114 Final Rush!!!:3


最終決戦【ファイアー・イン・ザ・レイン:21】

EPISODE 114 「Final Rush!!! ACT:3」



 ビーストヘット・プロモーション本社、二十八階。

 暗闇の雲を打ち払うための、最後の戦いが開始された。



 第一手を放ったのはベルゼロス。六枚の邪悪な翼を広げると人狼の如き獣の爪を剥き、急降下からの突撃を行った。



「フシャーッ!」「イヤーッ!」

 ローズベリーが左上段突き、ブラックキャットはシャーパ(カポエイラ横蹴り)を放ち、二人同時に迎撃。


 ローズベリーの左腕のつるが筋肉のように膨らみ、ブラックキャットの右脚の筋肉も膨らむと全力でベルゼロスを押し返す。


 ――――二人の超人的パワーを以てしてようやく互角。


 何と恐ろしい怪力、しかもこれが変身化による単なる”副産物”に過ぎないとは――。


 ベルゼロスが後ろに跳ぶ。スピーディージンジャーとポーキードラフトによる挟み込みの蹴りを受けるが、手ごたえが薄い。


 ローズベリーがつるのロープを伸ばしベルゼロスの右足を拘束。生じた隙を狙ってブラックキャットが追撃。ティミョティトラチャギ(飛び後ろ回し蹴り)がベルゼロス腹部の蛆の如き四つ目の頭部を捉える。


 ――クリティカルヒット! ベルゼロスが悶えた。効果はある。


 ベルゼロスがその怪力でつるのロープを引きちぎろうとする。ローズベリーは力を振り絞り、地面に蔓の根を張って耐えようとする。それでも一人ではベルゼロスの怪力に対抗しきれず、徐々にその身を引き寄せられる……。


 するとポーキードラフトが少女の真後ろにテレポート、脇から彼女を抱え、一緒にベルゼロスの力に対抗。


 瞬間的ではあるが飛行能力を封じた! 今が好機! スピーディージンジャーがスピードで翻弄し、ブラックキャットは異常脚力によって発揮される圧倒的パワーで畳みかけようとする。


 3コンボ、7コンボ、10コンボ……二人がかりで連撃を行うも、ベルゼロスはエーテルフィールドとその巨躯によって攻撃に耐え続ける。


「HAAAAAARGH!!!」

 ベルゼロスは奇声をあげると空中で正拳突きを繰り出す。ブラックキャットの高速の蹴りが防がれた!

 続けてバックハンドブロー! 獣の巨腕によってブラックキャットとスピーディージンジャーが薙ぎ払われる!


「チィッ!」

「させませんよ」

 バシュフルゴースト、透明化を解きベルゼロスの背後に組み付くと、巨大な蠅の羽根を一枚、背中からむしりとる。

 蠅の三つ首が金切り声をあげ、背中の傷口からは醜い色のエーテルが漏れ出す。



 ベルゼロスが大きく暴れ、ローズベリーとポーキードラフトは共に転倒。バシュフルゴーストのもとへ振り下ろしのハンマーパンチが降ろされるが、シャドウチェイサーは間一髪、教授を救い出し距離を取る。バシュフルゴーストは再度透明化。


 異形の天使は獣の腕を振るうが、ブラックキャットはそれを踏み台にして三つ首の一つにサマーソルトキックを放つ。ローズベリーは三つ首の一つにいばらのロープを飛ばし、勢いよくその首を締めあげる!


 同時、ブラックキャット渾身のネリョチャギ(踵落とし)が蠅の頭部の一つに振り下ろされる。工業汚染された川のような色のエーテルフィールドによって破砕を免れるも、衝撃を受けベルゼロスはよろめく。



 好機! ――しかしベルゼロスが抵抗、獣の爪によって棘のロープを切り裂くと、攻撃後のブラックキャットをもう片腕で掴んだ。


 そして――――飛翔! 瞬く間に10メートルはあろうかという天井まで到達し、それを蹴って反転。


 まさかあれは幻の対空忍術「飯綱イズナ落とし」の動き! ブラックキャットは逃れようとするも、獣の両腕の力は非常に強く、彼女の超人的身体能力を以てしても拘束を脱する事ができない。


「イヤーッ!」

 ローズベリーが激突地点まで走り……逆立ちとなると跳んだ!

