108 Final Rush!!!:1
最終決戦【ファイアー・イン・ザ・レイン:15】
EPISODE 108 「Final Rush!!! ACT:1」
ウィンターエンド作戦、フェーズ5。サン・ハンムラビ・ソサエティによるビーストヘッド・プロモーション本社上層の制圧は開始された。
「しっかり掴まってなさい!」
「大丈夫です! お願いします!」
ブラックキャットはローズベリーを背負い、その強靭な脚力によって階段を駆け上がる。それはさながら、黒き騎士が坂の上を覆う暗き雲の上にまで一人の少女を送り届けようとしているかのようだ。
ゴーストスクワッドの本社突入組三名もこれに続く。高速移動能力者「スピーディージンジャー」、ピンク色のコンバットスーツに身を包む男がリーダーのバシュフルゴーストを背負い、ブラックキャットの速度に追従、共に階段を高速で駆け上がる。
そしてポーキードラフトとナイトフォール、二人の短距離テレポート能力者組が点滅しながら階層をショートカットしていく。
ブラックキャット率いる本社攻略組の後発部隊は屋内機動力に長けた者たちが多く、本社ビルを登ってゆく速度は非常に早い。
上階を目指す一同で沈黙を破ったのはナイトフォール、彼はこう口走った。
「俺はドローンと共に、あの戦闘機使いの本体と敵VIPを捕まえに行く。ロッジ長指令だ」
「アテはあるの」
ブラックキャットが短く尋ねると、ナイトフォールはエントランスで交換した左腕を見せた。その拳で壁を軽く殴りつけ、彼はテレポート跳躍する。
「腕をこいつに交換した」
ブラックキャットが階を一つ上がると、テレポート済みのナイトフォールが待ち構えていた。彼の左前腕は本来の銀色の鋼鉄義手ではなく、カーボンフレームの黒い腕に置き換えられている。
「集音機能や音波探知機能つきの優れものだ」
コウノトリが運んできた物資の中にあった彼の腕のスペアは、
「何? そんな便利なものあるわけ?」
「ファイアストームから使い方を習った」
方便だ。厳密にはPDFファイルをファイアストームにメール転送して貰った。
「あっそ、上手くやんなさい」
「ああ、そっちもな」
そう言い残しナイトフォールは離脱。数体のサイキックドローンを引き連れ、祈り手たちや負傷者の東京脱出の障害となるメテオファイターの本体制圧、そして畑 和弘と同様に本社で籠城を行っているとされるVIP、声優事務所の社長の身柄確保へと向かう。
残り五名はそのまま真っすぐに上階を目指す。ブラックキャットは飛び出してきたタスク警備保障の残党兵士の顔面を蹴り、そのまま壁の染みの一つへと変える。
他にも三人の兵士と鉢合わせたが、スピーディージンジャーやポーキードラフトが一瞬で敵を制圧。
エントランスホールで多くの兵力を使ったせいか、抵抗は少なく、死体の数も少ない。……あとは先行したフラットがその場で敵兵を洗脳し返し、自分側の手駒に変えてしまったかだ。
すぐ二階層ほど上の地点から銃撃音が聴こえた。一行はその音を追って階段を駆け上がる。
