と翠燕は適正パイロットが居ない。それと装甲機はリヴイヴでパイロットは2人。つまり5機の機体でこの船、【銀翼】をどう守り抜くかだ。」

深く考え込むヴァニティアだった。

「…だったら俺と真紅が囮になって敵の陽動をする。その間に銀翼は火星を抜ける。それを確認したら俺も戻るんでどうですか?」

そう申し出たのはトウヤだ。

「悪くはない。だがお前1人では真紅を壊しかねない。だから俺と黄河もでる。」

ゲンヤはそう言うと声を荒立てる者が居た。

「だったら俺もでねぇと!黒金だっていれば陽動は完璧だろっ!?それに隊長の右腕が出ないとかおかしいだろ!?」

そう言うのはウロボロス隊のアンドリュー・スミノフだった。彼は戦姫黒金のパイロットだ。

「貴方はバカですか?すべての戦姫が出てしまったらこの船は誰が守るの?装甲機だけではすぐに全滅。だから隊長は貴方に船の護衛を任せるつもりなのよ。【自称右腕】の海兵上がりさんにね。」

抗戦的に言ったのはアイリーンだった。

「アイリーン少し言い過ぎだ。だがその通りだアンドリュー。お前だからこの船を任せる。」

ゲンヤはアイリーンとアンドリューの間に入りそう言った。

「…わかりました!俺は隊長の名誉にかけてこの船を守ります!連合の野郎共には指一本触れさせません!」

アンドリューは涙目になりながら敬礼をした。

「よし、任せたぞ。コレで作戦は纏まった。ココでウダウダしている時間もない。明朝04:00に作戦を決行する!各員それに伴った準備に移れ!」

トウヤがそう言い放つと「ラジャ!」と皆が敬礼をした。


「トウヤっ、真紅のトコにいこ?ちょっと話があるの」

ユーナはトウヤの腕を掴みそう言った。

「ん?わかったよっ。じゃあ行こっか。」

トウヤ達はそう言って銀翼内の格納庫に向かった。

「英雄と謳われた私達が今度は反逆者ですか。トウヤくんやユーナには悪い事をしてしまったよゲンヤ。」

ヴァニティアはそう言った。

「そうヴァニティアが心配する事はないさ。俺は息子に自分の行く道は自分で決めろと教え続けた。それでも俺の元に来る事を曲げなかった。トウヤもユーナちゃんも自分達の意思で戦う事を決めたんだ。心配するな。」

そう告げたゲンヤだった。

「…ここでは社長だろ。ゲンヤ。」

少し微笑みながらヴァニティアはそう言った。

「すまんな。連合時代は俺が上官だったクセでな」

ゲンヤもイタズラっぽく微笑みながらそう言った。


銀翼内 格納庫


「ねぇトウヤ、真紅がね話したいって言ってるの」

ユーナは真剣な眼差しでそう言ってきた。

「真紅が?わかった、じゃあ3人で話そう。」

トウヤがそう言うとユーナとコックピットに乗り込んだ。

それを見つめるかの様にいたのは戦姫【青椿】だった。

「真紅、起動っ。トウヤを呼んできたよっ」

ユーナがコックピットのモニターに向かってそう言った。

[マスタートウヤ、待ってました]

モニターにそう表示された。

「昨日は真紅に会いに来れなくてゴメンね。ちょっと工作してたら寝落ちちゃっててさ。」

トウヤはそう話しかけた。

[少し寂しかったですが大丈夫です。それより青椿が私に話しかけて来ました。青椿も飛びたいみたいで。]

トウヤはモニターに表示された真紅の言葉に驚いていた。

「青椿が?あいつはまだ起動してない筈…ユーナはこの話をもう聞いてたの?」

トウヤは何かを疑問に感じて居たが【戦姫だから】現代では解析しきれない【ナノブレインだから】と自分を納得させた。

「ううん、真紅がトウヤと私と一緒に話したいって言ってただけ。」

ユーナは首を大きく振っていた。

「だとしたら青椿に直接聞くかな…真紅。青椿とコンタクトとれるかな?」

トウヤが真紅にそう言う。

[取れますよ。青椿コール。]

真紅がそう告げるとすぐに別ウィンドウがモニターに表示された。

《ハロー!トーヤ!ユーナ!ワタシは青椿デス!》

青椿はとても活発な戦姫のようだった。

「こんにちは青椿。君は凄く元気印だね。それで、飛びたいんだって?」

トウヤは少し微笑ましくなった様だ。

(戦姫はやっぱり生き物だ。気持ちもあれば個性もある。やっぱりみんな…可愛い…)