 ハイアーセルフから流入したイメージをもとに放ったその対空技はスパイラル・キック! イギリス特殊部隊に所属したヒーローがフィニッシュムーブとして用いた必殺の蹴り技だ!


 植物のつるを纏った足がいばらを纏った槍の形となって、ベルゼロスの蠅の如き頭部の一つに突き刺さる!

 ベルゼロスの飯綱イズナ落としは失敗し、拘束が弱まった瞬間を狙いブラックキャットは脱出。ベルゼロスの胸を蹴り飛ばすとムーンサルト跳躍し着地、ローズベリーも同時に着地した。


 スパイラル・キックによるカウンターダメージは壮絶で、ベルゼロスの分厚いエーテルフィールドを以てしても吸収しきれず、蠅の目玉を潰されるほどの被害であった。狂気の王は吹き飛ばされ、じたばたともがく。


「お腹が……お腹が空いた……!!!」

 ベルゼロスは叫ぶと立ち上がり、戦闘中の五人には目もくれず上空へと飛んだ。そしてミートフックにぶらさがった肉を鷲掴みにすると地上に降り、それをバリバリと骨ごと貪った。


「おいしい……おいしい……お肉さん生まれて来てくれてありがとう……」

 王が狂気を呟くと、彼の身体には力が溢れ、破壊された頭部を再生しはじめる。


「チッ、報告通り再生するようね」

 ブラックキャットは舌打ちした。この戦闘フィールドにはミートフックで吊り下げられた大量の肉……ここは奴のための餌場フィールドだ。本社の結界を失っても尚、地の利は眼前の敵にあった。




 だが

「戦闘中よ、食事なんかさせるとでも思ってるわけ?」

 ブラックキャットは追撃! スピーディージンジャー、ポーキードラフト、ローズベリーも続く! 食事への集中で気の散ったベルゼロスは四人の攻撃をもろに受ける。


 ベルゼロスはよろめき、食事中だった肉を床に取り落とす。


「あああああっ!!!」

 ベルゼロスは反撃さえも忘れ、四つん這いで取り落とした肉へ手を伸ばそうとする。それをブラックキャットが蹴り飛ばした。


 食肉への冒涜を目の当たりにしたベルゼロスは吼えた。

「なんてことだ。このお肉を育ててくれた人達への感謝の気持ちはないのかい!!!」

「授業中に食事すると怒られるって、学校で習わなかった!?」

 ブラックキャット、ティットラチャギ(後ろ回し蹴り)! ベルゼロスの頭部の一つを打ち抜く!


 ベルゼロスは金切り声をあげ、ブラックキャットに噛みつこうとするが、首の動きが止まる。バシュフルゴーストが決死のヘッドロックによって首の一つの動きを止めた。


 バシュフルゴーストは生え際の後退した額に汗を流す。冷蔵庫内の涼しさなど感じている余裕はない、彼とてアメリカで修行を積んだサイキッカーであるが、これほどに邪悪にして強力無比な敵と対峙する事は、彼の長い人生の中でも初めての事であるからだ。


 残り二つの頭部が口を開き、バシュフルゴーストを襲った。

「教授!」「危ない!」

 スピーディージンジャーとポーキードラフトが割り込みをかけ、噛みつき攻撃を阻止!


