107 Flash in the Dark:3


最終決戦【ファイアー・イン・ザ・レイン:14】

EPISODE 107 「Flash in the Dark ACT:3」



 起き上がったファイアストームは暗黒の街を走り、吹き付けるみぞれ雨と風、そして爆風を抜ける。両のホルスターからザウエルピストルを引き抜き、走りながら連射。二機のドローンを下げながら、さながら魚群の如しフライヤーの小型魚雷ロケットの束を撃ち落としてゆく。


 接近。しかしフライヤーも迎撃。ファイアストームの腹部アーマーに一発の魚雷が突き刺さった。爆発。


 ファイアストームは吹き飛ばされながらも瞬時にスローイングナイフを引き抜き、投擲。爆薬付きのナイフが突き刺さり、フライヤーも小爆発で吹き飛ばされる。


 意思を持つマフラーが宙に舞ったザウエルピストルの片方をキャッチし、それを持ち主へと手渡す。ファイアストームは二つの銃をホルスターに収めると、二本のマチェットを背中から抜き突進――。



 フライヤーは魚雷ロケットを生成し迎撃を行うが、ファイアストームはマチェットでそれらを弾き、フライヤーに肉薄した。死神の斬撃を避け、カウンターの拳を打ちこむ。しかしライオットアーマーが分厚く有効打にならない。


 死神の斬り上げを避けると掌底を打ち込む。今度はエーテルフィールドとライオットアーマー、二重の防御越しにも衝撃が伝わる。

 死神の刺突がフライヤーの胸部アーマーを裂く。フライヤーは二連続バック転で距離を取りながら魚雷ロケットを発射。ファイアストーム、瞬時にカスール砲で迎撃。


 閃光を抜けてファイアストームが最接近。フライヤーは片方の刃をガントレットで受け、もう片腕を力ずくで抑え込もうとする。


 ファイアストームが膝蹴りを放ち、フライヤーは頭突きを放つ。両者に衝撃。ドローンの一機がデザートイーグルでアシスト、フライヤーの左肩が撃ち抜かれる。


 この隙を逃さずファイアストームは両腕をクロスさせ、フライヤーの左腕を狙った。



(これは。どうにもならんか……)

「さらば我が腕」

 フライヤーは覚悟し、左拳に最後の力を与え握りしめると魚雷ロケットを生成。



 ――――フライヤー参号の左腕が挟み込まれるようにして、エーテルフィールドごと強引に斬り飛ばされた。同時、至近距離で魚雷ロケットが爆発。


 ファイアストームもフライヤーも大きく吹き飛ばされる。


 二者共に立ち上がるが、ファイアストームのジャケットは爆風で破け、右肩からは血が流れる。ヘルメットも傷を負い、右カメラアイが小破。表面レンズが割れ、奥部カメラが露出。マチェットも片方を損失。


 フライヤーの傷はより深刻で、左腕を喪失し、おびただしい血を足元の水溜まりへと流している。


「やはり、ここが私の死に場所か……」

 フライヤー参号は腕の傷を見て、自らの死を悟った。


 それでも残った右腕で構え、迫りくる死神を見据える。ファイアストームは右のザウエルピストルを引き抜き射撃し、ドローンへの攻撃を阻止。


 複葉機からの爆撃と、フライヤーが空中に次々生成する魚雷ロケットを撃ち落とし、潜り抜け、ファイアストームは再接近。


 振り下ろされるマチェットをフライヤーは右手で白羽取り。危機的状況に陥り、その死を悟ってもいささかにも萎縮することなく、むしろ彼の感覚はより研ぎ澄まされている。


 ファイアストームは右のボディーブローを叩きこむ。隻腕となったためにフライヤーはガードを行えない。

 死神の左腕の砲身が展開するのを見たフライヤーは頭突きを繰り出し、敵の攻撃をキャンセルさせる。死神の右拳がフライヤーのヘルメットを捉える。マチェットの刃がフライヤーのコンバットアーマーを切り裂く。


 フライヤーは背部ホバリング・ブースターを全開にして跳び膝蹴りを放つ。死神は吹き飛ばされるが、置き土産のフラグ・グレネードを空中に残してゆく。



 ――爆発。ファイアストームはマチェットを放り、マフラー型ドローンに保持させると水溜まりに倒れたまま、右手にホルスターから抜いたザウエルP226、左手にはタクティカルサスペンダーから抜いたワルサーPPKを持ち、二丁の拳銃を乱射した。


