105 Flash in the Dark:1


最終決戦【ファイアー・イン・ザ・レイン:12】

EPISODE 105 「Flash in the Dark ACT:1」



 本社前の道路と、本社庭部分を制圧したハンムラビ側勢力は、第二陣のローズベリーを先頭に、ついに悪魔の根城のエントランスホールへと到達を果たす。


 エントランスの防衛は完全に崩れ、増援は止んだ。スミレダユウは兵士を下がらせ、本命ヒーロー戦力の増援を待つために上階の守りを固めに入った。


 戦闘の一時止んだ本社エントランスは既に死屍累々の状況で、ナイトフォールが一人、バラクラバ帽から返り血をしたたらせていた。



 続けてブラックキャット、マーズリングと、遅れてハンムラビの紋章を刻む救急車型のM997を含む二台のハンヴィー装甲車が一機の軍用パワーローダーを伴って到着。

 こちらはもともとハンムラビの基地建設や海底作業などに用いられていた人型の作業用機械を、戦闘用に発展改造させた代物だ。


 ハンヴィーからは栃木軍事基地より出向した定命者モータル超越者兵オーバーマンの混成歩兵部隊、通称「ソード」が救急キットや武器を手に飛び出し、パワーローダーと共にゲート周辺とエントランス内の安全を確保する。


「ようやく来たかよ……」

 援軍の到着で一息ついたダストシューターがダストパニッシャーと共に壁際で座り込む。ダストパニッシャーは肩で大きく息をしながら死体の横で煙草に火を灯し始める。



「稲毛さん。結界、どこにあるかわかります?」

「地下に反応を感じます」

 ブラックキャットが尋ねると、稲毛は答えた。


 ソードたちはエントランス中央の死体と肉片を撤去し、パワーローダー兵が高圧洗浄機で床の血と臓物を洗い流している。こうした空間確保と急ぎの清掃も、次の呪術攻撃を行うために必要なけがれの祓いと、それに伴う整地行為だ。


