第5話 白色の体験

 ましろにはこの杖を手にしたときから、どこか懐かしいような気持ちがあった。小さな頃に描いた絵のような、ぼろぼろになるまで遊んだ人形のような、そんな懐かしさだ。持ったときも、手によく馴染んでいた。初めてなのだが、初めてではない感覚。その感覚を胸に、魔法杖を変形させる。

 セレナの言っていた「射撃モード」時の魔法杖の形を、ましろは知らない。だから、本来想像することはできないのだが、今のましろは魔法使いであり、セレナと一心同体だ。セレナの心から、射撃モードを見つけることができるはず。懐かしさも、ましろの気持ちではなく、セレナの気持ちで、記憶なのだ。前回のマスターとの思いが、ましろに流れ込んできている。

 ましろはそのことを踏まえて、思うことだけに集中した。

 蕾が開き、そのまま花びらが飛び散った。中にあった四つの枝が伸びていき、その先からは桃色をした羽のようなものが現れる。続いて、杖の先が二つに割れ、銃口がその姿を剥き出しにした。

『ベルトポーチからグリップを取り出して、マスターが一番持ちやすいと思うところに付けてください。それで準備は完了します』

 腰のポーチを漁ってみると、手にそれらしいものが当たった。掴み、取り出してみると、漫画やドラマで見たような、拳銃のグリップだった。トリガーも付いている。そのグリップはましろの手にフィットし、持ちやすいし握りやすい。

 右手で杖を持ち、左手に持ったグリップの凹みに合わせ、適当な位置に装着した。

「これでいいのかな?」

『問題ありません。杖の先端を、目標に向けてください。ゴーグルに映っている丸に合わせれば、位置取りは大丈夫です』

「こう、かな?」ましろはセレナの言われた通りに、杖の先端を丸に合わせた。腕だけでは窮屈だったため、少し足を開き、自分の構えやすい体勢を見つける。

『では、魔力をチャージしてください』

「うん? どうやって?」

『そうですね……、マスターにわかりやすく言うのなら、杖の先端に魔力の塊ができていく工程を想像してください。小さな点が、大きくなっていく様子を思い浮かべてください』

「わかりやすい!」

『そして、マスターがいいと思ったタイミングでトリガーを引いてください』

「いつでもいいの? 早かったり、遅かったりしちゃダメとかない?」

『その辺りの計算はゴーグルの方で行われます。早過ぎるのはダメですが、今回に至っては遅過ぎても問題はありません』

「わかった」

『それと、想像するからと言って瞼を閉じるのは禁止です。マスターは初めてなのですから、目に焼き付けといたほうがいいです』

「うん。ありがと」

 ましろは、杖の先端に意識を集中した。魔力がそこに集まっていく工程を、小さな点が大きな点になっていく様子をイメージする。

 その瞬間、変化が起きた。

 ましろのイメージ通りに桃色の小さな点が現れた。ましろはほっと内心で胸を撫で下ろす。だが、その点はましろのイメージをはるかに超えるスピードで成長を遂げていった。

 ひとつ、またひとつと周囲に現れた同じような桃色の点を吸収していく。

 膨らみ続ける魔力。

 流れ星のような軌跡を描き、魔力が一点に集中する。

 ゴーグルに「完了」とあの謎の文字で表示された。いったいどこの文字なのかは謎のままだが、もうましろに読めない文字ではない。

 だが、ましろはトリガーを引かない――引けないでいた。

 体を上手く動かせない。ただ魔力を集めることだけしか考えられない。しかし、ましろは困惑しているわけではなかった。困惑すらできない――人形のように誰かに操られている。

 自分が自分でない感覚。

 自分が誰かと重なっている感覚。

 ましろの脳内を、色褪せた映像が走馬灯のように駆け巡る。

 これはそう、セレナの前のマスターの記憶。

 あるいはセレナの記憶。

 

 