本社ビル二十七階、玉座を手前にするその階層ではスミレダユウ、テンタクルランスによる最終防衛ラインが構築され、フラット率いるハンムラビの軍勢と熾烈な戦いを繰り広げていた。
四人の洗脳兵士がフラットを挟撃するが、フラットは精神波を左右へ放射。自衛官たちの洗脳を奪い返すと、今度は逆に鹵獲洗脳兵士として利用。兵士たちは89式小銃をスミレダユウへと向け、発砲。
「させるか!」
テンタクルランスは漆黒の槍を突き出すと、槍が変形。穂先は多数の触手へと変化し、鋭い触手となって鹵獲洗脳兵を貫く。
「おのれ、わっちの愛しの手駒たちを奪うとは卑しい淫売め!」
「私の体脂肪率、6%」
フラットは無表情でMP7サブマシンガンの引き金を引き、暗い水色の瞳を向けて言い放つ。
「女である事は辞めたの」
ハンムラビ側の兵士であるソードたちが援護射撃。フラットが接近しスミレダユウに殴りかかる。スミレダユウはこれを回避するが、「ソード2」の超越者兵も連携してスミレダユウを蹴る。スミレダユウは腕で攻撃をガード。
スミレダユウが超越者兵を呼吸投げで投げ飛ばすと、ソードの定命兵に精神波を放射し、洗脳を試みるが――違和感、コントロールをすぐに奪えない。
「無駄」
フラットがスミレダユウの腹部を殴りつける。スミレダユウは悶えた。
ソードの兵士を即洗脳可能なものと踏んでいたが、スミレダユウの目論見は失敗に終わった。洗脳に抵抗が起こったからだ。
「対策済み」
ソード2の兵士たちにこれを行う事は合意の上であったが、上階に強力な精神能力者が控えている事を把握したフラットは、彼らが敵の手に落ちることのないよう事前の「予防処置」を施した。
――――ソード2の兵士たちは既にフラットによって洗脳済み。そのために一瞬で掌握可能だったはずの
「加勢は必要?」
ブラックキャットが尋ねる。
「そうね、じゃあもう一人のあれ、少し弱らせてくれる」
フラットは指差す代わりにテンタクルランスへと銃撃。素早くサブマシンガンのマガジン交換を行う。
「いいわ、ついでだしね」
返答と共にブラックキャットが跳ぶ! テンタクルランスの触手槍が彼女を襲うが、彼女の背中からローズベリーが跳び離れると、両背中と四肢から
ブラックキャットがシャーパ(カポエイラ式横蹴り)を放つ! テンタクルランスは槍で蹴りを防ぐ。
テンタクルランスは武器の触手モードを解除し、槍を再び通常モードに戻すと向かい来るスピーディージンジャーへ突きを行う。
「ぐわあっ!」
エーテルフィールドで防御することによって貫通死は免れるもスピーディージンジャーが吹き飛ばされる。
ポーキードラフトが背後に跳躍。テンタクルランスは気配を察知し柄でポーキードラフトを殴りつける。
続いてバシュフルゴーストが側面に現れ、テンタクルランスの背中をフックパンチで殴りつけるキドニーブロー。腎臓に衝撃が伝わり、テンタクルランスの動きが止まる。
「フシャーッ!」「ヤーッ!」
怯んだところへローズベリーとブラックキャットの蹴りが同時に襲う! アリゾナ生まれの必殺の蹴り、スウィート・チン・ミュージックが二発同時に炸裂!
