100 吹雪に燃ゆる命:2


最終決戦【ファイアー・イン・ザ・レイン:07】

EPISODE 100 「吹雪に燃ゆる命 ACT:2」




 ビーストヘット本社ビルを目指し、吹雪の中を一台の偽装クイックデリバリー車が進む。車内にはひ弱な祈り手たちが載せられており、稲毛らを始めとするこの人々を守り切らねばならぬ。


 守るのはローズベリー、ブラックキャット、マーズリングの三名。上空ではサイキックドローンも複数機がせわしなく索敵を行い、伏兵によるゲリラ攻撃に備えている。


 三人の頭には本部からのテレパス通信によって情報が次々と伝達される。他チームの奮戦のお陰で戦況は良い方向へと向かいつつあるようだ。


 他には注意喚起として、例の”戦闘機使い”、即ち「メテオファイター」の出現観測に伴う対地レーザー攻撃への注意喚起。

 ほかにも精神能力者が大量の民間人を兵士として潜伏させているとの警告も上がってきている。



 通信のお陰で第二陣は胡乱うろんなるゲリラ兵の正体を理解こそするものの、依然としてそれらゲリラ攻撃の脅威にさらされ続けていた。


「殺してやる!」

 コントロールされた憎悪の感情をむき出しにする洗脳ゲリラ民間人が次々飛び出し武器を構える。彼らは兵士としての練度や動きも鈍いどころか、武器も粗悪なコピーカラシニコフやトカレフ拳銃のような代物が大半。


 洗脳ゲリラ民間人がAK-47ライフルの引き金を力いっぱいに引くものの、ただでさえ射撃反動の強いライフルの、フルオート射撃の強力な反動を制御しきれず銃口があっという間に空を向いてしまう。


 その内の僅かな流れ弾をマーズリングはキネシス制御の鉄球で防御、跳弾した弾が他のゲリラ兵士の足を運悪く傷つける。


 足を傷つけ倒れた中年男は横になったまま拳銃をローズベリーへと向ける。彼女の赤いパーカーの背部スリットから植物のつるが伸びた。そして伸びる二本の蔓の先端には小型の盾が付属している。



 ――それは争いの世界を退しりぞき引退した元アサシンの、そして一時期ファイアストームのサイドキックでもあった暗黒の戦乙女「シールドメイデン」が残していった装備、そして今はローズベリーへと受け継がれた新たなる力!



 鋭いデザインの小型カイトシールドが洗脳ゲリラ民間人の放った拳銃弾を容易に弾くと、もう一方の盾でその敵を殴打する。

「ごめんなさい!」

 ガツン、という衝撃音と共に、男は頭から少量の血を流し路上へと崩れた。


「大丈夫、だよね……?」

 最大限の加減は行っているから殺してはいないと信じているが、こうした経験は多くないため、やはり不安が心に残る。



「他人の心配してる暇ないわよ!」


 車体の防御をマーズリングに任せ、ローズベリーとブラックキャットは散発的に襲ってくる洗脳ゲリラ民間兵を一人ずつノックアウトしてゆく。


 しかしブラックキャットはその中に混ざる別の存在を確認する。

(……ネズミ?)


 それは一見すると肥え太ったやや大柄なネズミだった。――その背中にアンテナが突き刺され、先端が赤く点滅すると共に、いかにも危険な電子パルス音を鳴らして走って来る事以外は。


「新手よ!」

 その姿に、ブラックキャットが直感的に重大な危険を感じ取り、叫んだ。



 ピッ、ピッ、ピッ……と不穏な音を鳴らしながらネズミは走ってくると……突如爆発を起こした! ネズミ爆弾の破片がエーテルの爆風と共に飛散し、デリバリー車に不意打ちの損傷を与えた。


「爆弾か!?」

「ネズミが爆発した!」

 ブラックキャットはただ目にしたものを空中のマーズリングに伝える。


「ドローン爆弾か!」


 ネズミ爆弾は一匹では終わらなかった。四方から五匹、十匹とネズミ爆弾が押し寄せて来る。


「エイト、周辺にドローン使いのサイキッカーがいないか探して!」

『ただちに』


「ローズベリー、敵よ! 近づけさせない!」

「は、はいッ!」


 ブラックキャットは急いで気絶した洗脳ゲリラ民間人からライフルを強奪し、マーズリングとローズベリーはそれぞれ自身の装備でネズミ爆弾の駆除にあたる。


 マーズリングの二つの鉄球が落下し、ネズミ爆弾を押しつぶす、と同時陥没した地面の下で爆発。ローズベリーがつるに装備した盾で薙ぎ、ブラックキャットがライフルで撃ち抜く。


