113 Final Rush!!!:2
最終決戦【ファイアー・イン・ザ・レイン:20】
EPISODE 113 「Final Rush!!! ACT:2」
スミレダユウが敷く本社最終防衛ラインを突破し、道中までの階段と独立した大階段を登りきると、そこには戦車でも通れるのかというほどの巨大な扉が待ち構えていた。
その扉には、多くの積み重なった人々の亡骸のピラミッドの上で、笛や琴を奏でる骸骨たちの姿。白骨の踊る遥か上方、雲の上には七人の天使が君臨し、その周囲には剣と盾を持った騎士たちが、天使を守るようにして整列している。
ロダン作の地獄の門でさえこの境地には至る事はないような、邪悪と崇高さを同時に極限まで高め、それを混ぜこんだ混沌極まる扉の
ブラックキャットがまず扉に触れようとする。
<< お前たちの魂を喰らってやる。 >>
悪意に満ちたノイズを魂に聞いた彼女が本能的に身の危険を感じ、大きく後ろに離れた。
「ブラックキャットさん……!?」
「いえ……平気」
ブラックキャットのこめかみを冷や汗が伝う。
「間違いないわ、奴は逃げてなんかいない。……この先で、待ち構えている」
ブラックキャットは確信した。
もとよりこの作戦、ビーストヘッド本社の制圧による制裁行為と、社が行った悪事に関する証拠の奪取がメインであり、本社に攻め込んでも畑 和弘が潜伏、逃亡し社には居ない、という可能性は無きにしも非ずだった。
もっとも、今村らが唱えるその論に対して、ファイアストームとロッジ長のエイエンは「必ず本社に奴は籠城する」と断固唱え、今村に抗弁し続けたが……やはり二人が正しかった。
「これが最後の戦いよ、相当キツイから……覚悟なさい」
ブラックキャットが少女を見て、告げた。つい二か月前までただの平凡な少女であったこの子に、これ以上の過酷を強いるのは残酷な事だ。だが……それも、もうすぐ終わる。
「一本、行くわよ」
「お願いします」
(あ、そっか……私……)
――ブラックキャットは戦闘薬物ラストリゾート99のアンプルを取り出した時、この少女の悪夢がここで終わって欲しいと切に願う自分が居る事に、気が付いた。
「忘れないで」
少女の首筋にアンプルを突き立て、ブラックキャットは言った。
「クズをぶち殺して、無事生きて帰って、あなたが自分の人生をきちんと取り戻して、それで――――その時、初めてあなたの勝利は訪れるのよ」
ブラックキャットが少女の首に、アンプルを突き刺した。少女は全身に釘を打ちこまれるかのような激しい痛みを、歯を食いしばって、耐えた。
「それは険しい道だけど、必ず勝ちなさい」
ローズベリーは激痛に悶え両膝をついたが、ブラックキャットの手助けを受けて、立ち上がった。
「……はい」
ブラックキャットも自身の首に薬物を打ち込むと痛みに耐え、それからローズベリーと共に悪趣味極まる扉をダブル・スイート・チン・ミュージックで勢いよく蹴り飛ばした。
五人は玉座へと足を踏み入れる。――冷たい冷気が少女の頬を撫でた。
「まるで冷蔵庫ですね」
「冷蔵庫……なるほどね」
バシュフルゴーストの呟きを聞くと、ブラックキャットの思考を悪い予感が駆け抜ける。
数メートルほどの通路を抜け、血の付着したビニール製の業務用冷蔵庫のカーテンを潜り抜けると――――そこに奴は居た。
その部屋はさながら超巨大な業務用冷蔵庫。その中央で異形の化け物が背を向け、グチャグチャと床の上の巨大な皿の上に盛られた”肉”を、知性を知らぬ野生の獣のように、一心不乱に
――薬物投与を行わなければ、ローズベリーの精神はこの冷蔵庫の常軌を逸した光景に打ちのめされていたかもしれない。
ブラックキャットの悪い予感は見事に当たった。と同時、少女への身を後に襲う副作用の事を無視してでも出撃直前と今しがた、二度の薬物投与を行った事は正解であった事を確認し、それまでの迷いをその場に捨てた。
天井には多数の肉がミートフックで吊り下げられている。大きさは大小さまざまで、鶏肉、牛肉、豚肉……あとは、何の肉か深く想像すべきではない肉、それらが多種多様、すべて一人の王のために用意された「供物」であった。
「おや……」
狂気の王は心待ちにしていた来訪者の到着に気付くと、立ち上がる。その体躯はローズベリーが前回目にした時よりも二回りは大きくなっており、3メートルにも近いサイズへと成長を遂げていた。
「ここまで辿り着くとは……」
「あとはあんたを殺して、全部終わりよ」
ブラックキャットは吐き捨てるように告げた。
「そうか、まあいい」
ここまで彼女らが来たという事は、地下結界とスミレダユウたちの敷いた最終防衛ラインを遂に抜かれ、窮地に陥った事を意味するが、特にその情報にも意を介さずベルゼロスは一人の少女に目を向けた。
「それよりも、少女よ。君に言いたかった。僕のために生まれた可愛らしい小鳥よ、狂気に生き、狂気そのものとなり、よくここまで辿り着いてくれた」