《――― 大丈夫、きっとできるから ―――》



 ふと、そんな声が聞こえたような気がした。確証はないが、そんな響きだった。

 誰の声だったのかはわからない。

 けれど、とても温かい声だった。

 心の底から勇気が湧いてくるような、そんな優しい声。

 迷いがあったのだろう。トリガーを引いてしまえば、それこそ本当に自分が魔法使いとして精霊を倒していくことが始まる。元いた日常に、この異常が加わることになる。誰にも相談することはできない。家族、友人、教師、その誰にも。

「……大丈夫」ましろは自分を鼓舞するように言った。あるいは落ち着かせるために。

 すでに魔力の塊は地面に届きそうなくらいに膨らんでいた。それでもまだ周囲から魔力を集めている。

 周りの空気が振動していることがわかった。ピリピリとした空気が、ましろの肌で感じられる。地面に転がっていた小さな石が少し浮き、そして粉々に砕けていく。それが繰り返され、魔力の塊を中心にして、地面が抉れていった。

 ゴーグルの「完了」の文字を改めて確認する。精霊の場所を示す丸い表示は見えるが、その先にあるビル自体は魔力の塊が邪魔をして見ることはできなかった。

 ゆっくりと息を吐いたあと、トリガーを引いた。

 魔力が一直線に、はるか遠くにあるビルを目指し放たれていく。発射時の反動が凄まじいものだったが、後ろに四つの羽が大きく広がり、ましろの体を支えた。

 十秒にも満たない時間で、その結果は現れた。

 ビルが消えてなくなっていた。

 それだけではない。魔法が通った周辺の建物も、見るも無残に、その余波で破壊され尽くされていた。その傷跡だけがどこまでも続いている。

「えっと……」ましろはゴーグルを頭上にずらす。「やりすぎちゃった……かな?」

『あそこまで魔力を溜めればこうなるのは必然です。むしろ今後のためになったと思います。やりすぎるくらいが、ちょうどいいくらいかと』

「ここが普通の世界じゃなくてよかったよ……」ましろは地面にぺたりと腰を下ろした――というよりは、腰が抜けてしまっていた。足が震えている。

『次にここへ来るときは、魔力制御の練習をしましょう。毎回、全力を尽くしていては、マスターの心がもちません』

「そうだね。ありがと」

『では、報酬を選んでください』

 ましろの顔の前に、A4サイズ程度の画面が現れる。意外なことに、そこには日本語が書かれていた。あのどこの国の言葉なのかわからないような文字ではない。

「えっと、なになに」ましろはそこに書いてある文を読む。「宿題の完成。温かいココア。新しい筆入れ。……なにこれ?」

『先ほども言いましたが、報酬です。マスターが望んでいること、ものが提示されているはずですが、なにか不備がありますか?』

「そうじゃないけど。なんていうか」

『小さい願いしかない、そう言いたいんですね』

「うん」ましろは頷いた。

『今回、マスターが倒した精霊は実を言いますと、こちらが用意したものです。そして、マスターの初めての魔法の使用ということもありますから、今回はそう、魔法使いを体験していただいたということになります』

「そうだよねー。今のだけで、たとえばお金持ちになれるとしたら、上手くいき過ぎてるもんね」

『説明は後ほどするつもりでしたが、まあいいでしょう。今回は体験でしたが、次回からは本格的に魔法使いとしての活動が始まります。発見される精霊も一体のみとは限りません。だからマスターには、魔力の制御を憶えてもらわなければならないのです』