ユーナはそんな事を考えていた。

《ワタシはソラを飛んだ事がナイ。ソレに真紅はココの皆を護る。ワタシも護りタイ。デス!》

青椿の言語設定はまだパイロットが居なくセッティングされて無いのにココまで伝えられる事に2人は驚いていた。

「青椿ちゃんも凄くイイ子だねっ。そうだなぁ…トウヤと真紅っ。少し相談があるんだけど….いいかなっ?」

トウヤはユーナが何を言いたいかわかっていた。真紅も同じだと思う。

トウヤは微笑みながら頷いた。


1/9 03:30 銀翼格納庫


「…トウヤ。これはどういう…いや…まて、そもそも青椿は…」

ゲンヤは頭を抱えていた。

整備班やヴァニティアですら驚いていた。

それもそのはず。ユーナは青椿のコックピットに乗っていた。そしてトウヤは1人で真紅に乗っていた。本来ならばマルチドライブシステムが搭載されている真紅に2人が乗らなければ真紅は性能をフルで発揮できないのだがモニターに表示されているエナジーゲインはMAXだった。そして青椿は適正パイロット、青椿が認めた人間が居なければ起動しないハズだ。そして今まで適正パイロットは居ないと思われていた。

それなのにユーナが乗っていたからだ。

「えっへんっ!実に良い質問ですよお義父さん!実は昨日青椿がソラを飛びたいって言ったから私とトウヤじゃなくて真紅と青椿そのものをシンクロさせちゃいました!」

ユーナは誇らしげに語るがそのシステムをいじったのは真紅とトウヤでユーナは寝ていたのだ。

「…と、いう事なんだ。オヤジもヴァニティアさんも寝てたから報告は今日しようと思って。」

トウヤはそう告げると周りの人間は驚いた素振りの後に皆笑い出した。

「なるほど、トウヤ君。戦姫は我々でも未だ分からない事が多い。それは戦姫達も同じだと思う。だから真紅と青椿の事に関しては社長の私自ら君に一任する事を命じるよ。」

ヴァニティアは微笑みながらそう告げた。

「トウヤよ、隊長命令だ。ちゃんと2機の面倒を見て社長の命令を厳守しろ!」

ゲンヤもニヤけながらそう告げた。黄河はそれを見て《オヤジ楽しそうだな。俺が先輩として真紅と青椿に飛び方を教えてやるから全力でいくぜ!》と告げた。

こうしてトウヤの真紅。ユーナの青椿。ゲンヤの黄河が陽動に向かう事になった。

そして時間になりヴァニティアは言い放った。

「3機出撃!銀翼は出撃、陽動が確認取れ次第出発する!各員、必ず生きてココを抜ける事!」


「ラジャ!黄河、wing1行くぞ!」


「了解!真紅、wing6行きます!」


「頑張るよっ!青椿、wing7行ってきまーすっ!」


3機はソラへと飛び立った。


「全く、私の娘は母親に似て予測ができない人間だよ。トウヤ君。ユーナをよろしく頼むよ。」

ヴァニティアは飛び行く3機を見つめそう言った。


火星 気象観測基地


「wing1より各機へ!ココが連合共のメインキャンプだ。とにかく敵を引き寄せる為に騒げ!」

ゲンヤがそう言い放つと上空に発砲を始めた。




気象観測基地 観測室


「来たか。戦姫が3機。我々を追い出す気か?まぁいい。白川技術主任、機体の準備はできているか?」

豪勢なマントを纏った仮面の男は白衣にメガネの女性にそう尋ねた。