「誰が壊しに行く?」

「マーズリング、あなたはここをお願いできる?」

「良いだろう」


「ナイトフォール、まだいける?」

「問題ない」

 サブマシンガンやフラグ・グレネード、それとオリンピックアームズ用の5.56mm弾を自衛隊員の死体などから補給したナイトフォールはまだ高い戦闘能力を有している。


「良し……。エイト、本部に伝えて。私とローズベリー、ナイトフォールの三人で地下の制圧に向かうわ」

『了解』


「結界破壊は一刻を争う。行くわよ」

 ブラックキャットが呼びかけると、ローズベリーは彼女の後に続こうとする。その背中に老女が一言、声をかけた。


「ローズベリーさん」

 稲毛 セツは言った。

「どうか、お気をつけて」


「はい」

 ローズベリーは小さく頷くと、本社地下の結界無力化に向かうブラックキャット、ナイトフォールに続いた。



 結界破壊組は本社地下二階まで階段で降りるも、フロアには美術品やソファー、カフェテーブルなどがあるだけ……これ以上下はない、行き止まりだ。


「こちらブラックキャット、現在地下二階。結界見つからない」

『もう少し……結界は深い所にあります』

「となると……」


「隠し階段か何か……」

 ナイトフォールが壁に飾られた絵の裏に隠しスイッチを発見し、それを押す。音を立てて奥の壁が開き、更に地下へと続くリフトがその姿を現す。

「あったぞ」

「行きましょう」


 三人とサイキックドローン二機がリフトに乗り込むと、リフトは降下……。やがてリフトが停止、非常灯のみの灯る広い地下通路に、照明が一つ、また一つと灯り始める。


 三人の正面には太陽眼六芒星の刻印された分厚い扉。そしてその前には、四人の戦士たちの瞳が闇の中で光る。


「我々は「聖餐鎮守府」……」

「そして「陣風戦隊サイクロン」……」


「セイサン・レッド」「セイサン・ブルー」

「カルマン・サイクロン」「ニゼル・サイクロン」




・乙種ヒーロー即席混成部隊「聖餐鎮守府」より


 セイサン・レッド こと「ライトソード突撃隊:弐号」

 セイサン・ブルー こと「ライトソード突撃隊:四号」



・英雄連乙種認可団体「陣風戦隊サイクロン」より


 カルマン・サイクロン こと「陣風戦隊サイクロン:拾号」

 ニゼル・サイクロン こと「陣風戦隊サイクロン:壱五号」



 点灯した照明の光が通路の奥にまで届き、結界破壊を阻む四人の番人ヒーローの輪郭を露わにする。

 レッドとブルー、二名のボディーアーマーに刻まれた数字を見て、ブラックキャットは険しい表情を浮かべた。サイクロンの一軍相当の者が二人に、もう二人はかなりの高位序列者だ。本気で挑まなければ……ここで負けて、死ぬ。


聖餐セイサン……?』

『いや、あれの中身は……「ライトソード突撃隊」だな。レーザーブレード能力者だ』

 魔術名コードネームこそ偽装だが、ナイトフォールは彼らのボディーアーマーの形状から本来の所属チームとその能力を当ててみせた。



『2号と4号……手ごわそうね』

『奴等は俺がやる』

『ローズベリー、サイクロンを倒しなさい。……加減したら殺されるわよ、この先に進みたいのなら、殺すつもりでやりなさい』

『……はい』


百合散ユリチル魔術工兵部隊、精神統一完了。15秒後に対魔術結界用の呪歌詠唱を開始します』

 三人の会話に割り込む形で、エントランスホール側から呪歌の予告が入った。

 



「ここは雲の上に座す王の城、けがれた者の足を踏み入れて良い場所ではない」

「そこ、どいて貰えるかしら?」

 セイサン・レッドとブラックキャットが睨みあう。


「出来ない相談だ。命に代えてもここは守る」

「教育上あんまりね、こういう子の前であんたをズタズタに殺したくないわけ、見逃してあげるから退きなさい」


 ブラックキャットはチラりと後ろの少女を一瞥いちべつしてから、四人に向けて降伏を勧告する。3対4で人数こそ向こうの方が上回ってこそいるが、エントランスホールを制圧され、彼らは既に孤立している。


 だが、ヒーローたちは一人として降伏しなかった。彼らは援軍の到達と形勢の逆転を信じて止まない。セイサン・レッドはむしろ威圧的に言い放った。


「ならばお前たちが死ねばいい。お前たち下位人カイジンは雲の上に座す方々の行いに不満を垂れるだけのクズで、家畜だ」



 その一言を聞いた時、ローズベリーは心の中にハイアーセルフの怒りの声を聞いた。涼子は、その声は自分の内なる声なのだと、悟った。



 ――――わかりあえない。わかってたこと。だから、わたしは戦いに来た。



「そう、一応情けはかけたからね。――死になさい」

 ブラックキャットが跳んだ! 他の六人も一斉に動く!


 ブラックキャットがソバット・キックを放つ。ブルーがエーテルフィールドを形成し、骨をきしませながら受け止める。


 三人がブラックキャットへ一斉に斬りかかろうとする所を、ナイトフォールのサブマシンガン射撃とローズベリーのエア・トゥ・エアキックが阻止する。



 ――同時、エントランスホールでは祈り手たちの呪歌の歌唱が始まった。


<< よるは >>


<< よるは もう 明けました >>



 魔女の呪いと魔術結界の不利益作用を無効化するための極めて強力な呪歌の詠唱が開始され、ローズベリーたち三人のエーテル循環率は向上、逆にヒーロー側は結界の恩恵を失う。