「質問いいですか?」ましろは手を挙げた。その動作に意味はなく、なんとなく学校のくせが出てしまっただけだ。

『構いませんよ』

「もし私が精霊を二体とか倒したら、その分、叶えることのできる願いは大きくなるってことでいいの?」

『間違いないです。ただし、叶えられる願いは、マスターが本当に望んでいることだけです。現在提示されている三つの願いも、マスターが望んでいることから選ばれています』

「そういえば、そうかもしれない」

 思い返せば、そんなことを自宅の前で考えていたような気がした。長いようで、短い時間を過ごしてしまったましろにとって、そんな帰宅時のことは昔のことのように思えた。

 この結界内に長い時間いても、現実の世界では数秒も経っていない。一秒すら時を刻んでいない可能性だってある。

 セレナの言っていた通り、ある程度の「不思議」であれば狼狽しなくなっている。嬉しいことなのかどうかは、今はまだ判断することはできなかった。

『逆に、マスターが先に願いを告げることもできます』

「そうなんだ」

『この場合、「ミッション」が提示され、それを熟さなければなりません。そしてそのミッションを終えるまでは、元の世界には帰れませんから、あまりお勧めすることはできません』

「そうだね。今の私だと魔力を制御できずに倒れちゃうもん」

『ですからマスターは、見つけた精霊を倒していくのが最善だと思われます。そして倒した分の報酬として、その大きさの願いを叶える』

「うん。それがいいよ」

『……マスター、本当にわかっていますか?』

「へへー」ましろは照れ笑いを見せた。「今はちょっと色んなことが頭に入り過ぎて、処理し切れないかな。だから、その辺りのことはセレナちゃんに任せるよ」

 顔には出していないが、ましろは酷く疲れていた。今まで過ごしてきた世界とは違う世界の情報が流れ込み、未知の領域だった魔法を使用し、それでいてルールを叩きこまれては、心身ともに悲鳴を上げてしまう。それでも、ましろが表情を曇らせないのは、それが自分の選んだ道だということを忘れていないからだ。

 くるくると周囲を回る花びらたちを見ていると、ましろの手から杖が消え、ネックレスの姿に戻った。そのときに、ましろは自分の手が震えていることに気付いた。力強くグリップを握りしめていたからだろう。痙攣しているのだ。

「今のは、セレナちゃんがやったの?」

『はい。マスターはまだ魔力制御が上手くありませんから、機能のほとんどを私が管理しています。お疲れのようなので、勝手に切り替えさせてもらいましたが、なにか不都合でもありましたか?』

「ううん。驚いちゃっただけ」

『これから元の世界に戻りますが、向こうでは魔法は使えません。マスターがどれだけ集中しても、魔力が集まることもありませんので』

「わかってるよ」

『しかしそれはイメージトレーニングができるということです。制御が不安定なマスターが魔力を暴発させる心配がありません。今回は疲れ果たしてしまいましたが、次回はそうならないように頑張りましょう』

「うん。頑張って精霊を倒そう」ましろは右腕を突き上げたが、すぐに下ろした。思っていたより疲労をしていて、肩を挙げているのが辛かったからだ。「……うん? ところで精霊ってどのくらいいるの?」

『わかりません。残党――というよりは欠片ですので、もしかしたら無限に近いかもしれません』

「前のマスターさんはどうだったの? 私たちの世界にいるような欠片じゃなくてボスみたいなのを倒してたんでしょ? それが無限にいたら戦おうとしてないよね」

『個体数は定まってませんでした。前のマスターがやり遂げたのは、人類を滅亡させるという意志を破壊したことです。簡単にいえば、無限に存在する精霊たちに命令を出していたマザーを倒したということですね』

「女王様を倒して、世界を救ったんだね」

『細かいようですが、世界を救ったのではなく人類を救ったのです。世界が人類を滅亡させようとしていたわけですから、その差異は大きいです』

「そうだった。ごめんね」

『いえ、やはり私が神経質なだけでしょう。マスターが謝る必要はありません。それと、前のマスター、それにその仲間たちはどんなことがあろうと戦うことをやめませんよ』

「どうして?」

『戦わなければ、全部失ってしまうからです。守りたいものがあったからこそ、戦い続けることができた。絶望の中に希望を見ていたわけではありません。なぜなら、前のマスターたちが人類の希望そのものでしたから』