 三機のサイ・ビットも援護射撃を行い、四方から激しい火砲を浴びせる。




 …………煙が晴れた時、フライヤー参号は両膝をつき、うつ伏せに倒れた。赤きトンボは美しき羽根をもがれ、地に堕ち、冷たい雨に濡れ……水溜まりを深紅に染めた。



 ファイアストームは立ち上がるとマチェットを手に、虫の息となったフライヤー参号へと近づいた。


「戦士として戦場で死ぬことは、本望……しかし……」

 息も絶え絶えのフライヤー参号は全身から血を噴き出し、ヘルメットの中に血を吐きながらも、自らを打ち破った死神と白いサイキックドローンを見た。


 フライヤーの視界が、闇に呑まれてゆく……。


「”正義の味方”として死ねなかった事……それだけが、心……残り……」

 フライヤー参号はそう言い残して…………死神の介錯を待つことなく、果てた。


 ファイアストームは既に事切れたフライヤー参号の心臓を、背中からマチェットで貫いた。その光景を自らの光景のように見ていたソフィアが思わず目を瞑る。


「……」

 戦士を打ち破った死神は無言でマチェットを背に戻し、水溜まりに沈んだ赤蜻蛉あかとんぼの無惨な亡骸に背を向けた。



 ☘



 ――――二十発にも及ぶ死の連撃を受け終わった時、カルマン・サイクロンの心臓の鼓動は既に停止していた。


 最後の一撃となった蹴りがカルマン・サイクロンの首を圧し折ると壁に激突し、力なく崩れる。


 ローズベリーに蹴り飛ばされたニゼル・サイクロンは片膝をつき、相方の最期と、ナイトフォールの左義手と引き換えに首を裂かれ地に倒れるセイサン・ブルーの最期を同時に目撃した。


『ザリザリ……こちら大本営、よく持ちこたえた。陣風戦隊の本隊が到着、結界守備隊の生存者は現場を放棄し撤退せよ』

「――!!」



 ――――大本営からの撤退指示。本命が作戦領域内に到達したのだ。ニゼルは立ち上がると白煙をあげる背部飛行ユニットを全開に、瀕死ながらもまだ息のあるセイサン・レッドを連れて非常口へと飛行した。


「追うか」

 ナイトフォールが非常口向けてオリンピックアームズ・ピストルを向ける。


「いえ……キリがないわ、それより結界、壊しましょ」

 ブラックキャットが言うとナイトフォールはピストルを降ろす。鋼鉄の左腕はレーザーブレードによって切断されている。


「あなたは先にエントランスまで上がってなさい」

 扉を開ける直前、ブラックキャットはローズベリーに別行動を命じた。ローズベリーにはその意図がわからなかったが、素直に従った。



 少女が背を向けた後、ブラックキャットは鋼鉄の扉を蹴り破る。


 その先の部屋には紫に光る魔法陣――結界そのもの。そして結界の前で金色のカップに生贄の心臓と血をひたし、それを捧げる祈り手たちの姿があった。



 その生贄が一体どのようにして調達されたかは明白だった。


 地下に銃声と祈り手たちの断末魔の悲鳴が響いた。




 ☘



 サイキックドローンを経由して戦況がローズベリーの頭に次々に入って来る。



 バシュフルゴーストらと猫姫たちは合流し、メテオファイター=アルファ機とセイギリボルバーを撃破。引き続きネズミ爆弾の能力者とテレポート能力者を追跡中。

 ゴーストスクワッドは二手に別れ、三名が本社攻略のために急行中。


 敵に追われていたコウノトリは無事本社付近まで到着。ソード2の部隊が降下し、フラットと共に既に本社上階の攻略を開始していた。


 ファイアストームは敵部隊と戦闘を繰り広げている、特に戦闘が激しい区域のようで戦況不明……。



 ローズベリーの気を引いたのは宇宙戦闘機ドローンの再出撃報告だった。


 猫姫とファイアストームによって一度撃退されたメテオファイターだったが、復活し本社から再出撃。リトルデビルとマーズリングがこれを食い止めている。




 ローズベリーは一人先んじてエントランスまで戻ると、応急手当中のダストパニッシャーたちと再会した。ニゼルたちの姿はない、撤退した先の二人はどうやらここを通らず逃げていったようだ。


 ホール中央には祈り手たちが円を描くようにして座り、その中心には魔法陣が浮かび上がっている。皆深く集中しており、声をかけられそうにはない。




「貰った!」

 本社上空ではリトルデビルがメテオファイター=アルファの背後につき、軽機関銃を撃った。翼を撃ち抜き、エーテルの煙を吐く。


 マーズリングも飛行し、鉄球で対空機銃の破壊やメテオファイターの攻撃を防ぐ。即時復活とはいえ、本体への負担が大きかったのかメテオファイターの動きは若干ながらも鈍っている。


