101 吹雪に燃ゆる命:3


最終決戦【ファイアー・イン・ザ・レイン:08】

EPISODE 101 「吹雪に燃ゆる命 ACT:3」



 ブラックキャットは第二陣を離れ、ミラ8号から送られてくる情報をもとに敵を追った。彼女が欠けることは防衛力の重大な喪失ではあるが、代わりにファイアストームが入ってくれている。


 それよりあのネズミ爆弾の能力、物量が多くその上自爆攻撃をしかけて来る、非常に面倒な能力だ。ここで本体を捕まえ、抹殺する!


 彼女の超越者オーバーマンとしての超身体能力スーパーフィジカル、そして超能力者サイキッカーとして追加で増強された下肢強化の力がブラックキャットに恐るべき機動力を与える!


 対する丙種ヒーロー【ラットプロージョン】はネズミ爆弾をけしかけながら退却。更にそれをサポートする形でスミレダユウの操る洗脳ゲリラ民間人がブラックキャットを阻もうとする。



 ブラックキャットは突っ込む! 民家の屋根を飛び降って来たネズミ爆弾を蹴り飛ばしてゆく――ネズミ爆弾、次々に空中で連鎖爆発! ブラックキャットは自身が爆風に呑まれるよりも早く闇夜を舞うと、エア・トゥ・エアキックの飛び足刀で武器ごと洗脳ゲリラ民間人の腕を弾く!


 迅速に敵兵を無力化し、更に向かい来る数匹のネズミ爆弾を切り抜けながら彼女は逃亡者に追いつく! 高機動力の能力者に追い詰められたラットプロージョンはまさに袋のねずみ


「フシャーッ!」

 黒猫が牙を剥く! ターン・ネリョチャギ(回転かかと落とし)を間一髪で避けるも、低空払い蹴りから刃を切り返すが如く連携する、鋭いシャベウジコウロ(片手逆立ち回し蹴り)がラットプロージョンの側頭部を捉える!


「ぐあっ!」

 ラットプロージョンはエーテルフィールドを張って殺人的な蹴りに耐える。拳を構え次の攻撃に備えるも、テコンドーとカポエイラの入り混じった極めてトリッキーで変則的な動きに対応できず、次々と連打を受ける。


 攻撃を受けながらもラットプロージョンはネズミ爆弾を周囲に数匹生成したが、ブラックキャットには向かわせなかった、何故か?


 ――理由は明白、ネズミ爆弾をこの距離で爆発させれば自身もタダでは済まないからだ。



 ブラックキャットの重い蹴りがエーテルフィールド越しにあってもラットプロージョンの肉体を傷つけてゆく、ティッチャギ(後ろ蹴り)がラットプロージョンの肋骨をボキリと圧し折り、折れた骨が彼の肝臓を裂く。


 ラットプロージョンの口から血の飛沫が噴き出す。

 彼はこの黒き貴婦人に戦いを挑んではならなかった。片や距離を取っての爆撃に適した遠隔能力者、対して彼女は肉弾戦に特化した格闘系の能力者……この戦いは、ラットプロージョンがブラックキャットに追いつかれてしまった時点で、既に結果の決まってしまっていたことなのだ。


 処刑ころされる――――。ラットプロージョンは死を覚悟した。


 ブラックキャットはメイア・ルーア・ジ・コンパッソの連撃から回転チャギによるフィニッシュを狙おうとしていたが、彼を救う者が間一髪、それを阻止しにかかった。


 ――ステルス・アタック! 超スピードで向かって来た影がブラックキャットにドロップキックを放つ! ブラックキャットはガード自体には成功するも、新手の不意打ちを受け吹き飛ばされる!