顎に痛打を受けテンタクルランスが壁へと吹き飛ばされる。
「ぐ……くそっ……」
テンタクルランスは顎を割られ出血。ふらつく視界の中、槍を手に立ち上がろうとする。
「こんな所でお前たちに踏みつぶされてたまるか……」
テンタクルランスもタスク警備保障の隊長格相応の実力を持っているが、なにしろ五対一、多勢に無勢と言わざるを得ない。
しかし、彼の瞳にはこの世界に対する底知れぬ憎悪と敵意が宿っており、その暗黒の感情を力の源として彼は戦いに挑み続ける。
ローズベリーは一歩前に歩み出ると、激しい戦いによってボロボロに裂けた赤いパーカーを脱ぎ捨てた。内側に着込んだ白いインナースーツが露わとなったが、肩や腕の露出を抑えるように、植物の
「踏みつぶしたのはあなたたちです」
ローズベリーの
「もう二度とあんなことはさせない」
「お前に俺の気持ちが……わかってたまるか!!」
テンタクルランスは立ち上がり、槍を突き出した。穂先が変形し無数の触手がローズベリーを襲う。
ローズベリーは触手の槍を潜り抜け、飛び込み前転から膝立ちで拳を突き出す。ローズベリーの拳から飛び出した
「わかりません」
ローズベリーは立ち上がり、決意と共に突き進む。テンタクルランスは倒れず、槍を横に薙ぐ。ローズベリーは拳を握り、蔓の腕で攻撃を受ける。
「わたしから大切な友達を奪ったあなたたちの気持ちなんて……私は理解しません」
踏み込み、左中段突き! 左横面打ち! 左
バランスを崩した所を足払い。テンタクルランス、転倒。
――――殴る、グーで。
転倒したテンタクルランスの
テンタクルランスのエーテルフィールドは割れ、血の飛沫を吐きながら、悶絶。
ローズベリーは拳を引いて残心し、憤怒の表情でテンタクルランスを見下ろす。
「あなたたちは、私の敵です」
修羅と化した少女は薔薇のイヤリングを輝かせ、こう告げた。
「あなたたちにどんな理由があっても、私は必ずあなたちを倒します」
「助かるわ。後は私とソードでトドメを刺すから、先に行って」
フラットはテンタクルランスが大幅に弱ったのを見て、一団へ先に進むように促す。
「ついでだから殺っておくわ」
一同が行った後、ブラックキャットは一人テンタクルランスを見下ろすと、彼の左胸を勢いよく踏みつける。肋骨が砕け、心臓が潰れ、テンタクルランスは大量の血を吐いて
「じゃ、あとはよろしく」
ブラックキャットはそう言い残し、フラットに任せてその場を後にした。。
フラットはスミレダユウの蹴りを受けてもエーテルフィールドと鍛え抜かれた腹筋で耐え、バックフリップで態勢を整える。
「おのれ!
激昂したスミレダユウが精神波を放射しようとするも、フラットも同様に水色の精神波を放射し相殺。
スミレダユウが接近すると、フラットと組み合う。
「どけ!」
……だが、フラットがスミレダユウの超人的な腕力を押し返す。彼女のボディースーツの筋肉が大きく盛り上がる。
精神波と精神波が互いにぶつかり合い、互いを洗脳し、以て自殺に追い込もうとする。苛烈な精神の削り合いの中、スミレダユウは仮面の奥の表情を醜く歪め、フラットはポーカーフェイスを崩さぬまま、暗い水色の瞳で敵を見据える。
「貴女にはここで消えて貰う」
テンタクルランスをノックアウトし、最大の障害となる甲種ヒーロー「スミレダユウ」をフラットが食い止めてくれている今、もはや玉座までの道のりを阻むものは無いに等しい。
「……ブラックキャットさん、行きましょう」
「そうね」
ローズベリーの言葉に振り返りブラックキャットは頷く。テンタクルランスは既に撃破したも同然、そのトドメをフラットとソード2の部隊に任せ、五人は進む!
階段の手前で守りを固めるタスク警備保障の残党兵に向かって、ローズベリーとブラックキャットが共に跳び蹴りを放つ!
兵士たちの守りは一瞬にして崩され、そこをゴーストスクワッドの三人が通る。
最終防衛ライン、突破! 残すは玉座のみ!
残った兵士たちがブラックキャットたちを引き留めようとしたが、その背中をH&K社のMP7サブマシンガンの弾が貫いた。
ローズベリーが後ろを振り返る。ソード2の兵士たちによる援護射撃だった。彼らはスミレダユウの洗脳を防ぐため、既にフラットによって事前洗脳済みであるため混濁した意識の中にあったが、ただ階段の向こうを無言で指差す。
行ってくれ。という意思を伝えようとしてくれているのが、言葉を交わさずとも彼女にはわかった。
「ありがとうございます」
ローズベリーは兵士に頭を下げると、玉座に続く最後の大階段をブラックキャットらと共に駆け上がった。
EPISODE「冷たい雨より更に冷たく」へ続く。
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