「バッチリですよぉ。バロン大佐の機体もクリスさんの機体もビットコントロール搭載の機体も。」

白川と呼ばれた白衣の女は楽しそうな顔でそう告げた。

「へっ。遂に俺の出番っしょ!おい、双子。お前らのオモチャもできたとさ。」

クリスと呼ばれた蛇のピアスが特徴的な男が隣にいた双子にそう言った。

「…真夏、僕達の出番だってさ。」

少年にも見える少女は隣の妹の手櫛でほぐしながらそう言った。

「やっとですっ?退屈過ぎて暇でつまんなかったのも終わりですっ!行くですよ!真冬っ!」

長髪で喋らなければとても可憐な少女はそう言うと真冬の腕を掴み全速力で格納庫に向かった。

「元気なクソガキ共っしょ?アレでもアクターの中ではトップレベルなんよ。」

クリスはケラケラと笑いながら格納庫に向かった。

「私はあの戦姫が何をするのかイマイチわからない。少しココで見物していよう。」

バロンはそう言ってモニターわ見つめていた。

「まぁそれにあの機体を隠してた場所もわからないですしねぇ?ジオフロントも地上も探したのに見つからないとしたら何処にいたのか気になりますねぇ」

白川は真剣な眼差しでモニターを見つめていた。


『あっれぇ?大佐はでないんすか?』

通信が入ってモニターの端にクリスの顔が映った。

「あぁ、私は奴等の居場所と目的が気になるからな。少し様子見だ。」

バロンはそう告げた。

(貴方も私と同じで居場所とか目的なんかどうでもいい。あの戦姫が気になって仕方ないんでしょう)

白川はクスクスと笑っていた。


「装甲機ばっかだね。やっぱりココにはあのアクターの乗ってたの見たいのはいないのか?」

トウヤは軽く装甲機をいなしながらそう言った。

『油断してると痛い目見るぞ…ほら、噂をすればだ!』

ゲンヤがそう言うと装甲機とは違うフォルム、カラーリングの機体が2機現れた。

「どうしたの青椿?怖くないよ。私もトウヤも真紅も居るんだから。」

ユーナは感覚的に青椿の異変に気付き声をかけた。

《ワタシは知ってる。アノ黒い大きい機体は敵なんデス》

青椿はそう告げた。


「…あの青いの何か感じる。真夏行くよ」

「了解ですぅ!行くですよ!ヴァリアント!ツヴァイフォーム!」

真夏がそう言うと乗っていた黒く巨大な機体。ヴァリアントの背部が分離して2機に増えた。

「何だあいつら…真紅!青椿!行くぞ!」

トウヤがそう言うと真紅と青椿が激しく光始めた。

これはこの前のディフィリィとの戦いで敵を停止状態にした感応侵食光だ。

「ちょっ!?グレイブが止まった!?白川さんこれどういうことよ!?」

クリスの機体や周りの装甲機は停止状態になった。

「…やっぱりですかぁ…。一応グレイブには反光加工しておいたんですがアレは光では無く粒子…まぁだとしたらヴァリアントは動きますけどねぇ」

白川は笑いながらそう言った。

「白川技術主任。やはりアレは爺様共の言っていたナノブレイン…ブラックボックスの技術が?」

バロンはモニターを見つめながら白川に問う。

「えぇ、間違いないと思いますよぉ。だけど元老院のお爺様方が隠し持っていた時代の物よりは古いみたいですよぉ。ヴァリアントは何の調整もしてないのに動いてますし。だとしたらやはりあのエンジンの量産が必要ですねぇ…」