「遅れて済まなかった。でも私が来たからにはもう安心だ!」


 ブラックキャットは受け身と共に雪を振り払うようにして起き上がり、新手を見る。黄色とオレンジのレーサースーツ風コスチュームに身を包む男は決めポーズを取り、キックボクシングの構えを披露する。



「俺は正義のヒーロー「ロードランナー」! 下劣なる悪の下位人カイジンめ、俺たちの大切な仲間に手を出すとは許せん! 俺が相手になってやる!」


 丙種ヒーロー【ロードランナー】が参上! スミレダユウに託された伝令の任務をこなし、その後自ら他ヒーロー戦力の援護にやってきた男だ。


「”100万回きいた”わ、そういうの」


 ブラックキャットはつまらなさそうにヒーローを皮肉ると同時に地面を蹴り、風を切って突撃。次々と現れる一山いくらのヒーローが一人増えた所で、それに構っている暇は無し、葬りたいのはネズミ爆弾の使い手であるという事実は揺らがない!


 しかし彼女の放った必殺のティミョヨプチャギ(飛び横蹴り)をロードランナーは同じく蹴りで迎撃!

 彼女の殺人脚力を受け流した!?



「ここは俺に任せて行け!」

「た、助かる!」


 頭から血を流すラットプロージョンが、脇腹を押さえながらも立ち上がり逃走を図る。ブラックキャットは当然追撃のブラジリアンキックを放とうとするが――


「行かせるか!」

 ――やはりロードランナーが攻撃を止めた! 攻撃の出がかりを狙って勢いよくショルダータックル!


「いいや行かせる! 人の命を守る事こそが俺たちヒーローの使命なのだから!」


 その優れた筋力によって倒れる事こそないものの、ブラックキャットは攻撃の威力を完全に殺される。バックステップしながら蹴りを放つが、ロードランナーもスウェーバックで避けた!


 ロードランナーはカウンターの高速キックを放つが、ブラックキャットも同じくキックで迎撃。


献金カネの守り手がほざくってわけ?」

 貴婦人の瞳はエメラルド色に輝き燃える。二者は睨みあった。



 ☘



 ラットプロージョンのネズミ爆弾攻撃の脅威から逃れた第二陣トラックは住宅街を抜け、大通りとなる四車線道路へと侵入した。ファイアストームとローズベリーは吹雪の先にこの決戦の目的地、ビーストヘッド本社ビルを見る。


 夜のとばりの中にあっても眠りを知らぬ暗黒の街の欲望のネオンサイン、その後ろにそびえ立つ一つの摩天楼の姿在り。敵本拠地は目前、つまり敵の攻撃もここから本格的になるだろう。



 その時である。



 ――愚かな悪の下位人共め、わっちを前にして小細工を隠し通せるとでも?



 狂気の世界に近しい場所に心を置くファイアストームとローズベリーの二人だけが、その悪意に満ちた女性の恐ろしい声を幻聴のように聞き取った。


 ローズベリーは背中と耳に生温なまぬるい不気味な感触を感じ、身体を震わせる。



 直後、対向車線より一般車をバイクを撥ね飛ばしながら黒い車両が三台、ディーゼル音を響かせ爆走接近。その内一台は自ら反対車線に乗り出し、軽自動車を突き飛ばすようにして強引にポジションを確保、停車する。


 漆黒に塗装されたその八輪の車は、通常の車両ではない。塗装こそ違うがあれは――


 96式装輪装甲車……? まさか陸上自衛隊の持ち物まで持ち出してくるとは。装甲車の後部ハッチが開き、バラクラバ帽を被った黒服の男たちが次々に64式小銃や89式小銃を持ったまま車内から飛び出してゆく。

 彼らの胸にはタスク警備保障のエンブレムが刻まれているが……


「タスク……違うな」

「あれは……まさか自衛隊か?」

 ファイアストームとマーズリングの二人は黒い敵戦闘員の携行装備や身のこなしなどを見て、彼らが実際にはタスク警備保障の警備兵ではない事を即座に見抜く。


 偽装洗脳兵はハンムラビ突入部隊第二陣に狙いを定め、戦いを挑んだ。運転手はハンドルを切り、マーズリングは二つの鉄球と鎧に身を包んだ己が身をを用いて祈り手たちの盾となる。ローズベリーも同じく防御に回る。