 ましろはあの古びたフィルムの映像のような記憶を思い出していた。表情などは見えなかったが、誰一人としてあの巨大な精霊から逃げようとする者はいなかった。立ち向かい、そして堕ちていった。守りたいものを守るために、失いたくないものを失わないために、勇猛果敢に戦っていた。

 自分がいかに無責任なことを言ったのかを理解する。セレナがいた世界はこことは違う。それがわかっていたはずなのに、セレナの記憶を見たはずなのに……。

「……ごめん」

『どうして謝るのですか?』

「セレナちゃんにとって、前のマスターさんにとっては、それが当たり前で、私が住んでいる平和な世界の常識じゃ比べることができないのに、こんな質問しちゃって」

『神経質になりすぎですよ。マスターは知りたいことを知ろうとしただけです。そこに問題はありません。知ろうとすることは罪でありませんから、訊きたいことがあればなんでも言ってください。私のマスターはあなたなのですから』

「ありがと。セレナちゃんは優しいね」

『マスターほどではありませんよ』

「これからよろしく」

『こちらこそよろしくお願いします。――ああ、それと一つよろしいでしょうか』

「うん? いいよ」

『「ちゃん」付けは遠慮してもらえないでしょうか。なんだか恥ずかしいと言いますか、私には合わない気がするので』

「そんなことないよ! とっても可愛いよ! 大丈夫、自信持って!」

『いや、あの、そう言われましても……』

「わかってるよ」ましろは微笑んだ。「今のはちょっとした意地悪だったの。と言っても、私の本心だけどね。頑張ろうね、セレナ」

『はい』

「さてと、いろいろと話が逸れちゃったけど、願いを決めて帰ろうか」

『そうですね。では叶えたいと思う項目に触れてください』

 ましろは、「温かいココア」を選択した。「宿題の完成」や「新しい筆入れ」も魅力的ではあったが、今はココアを飲んで落ち着きたかったからだ。体も心も落ち着かせてから、改めてセレナと今後について話すつもりだった。

『では結界を解きます。準備はいいですか?』

「いつでも」

 今度は光に包まれることがなかった。一瞬で色褪せた世界から、ましろが知っている世界に戻ってきていた。

 手には洋封筒が握られ、ましろは郵便受けの前に立っていた。光に包まれる前と同じ状況。セレナが言っていた通り、こっちでは時間が経っていないようだ。まるで夢のような時間だった。そのことを戻ってきてから思い出したのは秘密だ。

 しかし、それが現実だったことを、体に残る疲労感と胸元にいるセレナが証明した。制服の上で、沈んでいく太陽に照らされる赤い宝石。それを繋ぐ銀色の鎖。そして首にある金属の触れているひんやりとした感触。それらすべてが現実である。

 ただ封筒の中に入っていた白い金属の板だけがなくなっていた。

「中に入ってた板はどこに行ったの?」ましろはセレナに訊いた。

『あのプレートはマスターと私の心をリンクさせるものであり、今はマスターの心の中にあります。あれは扉を開けるカギであり、また同時に扉そのものだったのです』

「あー、あのときに掴んだやつだ!」

『マスターが選択したことによって、プレートとしてのカタチは失われてしまい、目に見えなくなっていますが、私とこうして話していられるのはプレートのおかげなんです』

「へえ……、不思議空間じゃなくても不思議は残るんだね」

『不思議というものは存在しないものではなく、解明されていないもののことですから。私たち精霊も不思議ではありますが、存在はします』

「幽霊とかと同じってことかぁ」

『そういうことです』

 ましろは封筒を制服のポケットに入れ、反対側のポケットから家の鍵を取り出した。鍵には落としたときに気付けるように小さな鈴が付いている。その鈴はましろのお気に入りのものだ。

 玄関の扉に鍵を差し込み、ひねる。ガチャンと音がしたあと、鍵をひねり直し、抜き取る。その他愛のない一連の動作がなんだか懐かしいことに思え、少しだけ感動した。ようやく家に帰ってきたのだと実感できた瞬間だった。