「ARRRRRRGHHH!!!」

 ベルゼロスは恐るべき怪力を発揮し、三人が乗った状態にも関わらず立ち上がる。ブラックキャットが蹴りを放つも、それをガードし、彼女を無視して飛翔! バシュフルゴーストらはバランスを崩し跳び離れる。


 ベルゼロスはまたも空中でミートフックに手をかけると、ミートフックの金属ごと吊り下がった肉塊の一つを手に取る。


「ブラックキャットさん!」

「本気!? いいわ!」

 ローズベリーがミートフックを指差すと、その意図は伝わったもの危険なアイデアをブラックキャットは問いただしかける。しかし迷ってる暇は無かった。


「俺も行く!」

 名乗り出たポーキードラフトをローズベリーはつるでキャッチ、二人一緒に跳ぶ。その着地地点には逆立ち状態となり、身を小さく丸めたブラックキャットの姿。


 ブラックキャットの足の上にローズベリーが着地すると……ブラックキャットはスパイラル・キックでローズベリーを高速垂直射出!



「イヤーッ!」

 ローズベリーはその勢いで殺人的サマーソルトキック!!! ベルゼロスの腹部にある蛆の頭部を捉えるクリーンヒット! 狂気の王は肉塊を取り落とす。


 ベルゼロスの背後にテレポート出現したポーキードラフトがハンマーパンチでベルゼロスの首を殴りつけ、天使の羽根の一つに手をかける。ベルゼロスの拳がローズベリーを捉え、壁まで吹き飛ばす。


 ブラックキャットのスパイラル・キックによる垂直射出第二波! バシュフルゴーストが撃ちだされる! 彼は空中で透明化すると吊り下がった肉塊の一つを掴み、それを蹴ってベルゼロスの背後へ、ポーキードラフトが引き抜こうとしている天使の羽根を共に引き抜いた!




 ――――食べたい、食べたい、食べたい、食べたい、全部食べたい。




 五人の精神を侵すほどの強烈な思念が巨大冷蔵庫内に渦巻き、その悪意を背中から漏れるエーテルと共に撒き散らす。


 ベルゼロスは咆哮しながら残り四枚の翼で飛び、わざと背中から壁に体当たりした。


「ぐはっ――!」

 テレポート回避の遅れたポーキードラフト、バシュフルゴーストが共にダメージを受ける。


「ARRRRRRRRRRRRRRGHHHHHH!!!!」

 バシュフルゴーストとポーキードラフトを空中で掴み、強引に地面へ投げ飛ばす!


「教授……!」

 落下の背中、ポーキードラフトが空中でバシュフルゴーストに手を伸ばすが……届かない! 激突寸前で已む無く彼一人がテレポート。墜落してきたバシュフルゴーストをスピーディージンジャーが受け止めるも、その衝撃を殺しきれず共に固い地面の上を何度もバウンドする。



「教授! スピーディー! くそっ……」

 テレポートで衝撃を相殺したポーキードラフトが二人のもとへと駆け寄った。二人とも受け身を完全に取りきれず、激突の際に頭を強打し出血している。


 ローズベリーも壁への激突で気を失いかけ、転落中だったところをブラックキャットにキャッチされ、地面に降ろされていた。


「まだやれるわね?」

「はぁ……はぁ……大丈夫……です」

 大きく肩で息をしながらも、ローズベリーは口元の血を拭って肯定する。



 ベルゼロスは跳ぶと、冷蔵庫の壁にはあまりにも不釣り合いな銅像から、巨大な幅広の剣と日本刀を取り出し、二刀で構えた。


「呼吸が大きく乱れている。20秒稼ぐから整えなさい、いいわね」

「はい……!」

「良い子ね」

 ブラックキャットは冷蔵庫の中で深呼吸し息を整える少女の白銀の髪を優しく撫でた。


「あなた、やるわよ」

「わかってる!」

 ポーキードラフトが力強く返答。ベルゼロスは二刀の獲物を構え、頭上の肉塊をつまみ食いしながら不規則に飛行、近づいてくる。


「来るわよ」

 呟いた0.3秒後、ベルゼロスは急降下! ブラックキャットとポーキードラフトは回避!