 ――ネズミ爆弾が一つ、二つ、三つ、次々爆発してゆく。


 ネズミ爆弾の第一波を乗り越えるも、次は二十匹の第二波ネズミ爆弾が向かってくる。三人はデリバリー車を守るようにして路地から向かってくるネズミ爆弾を駆除していくが、数が多い。



 一匹が住宅街の塀を飛び、上空から仕掛けてくる――爆発! デリバリー車のフロントガラスが割れ、破片が運転手に当たる。彼は超越者オーバーマンであるためこの程度の衝撃なら深手を負う事はないものの、車体やその中の祈り手たちは別だ。


 特に荷台の装甲を抜かれ、一匹でもネズミ爆弾が内部に入り込むような事があれば、一瞬で百合散ユリチル魔術工兵部隊が全滅してしまう事さえ考えられる。



 爆弾ネズミが次々爆発! ローズベリーが至近距離での爆発に巻き込まれも、シールドメイデンの盾のお陰で重大なダメージを免れる。


 吹き飛ばされたローズベリーに更なるネズミ爆弾が飛びかかろうとするも、マーズリングが割り込み! 少女の前に立った大男はネズミ爆弾を臆せず殴り飛ばす!

 ネズミ爆弾は3メートルほど吹き飛んだ空中で自爆! 爆風が襲うもマーズリングの重装甲の鎧がダメージを吸収する。


「お嬢さん、平気か」

「すみません、大丈夫です」

 この機にローズベリーは立ち上がり、後ろから回り込んでくるネズミ爆弾を蔓のロープでキャッチ、空中へと放り投げる――爆発。



 ネズミ爆弾の第二波を切り抜けた一行だが、敵は息つく間を与えてくれない。



『ミラ=エイトより、ドローン爆弾の第三波接近中、更に数が増えています』

 エイトのドローンが上空からネズミの群れを発見する。


 第三波が接近中! 次のネズミ爆弾は――


『数、およそ30』

 ――総勢三十匹だ! カミカゼのバーゲンセール!


「冗談キツくなってきたわね」

 ブラックキャットは拾ったトカレフ拳銃を構えるも、彼女の心にさえ焦りが生まれる。三人共に機動力を持つ能力者であるため、このネズミ爆弾の津波から逃れる事だけならば可能、しかしデリバリー車を守らねばならないため、一歩たりとも退く事が出来ない。



『ミラ=サーティン・シックスより第二陣へ』

「まだ何かあんの!?」

『グッドニュース、嵐が到来』


 ようやく待望の助け舟、ファイアストームが到着! 彼一人を現場に置いて、リトルデビルは次の地点へ向かう。


 民家の屋根を飛び、デリバリー車の上に立ったファイアストームは、アンチマテリアルライフルを置くと共に二丁のワルサーPPKピストルをタクティカルサスペンダー備え付けの胸部ホルスターより抜く。


『サイ・ビット、どうする?』

 上空の0036番ドローンからソフィアは尋ねる。彼の腰と背部、三機の武装ドローンは未だ沈黙を守っていた。


「先は長い、真打が来るまで極力魔力はセーブしていく」

『わかった』


 攻撃第三波、三十匹のネズミ爆弾が迫る。ファイアストームの右カメラアイは吹雪の中にあっても黄泉の空の如く金色に輝き続けている。



 ファイアストーム、迎撃開始。ホーミング弾で小型の目標を次々と精確に撃ち抜いて行く。金色の淡い薬莢が吐きだされ、デリバリー車の屋根を跳ねては、散って消える。


 ネズミ爆弾の爆発が闇をおぼろげに照らす。マーズリングも駆除をアシストし、ローズベリーとブラックキャットは車両への防御を固める。



 第三波、処理成功。ネズミ爆弾の破片が車両に傷跡を作り、運転手も負傷状態にあるものの、作戦の続行は可能。



 ネズミ爆弾の第四波はすぐには来なかった事により一同は相手の手が一旦休まった事を悟る。

『ドローンが不審な人影を発見、動きから能力者サイキッカーの可能性あり』

 ミラ8号の操作するサイキックドローンの一機が距離を取って離れてゆく男、英雄連サイドの丙種ヒーロー【ラットプロージョン】の姿を一瞬であるが確認した。


「ブラックキャット、行け」

「エイト、ナビして」

『了解』


 浅川 ケイのエーテルによって変色したピンク色のショートヘアがなびく。彼女の腿とふくらはぎの筋肉が僅かに膨らみ、瞳はエメラルドに淡く発光する。


「それじゃ――ちょっとネズミ狩りいってくる」

 直後、黒き貴婦人は言葉だけを置き去りにして、目にもとまらぬ速度で杉並区の住宅街を駆けて行った――――。



 ☘



 本社入口エントランスでは戦闘を繰り広げるダストシューターが警備兵の一人を掴む。彼が後ろを向くと、そこには相方が召喚したゴミ収集車が大口を開けて生贄を求めている姿がその目に映る。


「は、離せ!」

 警備兵が抵抗するもダストシューターは手を離さない。それどころか狙いを定め……彼の能力によって警備兵を高速で撃ちだす!