「意味が、わかりません」
「なら、わかってもらえるようにお話しようか。……これが最後の会話になるからね」
ベルゼロスは三つの蠅の口元から血を
「君を知ったのは……君の友達をパーティでおいしく頂いた後の事だった。僕の楽しいパーティの内容を知りたがっている小鳥さんがいると、死んじゃった部下が教えてくれてね。
詳しく調べて居たら驚いたよ。特に、僕が食べずに放った”ケーキの包装フィルム”を取り返したいなんて、君が望んでいるとわかった時はね」
「ふざけないで! あの子との約束だったの!!」
「約束……? それはおかしいね?」
ベルゼロスは中央の蛆虫の頭部を捻り、問いただす。
「君が行動を始めたのは、僕があの子を食べてからだ。未来予知の能力? それとも……どうにかして死人と、死後に約束を結んだ?」
「それは……」
ローズベリーは言葉を失う。
「まさか、夢の中で約束したとでもいうのかい? いやいや、良いんだよ。それはロマンチックだし、私の部下や友達にも、そういう事を言う人は沢山いる。
脳が作りだした幻覚を事実として、都合の良い方便で自分や周りの大人を上手く騙して、君はかの死神、そして多くのアサシンたちを見事動かした。……立派だよ」
「違う!!!!」
「違わない。……図星だね。君は君の友達が”生まれて来た本当の意味”を全うしたことに驚き、その衝撃のあまりに幻覚を見た。そしてその幻覚を事実として仮定し……”ケーキの包装フィルム”を一生懸命探した。そしたら現実がたまたま、君の妄想と一致していた。
ハハハハハ……、僕だってちょっと食の好みは変わってるけど、僕は現実にある栄養を摂取しているだけに過ぎない。現実と妄想を混同したりはしないよ」
ベルゼロスは堂々宣告した。
「つまり何が言いたいかわかるかい? ……君は既に狂っている、現実と幻覚の区別がつかないほどにね。おめでとう、君が一番の気狂いだ」
「違わない!! 違わない!!! ……もしわたしがそうだとしても、あなたは現に私の大切な友達を奪った!!! 私はあなたを許さない!!!!!」
ローズベリーは喉が裂けるかというほどの勢いで叫び、激昂した。
「許さない……? 結構。それで? 僕を殺すのかい?」
「……」
「復讐、したいのかい? 正直に言ってごらん」
「……この気持ちが復讐なのかどうか、私にはわかりません」
「自分に嘘をつくなよ。狂っていてもいいじゃないか、復讐したくていいじゃないか、正直な気持ちで向かっておいでよ……私はその想いすべてを喰らいたいのだから」
「……ひとつだけ、わかっている事はあります」
ローズベリーは大きく呼吸をすると、地面に輝く涙を落とし、前を向いた。
「もうこれ以上、レナちゃんみたいな人達が増えないで済むように……あの子のお父さんやお母さんみたいな人が増えないで済むように、そして……あの子がずっと静かに眠っていられるように……そのためになら、私はあなたを力ずくで止めます」
そして茨城 涼子は、決定的な宣言を行った。
「……そのために、私はあなたを殺します」
『――馬鹿にしないで。その覚悟は私達に在る』
同時、ローズベリー=ハイアーセルフの強烈な思念がベルゼロスの魂を突き抜けた。
「よく言ったッッッ!!!!! それでこそ僕のディナーに相応しい!!! 待ちきれないよ! お腹がすいたよ!! 君の身体を七つに分けて! 君の未通の子宮を取り出して! 経血を
その一言を聞いた畑 和弘は狂喜乱舞するも、上空へと舞い上がると、声のトーンを急激に落とし、三枚の
「それから……君達全員の肉を調理させて、僕のために死んでいった部下たちを弔うパーティを開くよ」
ベルゼロス、畑 和弘の脳裏を、彼のために戦い、倒れていった部下たちの顔が駆け抜ける……。
アイアンハンド、
――――彼らの生まれて来た意味、彼らの命を忘れない。
Cardinal Virtues
Sacrament:【THE HOLY BODY】
「……狂気の少女よ、憶えておくがいい。復讐するは汝のみに
狂気の王は先ほどと打って変わり、厳かな宣言を行った。
「それが何? 知った事じゃないわ。惨たらしく殺してあげる」
ブラックキャットは狂気の王へ一言吐き捨てると、威圧的にテコンドーの構えを取る。
「わたしのなかのわたし……レナちゃん……力を貸して……」
ローズベリーはネックレスを握りしめ、親友が教えてくれた空手――――自分を救い、今日に至るまで導いてくれた道の構えを取った。
バシュフルゴースト、スピーディージンジャー、ポーキードラフトも続いて構えた。
決戦の間の中央上空では、狂気の王が威圧的に羽根を広げ、茶系統の
EPISODE「Final Rush!!! ACT:3」へ続く。
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