<< うつくしい いちにちが はじまって >>



 ナイトフォールはテレポートし、セイサン・レッドと激しく殴り合う。敵の腕に生成したレーザーブレードを潜り抜けて回避し、鋼鉄の両腕で殴りつける。

 レッドのレーザーブレード突きがナイトフォールの脇腹をかすめ、エーテルフィールドを作動させる。ナイトフォールも肘で敵の心臓を打ち付け、膝で金的を蹴り上げる。


 金的をガードし、殴り返すレッド。ナイトフォールは背後に跳躍し、レッドの膝裏を蹴り飛ばし転倒させる。倒れながら振ったレーザーブレードがナイトフォールの胸をかすめ、プレートキャリアを浅く裂いた。



<< わたしはリンゴの畑へ むかいます >>



 セイサン・ブルーがレッドのサポートに入り、ナイトフォールと格闘。その隙を狙ってブラックキャットが、一対二の状況にあるローズベリーのサポートに入る。


 ブラックキャットの強烈なアッチャオルギ(前蹴上げ)がカルマン・サイクロンの顎を捉え、天井へと吹き飛ばす。


<< このよに >> << わたしたちに >>

<< ひとのものなど >> << わがものなどは >>


<< ひとつもなく >>


 両腕に超常の植物のつるを纏った少女は叫び、ニゼル・サイクロンと殴り合う。

「サイクロン・カッター!」


 ニゼルが真空波を飛ばすも、ローズベリーが蔓のガントレットで攻撃を受け止める。傷ついた蔓が修復をすぐさま開始……。


<< すべては あなたが >> << 主が すべてを >>

<< あたえてくれた >>


「イヤーッ!」

 カウンターアタック! いばらのスパイクが飛び出した拳でヒーローを殴りつける!

 ローズベリーは更に連打で攻める! サイクロンが両手を広げ、ヘルメットアイを青く輝かせる!

「必殺!」

 同時、ローズベリー=ハイアーセルフの叫びが彼女の心に届く。

『シールド防御!』


 ローズベリーは未来予知的な動きでバックステップし、背中の蔓に装備した二枚の小盾を前方に構える。足からつるを伸ばし、重心は低く……。


「サイクロン・トルネード!」

 ニゼル・サイクロンの竜巻攻撃をローズベリーが正面から受け止めた!


 ローズベリーの瞳がくれないの色に輝く。

『「貰ったッ!」』


 ローズベリーのつるのロープがニゼル・サイクロンの腕と首を拘束。そのまま力任せに天井に、地面に叩きつける! 竜巻を喰い、陣風を握りつぶせ!



<< ちりが ちりへと 還るとき >>

<< かえるとき >>



<< はいが はいへと 還るとき >>

<< かえるとき >>



 つるを引き寄せ、ニゼル・サイクロンを蹴り飛ばす!

「うおおおおっ!」

 ニゼル・サイクロンもサイクロン・アーマーを全開にしてつるの拘束を引きちぎる。


 しかしローズベリーは間合いを詰め、飛び後ろ回し蹴りを放つ。腹部に重い衝撃を受けてニゼル・サイクロンがよろける。


 ローズベリーは蔓のロープで空中の敵の右腕を掴むと、引き寄せながら自分も跳躍! 左手で敵の右手首を掴み、敵の右脇に自身の腕を差し込む――――


 ローズベリーの脳裏に、ファイアストームとのこれまでの訓練の日々が。

 そしてローズベリー=ハイアーセルフ側から流入する記憶の光景。あの日ソフィアの見せた動き――――


 空中右一本背負い、敢行!!


 ニゼル・サイクロンが背中から地上へと叩きつけられ、コンクリートの地面に亀裂を生じさせる。ローズベリーはそのまま降下し、追い打ちの右拳を放つ。


 サイクロンも拳を突き出す。必殺のスパイラル・サイクロン・パンチだ! ローズベリーの拳とサイクロンの拳がぶつかり合う!