 扉を開け、家に入る。

「ただいまー」

誰もいないため、もちろん返答はない。こうすると防犯対策になるとテレビで流れていたのを見てから、帰宅したときに家に誰もいなくても「ただいま」と言うようにしていた。

靴を脱いでから、そのまま二階にある自室へと駆け込む。

「わっ! 本当にある!」ましろは部屋の真ん中まで進み、座り込んだ。

 部屋の真ん中に置かれている脚の短いテーブルの上には、湯気の立ったカップがあった。そのカップはこの家のものではない。明らかにどこかから持ち込まれたものだ。

 両手でそっと持ち上げて、匂いを嗅いでみる。甘い匂いだった。

「セレナ! これ!」

『報酬のココアですね。おめでとうございます』

「毒とか入ってないよね?」ましろは改めて匂いを嗅いだ。もちろん甘い匂いしかしないし、仮に毒が入っていたとしてもましろにそれを嗅ぎ分けることはできなかった。

『大丈夫です。それに飲むのも飲まないのもマスターの自由です』

「ん? そうだね」ましろはセレナが助言している間にココアに口をつけていた。

『……不安はいずこへ?』

「なんか、もうどうにでもなれって思って」

『そう……ですか』

 ましろは背負っていた鞄を下ろした。さっきまで背負っていたことすら忘れていた。魔法使いの姿になったときに、いつの間にか消えていたからだろう。どうやら変身――というよりはあの服装になるときは、身に着けていたものはどこかへ行ってしまうようだ。

 あれ? と首を傾げた。結界という別の世界で着替えたのか、それともそこへ行くまでに着替えていたのか憶えていなかった。結界内ではすでにあのデタラメ軍服を着ていて……。

 考えれば考えるほど困惑した。そもそも自分の心の中にいたときはどんな格好をしていたのだろう? 制服? 裸? 思い出そうとしても、靄がかかってしまっている。自分の記憶を見ることができなかった。

「ねえ、セレナ」

『なんでしょう?』

「なんかさっきまでの記憶がめちゃくちゃなんだけど……。めちゃくちゃというか、なんか正確に思い出せない」

『それはマスターの心を整理している影響ですね。調整の方がわかりやすいかもしれません』

「え? え? 私の知らないところでなにか起きてるの?」

『いえ、マスターは知っていることですよ。私の心とリンクさせていることは話しましたよね?』

「うん、聞いた」

『それは短時間でできるものではないんです。どうしても時間がかかってしまうのです。今日一日くらいはその状態が続くと思いますが、日常生活に支障をきたすことはありません』

「なるほどぉ」

『さっきまでの記憶は、より私の心の影響が濃いですから、靄のようなものがかかってしまうかもしれませんね』

「あー、なるほどぉ」

『まあ、全部嘘ですが』

「嘘!?」

『本当は私があなたの体を乗っ取ろうとしている途中だからです。気付いたところでもう手遅れですが、冥土の土産にお教えしておきます』

「ちょっと待ってよ! 私、これからどうなっちゃうの!?」ましろは慌てふためいた。

『さあ? 人間という生き物はどうとでもなれる可能性を秘めていますから、私にはわかりかねます』

「それは体があるからだよ!」

『という冗談はさておき』

「……え? ……冗談、なの?」ましろは一転して落ち着きを取り戻した。

『ええ、冗談です。もちろん「嘘」が、ということです』

「びっくりしたぁ……」

『少しは楽になりましたか?』

 そう言われて、ようやくましろは気付いた。セレナとましろは心が繋がっている。一心同体と言っていた。それはましろの本心が、セレナには伝わってしまうということ。

 どこかで平然としていようとした自分がいたのだろう。

 不安を気付かせないように、セレナのことを気遣った自分がいたのだろう。

 ましろは自分の胸に手を当てる。そこには赤い宝石があった。

 温かい光を放った宝石。

 優しい光だった。

「ありがとう、セレナ」

『いえ、感謝されるほどのことではありません』

「それでも、ありがとう」

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