110 FireStorm in the Rain
最終決戦【ファイアー・イン・ザ・レイン:17】
EPISODE 110 「FireStorm in the Rain」
気づいた時には全てが遅かった。
――――すべては狡猾な罠だった。
ファイアストームは彼らを何としても本社ビルへ行かせるわけにはいかなかった。本社には消耗しているはずの第一陣メンバー、ローズベリーやブラックキャットたち、コウノトリなどの輸送機や脱出用の車両、そしてエーテルフィールドを持たず直接攻撃に対し非常に打たれ弱い祈り手たちが居る。
ただでさえ過酷な本社攻略中に、英雄連の大本命部隊たる陣風戦隊に後ろから攻撃を仕掛ければ、最悪壊滅すらあり得る。
ファイアストーム、クモガクレ、シャドウチェイサー、聖天使猫姫など、彼らの役目は迎撃。
第一陣、第二陣のビーストヘッド本社への殴り込みを支援し、同時に彼らの突入後から制圧完了までの間、敵を本社に寄せ付けず、撃退すること。
しかし六人の
ファイアストームは即席で一つの作戦を立てた。概要はこうだ――――。
まず、四肢のバラバラになっていないヒーローの死体を回収、ビル屋上などの目立つ場所に設置。
次に、生成できるだけの爆薬を生成し、死体の背中や物陰などに可能な限り設置。
そしてフォーカス2「サイ・ボム」の能力を利用し、英雄連専用の救援シグナル・グレネードを複製。奴等を殺す為に連中の装備は研究し尽くした。ゆえに、ファイアストームにとってはお手の物だった。
彼らが偽りの救援シグナルに引っかかった後は、ミラシリーズの女性たちとクモガクレの仕事だ。
ステルス能力者のクモガクレを使って死体の手を動かし、戦闘中の録音音声をソフィアたちに再生させ、まだ息が辛うじてあるかのように振る舞わせた。
地上降下の後、数秒でも気を引ければ作戦は成功だ。ドローンを通じて再生される音声の違和感、死体への違和感、そういったものに後から気づいても――――もう遅い。
最大火力設定のサイ・ボムが次々に爆発し、炎の嵐となって
地獄の火災旋風から逃れるのが最も遅かったのはパープル・サイクロン。エーテルフィールド、サイクロンバリア、サイクロン・コンバットアーマー、三重の守りを以てしても防御不可能な爆発を最も深い形で受けたパープルは爆発四散、金属片の混ざった細切れの焼肉と化した。
最後の冬の新月の夜、堕天の英雄を待ち受けていたのは、地獄と呼ぶことさえ生温い、狂気と執念と殺意を背負った黄泉の使者との戦いであった。
壱弐号パープル・サイクロン「佐々木」戦死。
四号レッド「會川」、五号ブルー「遠藤」
八号ピンク「北野」、九号イエロー「高原」、壱四号ホワイト「市原」、健在。
サイクロン……残り五名。
陣風戦隊の生き残りたちが辛うじて爆炎を抜ける。その被害は極めて軽微なレッドから、既に負傷の重いまで様々……。
「足が、足がああああああ!!!!!」
ホワイト・サイクロンが慟哭した。ピンク・サイクロンは彼女の姿を見ると血の気を引かせた。
彼女の両足が…………無いのだ。
初撃の爆発によって、彼女の両足は炎の嵐の中に消えてしまった…………。
上空へと逃れるサイクロンだが、夜空に三つの星が輝いた。卵型のサイキックドローン、ゴールデンアイカラーに燃える三つ葉のクローバーの花言葉は「復讐」。その紋章を威圧的に輝かせ、その銃口を彼らに向ける。
ファイアストームは彼らの緊急逃避ルートまでも予測済みだった。そして、待ち伏せていたのだ。
「避けろ! 固まるな!」
サイ・ビット3601番、武装「FN-Five-Sevenピストル」ドラムマガジン装備、装弾数100。
サイ・ビット3602番、同上。
サイ・ビット0081番、主武装「デザートイーグル50口径モデル」装弾数7発。
副武装「NAAミニリボルバー.22LRモデル」装弾数5発。
――――すべてが一斉に火を噴いた。
天使たちは迫りくる死から必死に逃れようと……
「やだよ…………」
足をもがれ涙を流す天使が一人、死神に掴まった。ホワイト・サイクロンは逃げ場を失い、金色の銃弾の嵐に呑まれる。
<< 地獄に堕ちろ >>
今際の
散開したサイクロンたちはサイ・ビットによる遠隔攻撃と、地上から発射されるホーミング弾の二つの対処を迫られる。
「フォーメーション!」
レッドが呼びかけると四人は集結し、編隊飛行を開始。彼らの正面にはファイアストームが二丁拳銃で構える。
「無駄だ! スパイラル・サイクロン・クラッシャー!!!」
先頭のレッドは飛行しながら超高速回転、ファイアストームは二丁拳銃で迎撃を行うも、すべて跳ね返される。
ファイアストームは左腕カスール砲を展開し、正面から砲撃。強力無比な一撃を受けるも、レッドの勢いは止まらない!