 リトルデビルのアフターバーナーキックとマーズリングの鉄球がアルファ機を挟み撃ちにし、爆散せしめた。


 しかし残るベータ機がリトルデビルを無視して急降下。地面スレスレで反転しエントランスへ向かって特攻をしかけようとする。


 マーズリングも急降下し、ベータ機を力ずくで止めようとする。連射するレーザー攻撃をローズベリーとパワーローダーが食い止める。


 一発が防御をすり抜け、祈り手の一人の身体を貫いた。

「うおおおおおっ」


 マーズリングは何度も機首を殴りつけるが、止まらない。

「セツさん、避けて!」

 ローズベリーが叫ぶも声が届かない。マーズリングの鉄球がようやく追いつき、メテオファイターの翼を圧し折る。最後にパワーローダー兵が自らを盾にし、その命と引き換えにようやくメテオファイターは停止。


 鉄球がメテオファイター=ベータを圧し潰し、エーテルの塵へと変えた。



 ――――エントランスホールに再び静寂が訪れた。


「セツさん!」

 ローズベリーはセツのもとへ駆け寄った。


「私は平気です。しかし浅田さんが……」

 セツは飛び散ったコンクリート欠片で脇腹を裂いていたが、命に直結する程の傷ではない。それよりも彼女は命を散らしてしまった仲間を気にかける。


 祈り手の女性が一人、対地レーザーに胸を撃ち抜かれ絶命していた。ローズベリーは一瞬それを見るが、思わず顔を背ける。


「大丈夫!?」

 エントランスホールの轟音を聞いて、ブラックキャットとナイトフォールが駆け付ける。



 状況を確認したミラ=エイトのドローンが、状況を本部に伝える。エイエンは負傷者の撤退を指示、ダストシューター、ダストパニッシャーを引き連れコウノトリと合流するように命令が下った。


 セツは苦し気な表情でローズベリーを見る。ハンムラビの戦闘員たちが応急処置と装甲車への搬送を行うために、彼女をローズベリーから引き離す。


「ローズベリーさん。どうか真っすぐ、折れる事なく……」

 別れ際、老女は健気な眼差しで少女へと言った。




 作戦第四段階、敵魔術結界の破壊は成った。



 老女は応急手当てを受け、消耗度の大きいダストシューター、ダストパニッシャー、そして最低限以上の役目を果たした祈り手たちは、先んじて撤退準備に入る。


 ここまでの道のりと、陣風戦隊――暗黒の街を守護する堕天の番人との一対一の戦いの疲労とダメージを肉体に感じ、少女は額に汗を滲ませ、肩で大きく息を吸う。


 ローズベリーは老女たちの姿をずっと見送っていたかったし、出来る事ならコウノトリとの合流地点まで随伴したい気持ちだったが、後ろからブラックキャットの呼ぶ声が聞こえた。



 ――――わかってる。まだ、この場所を後にするわけにはいかない。



 自らがなぜこの場所に来たか、そして自分にはまだ為さなければならない事があるという事を、ローズベリーは深く理解していた。


 ローズベリーは振り返る。手袋を外したブラックキャットの指がローズベリーの頬を撫でた。その指には軟膏が塗られている。



「気休めだけど、少し塗っておくわ」

 その時はじめて、サイクロンとの戦闘で頬を負傷していた事に少女は気づく。


「盾も限界ね」

「え、あ……ほんとだ……」


 ローズベリーが後ろを振り返って、きょとんとした。シールドメイデン専用装備流用の小盾は酷使に次ぐ酷使で、ところどころが割れたり、プラズマショットの影響で溶けてしまっていたり……既にその限界を超えていた。



「気づいてなかったの? まあ無理もないけど」

 ブラックキャットはホール内に投棄された軍用コンテナを指すと、こう言う。

「コウノトリから降りて来たソード2が少しだけど、一緒に補給物資を持ってきてくれたわ。シールドメイデンの盾のスペアもあるから、今の内に交換しなさい」


「あ、はい。わかりました」

「上ではもうフラットたちが制圧を始めてる。ゴールは近いけれど、気を抜かないように」



 ウィンターエンド作戦、第五段階。本社ビルの制圧が既に始まっている。上階から微かに爆発音が少女の耳に届く。


 暴風雨を抜けて自警団「ゴーストスクワッド」の内、猫姫側に付いたシャドウチェイサーを除く三名が、撤収部隊と入れ替わる形で合流を果たした時、最後の攻撃が開始された。




EPISODE「Final Stage!!! ACT:1」へ続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る