「ウオオオオオオオオオッ!!!!」

 刀を握った拳で地面を殴りつけると、天井から釣り下がった肉塊が揺れるほどの振動が発生。ブラックキャットは持ち前の足腰で振動に耐えるが、テレポート直後のポーキードラフトがバランスを崩した。


 ベルゼロスはポーキードラフトへと真っすぐに向かう。足の止まった男を幅広のブロードソードと日本刀によって斬りつける。再テレポートによって致命傷だけは逃れるも、斬撃を肩に、そして日本刀による鋭い突きを脇腹に受けた事により出血。


 ポーキードラフトが窮地に陥ったところへブラックキャットのメイア・ルーア・ジ・コンパッソが狂気の王の腹部を捉える!


「後16秒! 死んでる暇ないわよ!」

「そんなことわかってる!」


 ポーキードラフトは痛みに耐えテレポートパンチを打ち込む! ベルゼロスの挟み込む二刀の刃を紙一重、ブラックキャットはカポエイラ側転で潜り抜け、メイア・ルーア・ジ・コンパッソでカウンターを決める。


 ベルゼロスの正拳突きを回避したポーキードラフトはブラックキャットと共にベルゼロスの足を刈る。倒れない。


 飛翔したベルゼロスは空中で逆立ち状態になり、回転しながら刃を振るう。ブラックキャット、ポーキードラフト共に身体を裂かれる。

 後12秒、こんなに長い4秒が今までの人生にあっただろうか、ポーキードラフトの心臓は今にも緊張と恐怖で張り裂けそうだった。



 姿勢を戻した狂気の王によって振り下ろされた巨大ブロードソードに対し、ヨップリギ(横回し蹴り)による側面からの蹴りを入れ、攻撃を弾くと共に同様の攻撃を瞬時にもう一度繰り出す。


 もう片腕で振り下ろされた日本刀による攻撃を、アルマーダ(カポエイラ式地上360度回転蹴り) で迎撃。手首を打ち抜くものの勢いを殺しきれず、ブラックキャットが斬り飛ばされた。エーテルフィールドとガードした脚力の丈夫さによって、辛うじて切断死は免れる。残り8秒


 ポーキードラフトはテレポートによるヒット・アンド・アウェイで攻め、三人の回復の時間を稼ぐ。残り5秒。


 ついにポーキードラフトが捕まった、テレポート先を読まれたのだ。蠅の頭部の一つがポーキードラフトの肩の肉をついばんだ。残り4秒。

 ポーキードラフトは悲鳴をあげならもテレポートで脱出。ブラックキャットが脚から出血しながらも走り、エア・トゥ・エアキックを命中させる。


 ベルゼロスはよろめくもハンマーパンチでブラックキャットを地へ叩き落とす。彼女の肋骨と背骨に鈍い衝撃。


 あと2秒。


 巨大な獣の足がブラックキャットの腹の上に落ちようとしていた。内臓を潰される――。ブラックキャットは瞬時に身を丸め、スパイラル・キックで踏みつけに対抗。


 バランスを崩した所へポーキードラフトのテレポートからの飛びかかりのパンチ。

 狂気の王がついに背中を地につけた。



 0秒。



 呼吸を整え終えたローズベリーは再発進。

 マイナス1秒、バシュフルゴーストとスピーディージンジャーも行動を再開。



 ローズベリーが瞳をくれないの色に輝かせ飛びかかる。



 その時、狂気の王の蠅の三つ首が口を開いた。可視化したエーテルの粒子が狂気の王の口に吸い込まれてゆく…………。



 ――――ヤバい。

 共に反撃に移ろうとしていたブラックキャットは恐るべき危険が自分達に迫っている事を直観的に悟った。


「退避!!!!」

 ブラックキャットは叫び、敵に飛びかかったローズベリーに体当たりし、彼女を抱きかかえた。


 蠅の三つの首から、ウグイス色の破滅的なエーテル光線が発射された。





 ――――強力極まるレーザーは冷蔵庫の壁を突き破り、本社ビルの壁を突き破り、東京の夜空を、雨を、風を、すべて突き抜けた。




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