「無駄だ!!!」
『無駄なんかじゃない!』
ソフィアは叫ぶ!
「クモガクレ!」
ファイアストームが呼びかけると、ステルス能力を解除したクモガクレが小太刀を抜き、横から一閃。
砲撃の威力がレッド・サイクロンの動きに歪みと一瞬の停止を生み、そこをクモガクレが横から突いた。
ステルス・アタック! クモガクレの小太刀がレッド・サイクロンのコンバット・ヘルメットに斬撃を加え、切り傷を作る。ブルーとピンクが反撃しクモガクレを竜巻で吹き飛ばす。
レッドがトドメを放とうとしたが、ファイアストームの閃光手榴弾が爆発――。その隙にファイアストームとクモガクレは距離を取り、今一度仕切りなおす。
「逃がすか!」
ブルー・サイクロンが飛び、ファイアストームを追う。彼は地上を背にビルを落下しながらザウエルピストルを連射、ファイアストームがワイヤーガンで逃れるよりも早くブルーは弾幕を潜り抜け、ファイアストームの腹部に必殺のスパイラル・サイクロン・パンチを叩きこむ。
「かは……っ!」
停車していた乗用車のルーフを大きくへこませる形で激突。死神を捉えたブルー・サイクロンが馬乗りになり、マウントパンチを叩きこむ。
ファイアストームは至近距離からピストルを連射。ブルーもダメージを受ける。しかしブルーは風圧を発生させ、左手のザウエルピストルをランヤードごと吹き飛ばすとマウントパンチを強行。二度、三度と殴りつけられる。
窮地に陥ったファイアストームは義手内臓カスール砲を向けた。
――銃声。
「ぐはあっ……!」
胸部ボディーアーマーをへこませたブルーが壁まで吹き飛ばされる。ファイアストームは車のルーフから自らの身体を外し、起き上がる。
残った右のザウエルで次々降下してくる残りのサイクロン三人に向けて牽制を行いつつ、路上へと降りる。
そこへ一台の乗用車が突進! 血走った眼で運転をするのは……クランクプラズマ!
「探したぜ……俺を生かした事を後悔させてやる!!!」
ふらついていたファイアストームを全速力で撥ね飛ばす! ファイアストームは水溜まりの上に投げ出される。
激突の衝撃でクランクプラズマもフロントガラスに頭を強打。招かれざる乱入者はリトルデビルとの交戦により既に出血多量で意識を失う寸前
――――だというのに、額から血を流しながらも肩を小刻みに震わせ、彼は笑っていた。
クランクプラズマは車両のドアを蹴り飛ばすと、ずぶぬれの姿で雨の下へと転がり出る。ファイアストーム、サイクロン四名、そしてクランクプラズマに狙われた状況、絶体絶命――。
「死ね、死神!」
クランクプラズマ、三十三発チャージ済み! 連発開始!
ファイアストーム、フラグ・グレネード生成、投擲!
飛び来るプラズマショットを迎撃しながらファイアストームは後退。クランクプラズマは射撃を中断し、退避。フラグ・グレネードが炸裂し、乗りつけた自動車が小爆発を起こすと共に炎上。
サイクロン四人の放った竜巻がファイアストームを吹き飛ばす。サイ・ビットが応射し、ファイアストーム本体を守ろうともがく。
ピンク・サイクロンが突撃し、3602番ドローンにアフターバーナーキックこと、必殺のスパイラル・サイクロン・キックを放つ。ファイアストームへの攻撃集中を回避するという役割を果たし、爆散。
クランクプラズマは射撃再開。ファイアストームはザウエルピストルを撃ちながら遮蔽物に身を隠す。ザウエルピストル給弾の間も惜しく、素早く武器を二丁のワルサーPPKに変更。
建物と建物の間の細い隙間に逃げ込んだファイアストームをイエローが追う。イエローが入り込んだ瞬間、爆薬が起爆。
――――自爆も覚悟の上の攻撃で、自らの放ったエーテルの破片がノーザンヘイトの右カメラアイから光を奪う!