白川はそう言ってモニター室を後にした。


「…トウヤ、ゲンヤさん。あの黒い子は少し危ないよ。」

ユーナは真剣な表情でヴァリアントを見つめながら言った。

「あの光が効かないならそうなんだろうさ。っち…またブラックボックスか…だがっ!」

ゲンヤはそう言うと同時にヴァリアントの本体に突撃していった。

「オヤジが行った!俺達も行くぞユーナ!」

トウヤがそう言うと青椿と真紅の手に光の剣を出しヴァリアントの分離した方に突撃していった。

「真夏…」

「真冬!」

『ヴァリアブルビット!ユニゾンコントール!』

2人がそう強く叫ぶと火星の地表から多数の小型銃撃ユニットが現れ2機のヴァリアントの周りに展開した。

「シャラ臭いっ!黄河!バーストモード!」

《飛ばしてくぜ!オヤジ!》

黄河の肩、胸部、膝関節部、両腕に装備されたマシンガンから一斉に弾丸やホーミング弾が真夏の乗る本体に向けて発射された。

「真夏…!ヴァリアブルビット!」

「真冬!こんなの余裕ですぅ!」

2機の周りに展開されたヴァリアブルビットは高速で動き黄河から発射された物を全て撃ち落とした。

「wing6よりwing1へ!ここは真紅と青椿でなんとかします!銀翼の発艦ももう始まるからそちらに!」

トウヤがゲンヤにそう告げた。

「頼もしくなったな!了解!wing1は銀翼へと帰投する!wing6.7は様子を見て、この宙域を離脱して銀翼へと帰投すること!」

《やられっぱなしで帰んのかよ?って、まぁ殺る事が目的じゃねーか!》

ゲンヤがそう告げ、黄河も何か納得した。

そして宙域を離脱した。


『こちら環境研究所!バロン大佐!戦艦らしき物がソラへと上がります!!』

バロンの居るモニタールームに入電がありそう告げられた。

「…なるほど。英雄達に一本取られたか…よしわかった。メサイアとバドロフに各機体を集めろ。我々はあの戦艦を追う。」

バロンは何処か楽しげな顔をしてそう告げた。


「真冬!一機逃げたからコレでアレができるですぅ!」

「そうだね、ツヴァイドライブきど…ん?」

何かをしようとしていた2機の動きが止まった。

「真夏。残念だけど今日は終わり。」

「帰投命令…しかたないですぅ…」

2機の周りに展開していたビットは全て何処かに消えた。そして2機は1機へと戻り撤退して行った。


「帰った…?トウヤっ、どうする?」

ユーナは周りを警戒しつつ真紅の側に青椿を動かした。

「罠かもしれないけどコッチもタイムリミットが近いみたいだよ。帰る意外に選択肢はなさそうだね。」

そう言うトウヤの視線の先には銀翼が宇宙に向かおうとしていた。

「…トウヤ、連合の機体が動いてるし数がへってる…?」

ユーナがそう言った。

そしてトウヤが異変に気付いた。

「…ヤバいな。ユーナ。急いで銀翼に行って。120km先に敵艦隊メサイアが1隻とバドロフが…20隻…」

それは圧巻される量の艦隊だった。

連合から火星制圧に来た艦隊が60隻。その約1/3が銀翼の追尾に回されたという事は連合が銀翼を危険視したという事。

それは当たり前の事でもあった。2060年頃、小さな戦争があった。それは火星移民に反対した国家が連合に挑んだものだ。それを装甲機2機が3日足らずで鎮圧した。そして2機のパイロットは連合の英雄と呼ばれた。その2人の名前は東雲ゲンヤとヴァニティア・ラザフォード。トウヤとユーナの父だった。

「わかったっ。行くよ青椿っ!」

しかし青椿は動かなかった。

《ワタシワカリます真紅がワカルように。トーヤは1人で足止めをするデス。ソレはダメです》

青椿がそう言うと別のモノが流れ込んできた。

《これはマスタートウヤに内緒で送っています。青椿とユーナは帰投してください。トウヤは大丈夫です》

それは真紅からだった。

「…そっか。わかった。トウヤはカッコつけたがりなんだからぁ」

小さく笑みを浮かべユーナはその宙域を後にした。

《よかったデス?ワタシが居ないと真紅は全力を出せないデス》

青椿は不安そうだったがユーナがモニターを撫でてこう言った。

「大丈夫。トウヤは少しカッコつけたいだけみたい。妻としてそこは買ってあげないとねっ?」

クスクスと笑いながら言うユーナ。

(まさかナノブレインの感応波で真紅を伝ってトウヤを感じれたなんて…やっぱり戦姫って凄いなぁ…)

そうユーナは真紅の通信が入ると同時に違和感を覚えていた。自分の感情じゃないものが頭の中にはいってきたのだ。だがそれは不快なモノではなかった【俺が守らなきゃ。戦姫も銀翼もユーナも。ヤバくなるギリギリまで引きつけないと】そう思うトウヤの感情を感じとったのだ。