<< かみのものは かみのてもとへ 還ります >>



 吹き飛ばされたのはローズベリー、打ち負けたのか――否! ニゼル・サイクロンの黄色いガントレットが砕け、拳が砕けた。ローズベリーは腕を覆う蔓を破壊されたのみで、受け身を取ると新たに蔓の回復再生を開始する。


 前回の戦いではサイクロン相手に大きく後れを取ったが、まだここで負ける訳にはいかない。今度は……倒す! ローズベリーは戦闘による精神の興奮を抑えながら、大きく息を吸う。


<< このよに ひとのものなど ひとつもなく >>



 ニゼル・サイクロンのダメージは重いが……彼はまだ立ち上がりローズベリーと対峙する。カルマン・サイクロンが助けようと割り込みに入るが、それをブラックキャットが阻止に入る。


 三人の内もっとも実力の劣る彼女を一対多の状況にさせないための配慮だ。



<< すべては あなたが >> << 主が すべてを >>

<< あたえてくれた >>



 逆に最も実力のあるナイトフォールは、セイサン・レッド、セイサン・ブルーの強敵二人をたった一人で引き受け続けている。レッドとブルー、二人のレーザーブレード斬撃を鋼鉄の両腕とエーテルフィールドで強引に止め、ブルーを逆に蹴り飛ばす。


 オリンピックアームズでレッドを至近距離から連続射撃。5.56mmのライフル弾がレッドのエーテルフィールドを侵す。ピストル付きのアクスナイフで刺突、入りは浅いがレッドの胸から少量の血が飛び散る。


<< 感謝します >> << 感謝します >>

<< 感謝します >> << 感謝します >>


 背後からブルーがレーザーブレードで突くが、瞬時にナイトフォールはテレポート跳躍。あわやフレンドリー・ファイアの惨事になりかけた所を、レッドはブリッジ回避。GREAT!



 だがその眼前にスパイク付きのコンバットブーツの底が――


<< 感謝します >> << 感謝します >>

<< 感謝します >> << 感謝します >>



 頭部を思い切り踏みつけられ、レッドはヘルメットと頸椎にダメージ。反射的にナイトフォールの足首を切断にかかるも、ナイトフォールはテレポートし消失。


 同じ地点に再度出現した時には、彼は背中からハンドアックスを引き抜き、それを首へと思い切り振り下ろしていた。



<< あなたのいえを >> << あなたのせかいを >>



 当然ブルーが阻止に入るも、ナイトフォールもオリンピックアームズの残弾を撃ちきるつもりで連射。

 それでもブルーは被弾覚悟でエーテルフィールドを展開しつつ、ナイトフォールの攻撃阻止へ入った。


 ――――鮮血。セイサン・レッドの左腕が宙に舞った。セイサン・ブルーの振るった渾身のレーザーブレードはテレポート寸前だったナイトフォールの左腕を深く抉った。


 ナイトフォールはテレポートするとセイサン・ブルーの背中を踏みつけ、カルマン・サイクロンへとハンドアックスを投擲。



<< あなたの ばしょを >> << あなたのいのちを >>

<< あなたのものを いまあなたにおかえしします >>



 カルマン・サイクロンは竜巻攻撃で攻撃を弾くが、代わりにセイサン・ブルーを巻き添えにしてしまう。その反撃はナイトフォールはテレポート済みで既に姿を消した後だった。


 致命的な隙をブラックキャットは見逃さなかった。彼女のメイア・ルーア・ジ・コンパッソがアーマーの鳩尾みぞおち部にクリーンヒット。



 メイア・ルーア・ジ・フレンチ(カポエイラ式後ろ回し蹴り)、三回連続のトリョチャギ(横蹴り)、アッチャオルギ(前蹴上げ)、サマーサルトキック…………



 ブラックキャットによる、命燃え尽きるまで倒れる事さえ許されぬ死の連撃コンボが始まった。




EPISODE「Flash in the Dark ACT:2」へ続く。

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