「うおおおおおおおおお!!!!!」
イエロー・サイクロン、咆哮しながら突撃。壁にこすりつけたコンバット・アーマーからは火花を散らし、爆風によって傷つきながらも風能力がもたらす推進力にのみによって強引にファイアストームを追う。
ファイアストームは二丁のワルサーPPKで迎え撃ち、その全弾をイエロー・サイクロンに叩きこむ。ザウエルの9mm拳銃弾に比べて非力ながらも、左右併せて計十二発のエーテル複製.380ACP弾が堕天使のコンバットアーマーの亀裂へ更に突き刺さる。
殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。殺してやる。
『ファイアストーム、もう少し耐えて! クリスマス113号が近くまで来てる!』
「必殺!!!! スパイラル・サイクロン・パンチ!!!!」
イエロー・サイクロン、魂の必殺パンチがファイアストームの顔面を捉える!!! ノーザンヘイト、ヘルメット大破!
――――しかし復讐に燃える死神の瞳の炎は未だ死なず、破損したヘルメットの奥で、エンジ色のクローバーの燃える金の瞳を燃え上がらせる!
「死ね」
ファイアストームは大きく仰け反るも、イエローのマフラーを掴んだままカスール砲を展開!
一発! 二発! ……三発! 三連続の至近距離射撃を受けイエロー・サイクロンの頭部は砕け散り、ヘルメットの破片と脳漿が壁にこびりつく。
陣風サイクロン、残すはレッド・サイクロン四号、
『……レイ! 返事して!』
ソフィアはファイアストームからのテレパスが送られてこなくなった事に恐怖を感じ、呼びかけた。
ファイアストーム、左腕付属ワイヤーガン緊急駆動! 左のワルサーPPKを取り落としたまま、建物と建物の隙間を急上昇し、クランクプラズマの射撃を逃れる。
ファイアストームのみが視る熱帯魚と泡の浮かぶ夜を越えて、狂気の復讐者は建物の屋上へ飛び出る。
真上にはブルー・サイクロンとピンク・サイクロンが待ち構えていた。
「必殺……!」「サイクロン……!」
ダブル・スパイラル・サイクロンパンチの構えを取るが、サイ・ビットが割り込み介入し、合体攻撃のテンポを遅らせる。
建物屋上のふちを蹴ってナナメに跳ぶと、ファイアストームはジャケットから複数のスローイングナイフを引き抜き双方向にバラ撒いた。爆薬付きのスローイングナイフが二者に命中し、小爆発の連鎖によるダメージを与える。
ファイアストームはマチェットを引き抜こうとするが、ブルー・サイクロンのカウンターパンチを受け吹き飛ばされる。
クモガクレがステルス化を解除しステルス・アタックを放つ。後ろからピンク・サイクロンの背中を斬りつけ、飛行ユニットを破損させた。
だが再透明化しようとした瞬間――――
「逃がさんぞ!」
レッド・サイクロンこと四号のスパイラル・サイクロン・キックがクモガクレを捉えた。クモガクレは大ダメージを受け、建物から落下。しかしレッドサイクロンは逃がさず追撃。
落下しながらクモガクレが再ステルス化を行い姿を消す。
「そこだ!!!」
「しまっ――――」
レッドは地上めがけ必殺の極大サイクロンカッターを放った。必殺のサイクロンカッターは水溜まりを割り、コンクリートの路上に深い亀裂を作り、そして透明化を行っていたクモガクレの上半身と下半身とを切り離した。
「必殺! スパイラル・サイクロン・パンチ!」
更にトドメの一撃。二分されたクモガクレの頭部を必殺の拳が捉え、地面に打ち付ける。クモガクレの頭部は砕け、雨の中に脳漿と眼球を撒き散らした。
「――――正義は必ず勝つ」
レッドこと
EPISODE「音の無い雨」へ続く。
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