「行ったかな?真紅もあんまり余計な事しなくて良かったのに。カッコつかないじゃんか」

そう言うトウヤだが笑っていた。

トウヤにも同じ様にユーナの感情を感じていたからだ。【妻(笑)として夫(笑)の強がりを尊重しなきゃねっ!心配だけどトウヤは必ず帰ってくる】

それがユーナの気持ちだった。

《マスターはカッコいいから大丈夫です。私はユーナが羨ましい。人でありマスターの大切な人であるのが》

そう告げる真紅をトウヤは笑いながら撫でた。

「大切な人を守るために付き合ってくれてる真紅も俺の大切なパートナーだよ。だから壊させはしない!行くよっ!」

そう行って敵艦隊に急速接近していった。


「艦長!敵1機こちらに!?速い!?」

メサイア艦内で1人のオペレーターがそう告げると目の前に真紅が現れた。

「まさかもう御対面ですか。英雄の意思を継ぐ次世代の子供に。大佐に迎えが遅れると伝えてください。」

艦長と呼ばれた袴姿の青年。片桐 雅がそう言う。

『こんにちは、今日も良い逃走日和な事で。』

トウヤはオープンチャンネルでそう告げるとメサイア率いるバドロフ艦隊からの砲撃が始まった。

「全く。話で時間を潰したかったのにダメか。ユーナも居ないんじゃ感応侵食も使えない…したら!」

《了解です。Nカーテン発動》

そう言うと真紅の周りに光が集まりそれに艦隊の砲撃が当たると止まり実弾は下にビーム兵器は消滅した。

感応侵食程の範囲での発動は出来ないが真紅の周辺を囲む程度なら可能だった。

『お久しぶりですね。東雲トウヤ。全く、とんだ力を手に入れちゃいましたね。』

片桐はオープンチャンネルで話しかけた。その表情は何かを楽しむ様でもあった。

「なっ!?片桐先生!?なんで連合の…」

トウヤは驚いていた。片桐はトウヤ達の通っていた高校の教師だったのだ。

そして彼は過去に連合で英雄と謳われたゲンヤとヴァニティアの所属する独立治安維持部隊アイゼンに所属していた。

『僕はゲンヤさん達とは違って連合を抜けてないからね。各艦隊に砲撃をやめる様に伝えた。これから1対1で勝負をしませんか?』

片桐はそう言うとモニターに背を向け格納庫へと向かった。トウヤが首を振るとは思わなかったからだ。

「まぁそれもそうか。だったら俺達を騙してたんだよね。襲撃の日も先生は居なかったし。それに砲撃が止まるなら時間稼ぎも楽か…真紅、あと何分はココに留まれる?」

トウヤがそう真紅に質問した。

《活動可能時間は12分。帰投を視野に入れると9分38秒が限界です》

トウヤは真紅のモニターを撫でた。

「それだけアレば充分かな。さぁ、一世一代の大博打part.2アゲてこうか!」

《マスターの気持ちに私は答える。アゲてこうか!》

真紅もそれに答え強く輝き始め光の剣が2本現れた。

『おまたせしました。片桐 雅、カタナ。参ります!』

そう言う通信と共にメサイアから白い機体が現れた。

カタナは腰に機体より長い刀を装備していた。

「僕はまだ傍観者で居たかったのだけれど神様も意地悪だね!」

片桐がそう言うとカタナは消えた。そして瞬時に真紅の前に現れた。以前ディフィリィが乗っていたヴァラクーダと同じ動きだった。

「傍観者で居たいなら傍観者のままで良いじゃないですかっ!その技、もう見切ってますよ」

トウヤはカタナの剣撃を受け流し距離をとった。

「ダメなんですよ!僕の血がゲンヤさんの息子と戦ってみたいって騒いで!」

そう語る片桐の顔は歪んだ笑みに溢れていた。

「ただの戦闘狂じゃないですか。そんなの俺に押し付けないでくださいよ!」

真紅はカタナが消えると同時にカタナの居た場所に急速移動をした。するとカタナの背後を取る形ができていた。

「チェックメイト!東雲流奥義!垂れ桜!」

真紅の光の剣がカタナの両肩を切り落とした。

「だけどまだ!」

カタナの機体の腰に着いていた鞘が足に固定されそれを振りかざし真紅に当てようとした。

「チェックメイトって言ったじゃないですか。真紅っ!」

それをも予見していたトウヤは光の剣でそれを切り払った。

そして真紅はその宙域から離脱した。

「全く。やはり彼はゲンヤさんの息子だ。命のやり取りなのに相手を殺さないあの余裕…次は僕も本気を出さなきゃかな」

そう言う片桐の顔は笑顔に満ちていた。



「ふぅ…お疲れ様、真紅」

トウヤは汗を腕で拭いそういった。

《マスターもお疲れ様でした》

単調だが優しい言葉使いで返してくれる真紅との会話はトウヤのひとときの安らぎの1つだった。

「あっ!やっと帰ってきた!待ってたんだからぁ!」

目の前にはユーナの乗る青椿が居た。

「お待たせ。カッコつけさせてくれてありがとう、俺の奥さん(笑)」

トウヤはからかう様にそう言った。

「えっ!?やっぱりトウヤにも感応波がっ!?」

ユーナは顔を赤くしてコックピットで丸くなった。

《ラブラブデスね!妻(笑)のユーナっ♪》

青椿もそうユーナをからかった。

「もうっ!青椿までぇ…」

顔を真っ赤にするユーナを青椿は撮影し真紅に送った。

「恥ずかしがる事ないよ。そんなユーナが俺は好きだから」

トウヤは表示された画像を見て照れながらそう告げた。

2機は銀翼へと帰投した。



銀翼は火星を飛び立った。それは自由を求める英雄達の1ページになるのはまだ先の話だった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ソラを駆ける戦姫 赤兎 @RedRabbit

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