 敵の動きがこれまでと違う。装備も、その練度も今までのものより二段は上がっており、統率が取れている。厄介だ。

 新手の偽装洗脳兵の正体は陸上自衛隊員。東京23区内で大っぴらに自衛隊を動かすことを嫌った英雄連が、苦肉の策としてスミレダユウを用い自衛隊員を洗脳。表向きタスクの兵力として計上することで偽装を図ったのである。



「恐らく洗脳済みだ」

『うっそ、一粒で二度徴兵? 二重派遣禁止法はどこいったんですか!?』


 ファイアストームはOSV-96アンチマテリアルライフルを持ってデリバリー車のルーフから跳び、自衛官たちの攻撃を引き付ける。64式小銃の7.62mm弾と装甲車上の12.7mm機関銃の危険な弾丸を背に道路を駆け抜けると、街灯にワイヤーを伸ばし跳躍。



「さあな、それよりも……」


 それを足場にマンションのベランダへ逃げ込むと、まずは素早くアンチマテリアルライフルを一発。カーブしたエーテル複製12.7mm弾がホーミングし、上部装甲からブチ抜くような一撃で装甲車を一台撃破。

 

「戦車は出てこないようだが、もっとタチの悪いのも居るぞ」


 兵士たちが装甲車の爆発に巻き込まれる中、爆発直前に跳び、エーテルフィールドの展開によって死を免れた兵士が三人……すべて超越者オーバーマンか。


 敵兵士がマンションめがけて89式小銃の拡張装備であるライフルグレネードを容赦なく撃つ! ファイアストームはマンション屋上へと逃れるも、ベランダは爆発によって崩落。


 超能力者サイキッカーの関わる魔術戦とはいえ、戦闘規模と民間人の被害の大きさが超常性バイアスによって補正される認識の限界を上回り、周辺一帯に市民のパニックと悲鳴を響かせる。



 ファイアストームは装甲車撃破を継続。次なる引き金を引き、二台目の装甲車を撃破。



『もっともっとタチの悪いの来てる。敵サイキッカー接近中』

「数は」

『1、いいえ……』

 タスク警備保障 「メテオファイター」のベータ機も対地レーザーを発射しながら乱入! マーズリングが鉄球で防御を行う。



『2です』

 メテオファイター=ベータの操縦席から一人の男が飛び降りる。ファイアストームはアンチマテリアルライフルで撃ち落としにかかる。ホーミングした弾丸が空中の男を捉えたかに見えた……が命中寸前、男の姿が消えた。



 短距離テレポートで狙撃を躱したヒーロー【アライブド】が出現! ファイアストームの狙撃を封じるべく接近し殴りかかる。



 ファイアストームはアンチマテリアルライフルを決断的に放棄し拳を受け流す。カウンターのフリッカージャブを打ちこむもアライブドはテレポート。


 しかしテレポート直後、アライブドの顔面に衝撃走る。――躰道たいどうの必殺シュリンプ・キックによって、彼は死神のブーツを味わっていた。アライブドはダメージよりもまず、テレポートを見切られた事に困惑した。



(何っ!? 見えていないはずでは……!?)


 ファイアストームの首後ろに触手を繋げたミラ36号のドローンが一機、彼の背後をカバーしていた。背中と腰、三機のドローンが一時的に離れ、ファイアストームの死角をカバー。


 アライブドは蹴る。ファイアストームは左拳の上げ受けによって蹴りを受け止めると同時、右ホルスターからのザウエルをクイックドローし三連射。


 射撃と同時、アライブドは短距離テレポートによって跳躍するが、跳躍先をサイキックドローンが素早く見つけ出す。放った弾丸が急カーブし、跳躍先のアライブドの額と肩を捉えた。


 ファイアストームは大きく踏み込み、怯んだアライブドの人中じんちゅうへ人差し指一本拳・上段突きを打ちこみ、崩しを入れた後、敵の耳を掴みながら投げ技「体落とし」によって地面へ叩きつけようとする。

 アライブドは後頭部を地面に強打する寸前にテレポート。隣の建物の屋上に出現すると、額からうっすらと流れる血を戦慄の情と共に拭った。



「バカな……俺の動きが見えているとでも……」

 …………恐るべき反応速度、テレポートを見切られている。



『ゴールデンアイモード……作動』

 首にくっついたミラ36号のドローンの一機は大きく形状を変え、ファイアストームの首を守る布のように薄く長く巻き付く……まるで大昔のヒーローが着用するマフラーのようだった。



 しかし、その超常の白きマフラーには乙女の意思が宿り、それは今や死神と一つにある。

『視えています。あなたの動きは、すべて……』

 風になびく白いマフラーより発せられるテレパスがアライブドの脳内に直接響き

『ノーマーシー(汝に慈悲無し)。あなたは死ぬ運命さだめにあります』

 と、慈悲なきブルタルな死を宣告した。



「……くっ!」

 最大の武器をすべて見切られ萎縮いしゅくしたアライブドは戦略的撤退。とりあえず一人退かせるものの、地上の戦況は厳しい。装甲車が一台、メテオファイターの戦闘機ドローンが一機、超越者が三名、他にも定命モータルといえど訓練を受けた歩兵がまだ多数。


 装甲を強化しているとはいえクイックデリバリー車の耐久度もそろそろ厳しい状況で、荷台にはおびただしい弾痕が刻まれ、側面からタイヤへの銃撃を止める装甲板は脱落。フロントガラスやテールランプは粉々になってしまっている。



 多勢に無勢――しかしハンムラビ側も援軍が間に合った。


『ミラ24号「ツクヨ」より、お待たせしました』


 ミラ24号のテレパス通信と共に現れたのは一台のサイドカー付きウラルバイクだった。あの控えめなファイアパターン塗装とエンジ色のクローバーのエンブレムは間違いない、高速道路上での戦闘で一度破損し、その後修理に出していたファイアストーム仕様のものだ。



 バイク本体には魔術名コードネーム【フラット】の姿、サイドカーには東北支部ステルス能力者の【クモガクレ】が搭乗。彼の肩には……ジャベリンミサイルだ!


 クモガクレはサイドカーから路上へ転がり出ると、膝立ちとなって武器を構え、情け容赦なしの対戦車ミサイルを敵めがけて発射!


 雪を溶かし闇を照らす激しいバックブラストを放ちながらミサイル飛翔……着弾! いかずちの如き轟音と共に闇夜は赤く染まり、装甲車は爆散! 激しい爆発が敵性超越者オーバーマンの一人を呑みこみ焼き滅ぼす。


 洗脳兵がウラルバイクへ向けて射撃を行うが、フラットは精神波を放射。兵士が小銃を地面に取り落とし、苦し気に頭を両手で抑える。


 フラットの暗い水色の瞳が、兵士の後ろでわらうスミレ色の女性の幻影を見た。


「――やはり”同類”、精神能力者による洗脳ね」

 フラットの精神波が兵士の心にマインドハックを仕掛け、スミレダユウのハッキング状態を解除する。洗脳の解けた兵士は気を失いその場に崩れた。


 クモガクレは撃ち終わったジャベリンミサイルを放棄すると跳躍。透明化能力によって姿を己が存在を闇に溶かすと共に間合いを詰め、ステルス・アタックによって敵兵士たちを倒してゆく。



「少し速度を出します! 揺れるので掴まっていてください!」

 荷台の祈り手たちに声をかけると、運転手は肩と頬から血を流しながらアクセルを強めに踏んだ。車内では老女たちが祈るように真言マントラを唱え続けている。



 この機に乗じて傷だらけの装甲クイックデリバリー車は本社を目指す。マーズリングとローズベリーも、メテオファイターの対地攻撃と洗脳兵士たちの攻撃を防ぎながら車両に追従。



 ファイアストームはエンハンスド・カービンの引き金を引き、メテオファイター=ベータ機の注意を引き、ローズベリーたちの進軍をサポートした。





EPISODE「アメノナカ ノ ホノオ ACT:1」へ続く。

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