「ゴミ野郎を相方の荷台にシュゥゥゥゥーート!!!」

 超常の斥力せきりょくによって吹き飛ばされた警備兵がゴミ収集車の荷台の口に放り込まれる! ダストシューター、納得のガッツポーズ!


「YOKOHAMAエコ活!!!」

 収集車の横で待ち受けていたダストパニッシャーはアドレナリン全開! ゴミ収集車のボタンを勢いよく押した! Super Exciting!!!


 横浜市資源循環局のゴミ収集車が日常的に流す「故郷の空」の和やかな電子音楽が殺伐とした殺し合いのフィールドに流れる……。




『横浜市 消防局からのお願いです。救急車は、事故や病気などで、緊急に病院へ搬送する必要がある場合に利用するものです』

 ゴミ収集車から、女性の放送音声が流れる。ゴミ収集車の回転板は回り、警備兵の上半身を挟み込む。


「た、助けてくれえええええええ!!!!」

 警備兵、絶叫。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


 グチャグチャ、ベキ、バキ、ゴギリ…………ダストパニッシャーは意に介さず、クールな無情報ではみ出した警備兵の下半身もゴミ収集車の中に放り込む。淡々とした仕事の動作だ……。


『正しい救急車の利用に、ご協力をお願いいたします』


「な……」

「マジかよ……」

 救急車どころの騒ぎではない。常軌を逸した処刑方法にクロガネメイル、ドラゴンヘッド共に閉口した。ハンムラビのアサシンが冷徹無慈悲な殺しを行う事は噂に聞いたことがあったが……こんなにも恐ろしい処刑を平然と行うのか…………?


「余所見か?」

 敵が狼狽えた隙を見てナイトフォールがピストル射撃! 狙いは高防御力で崩しにくいクロガネメイルではなく、新たに現れた丙種ヒーロー「ドラゴンヘッド」である。


「グウウッ!」

 変身能力によって等身大サイズの二足歩行竜人の姿を取った彼の身を黄色いエーテルフィールドが守る。通常の火器で弾丸がエーテルフィールドをなかなか貫通しきれない事は織り込み済み、ナイトフォールはすかさずテレポート跳躍し、間合いを詰める。


 鋼鉄のジャブパンチ、ピストルにアタッチメントされたアクスナイフによる斬撃、銃撃、ストレートパンチ。


 一歩間違えれば次は自分があのゴミ収集車の餌食となる事を想像してしまったドラゴンヘッドだが、彼はそのような恐ろしい死に方など覚悟が出来てはおらず、萎縮してしまったせいでナイトフォールの連打に対処できない。


 そして動きは鈍り、彼の死に至るまでのスピードは皮肉にも早まってゆく。



 ドラゴンヘッドが口を開き、必殺の火球を吐きだそうとするが、精彩せいさいを欠いた動きを完全に見切られ、下から突き上げる鋼鉄の掌底によって龍の顎を天井向けてずらされる。火球は大きく狙いを逸れ、エントランスの天井へとぶつかった。火の粉と共に天井のガレキが崩れ落ちて来る。


 助けようとクロガネメイルが横から日本刀による突きを放つも、ナイトフォールはテレポートを行い眼前から姿を消す。クロガネメイルは相手が後ろに回ったと思い刃を後方へと振りぬくが、ナイトフォールは裏をかいて左側面へ出現。

 ナイトフォールは左手でコンバットナイフを引き抜き、クロガネメイルが左を向くのに合わせて――――。


 クロガネメイルの油断を突いて、彼の全身甲冑の目元の細い隙間の内部へコンバットナイフが突き刺さった。

 その一か所は、クロガネメイルの生成甲冑の物理防御が最も弱い場所であるにも関わらず、エーテルフィールドによる超常防御の意識さえもおろそかになっていた。


 クロガネメイルが悲鳴をあげる。ナイトフォールが引き抜いたナイフの先端には血が付着、クロガネメイルの右の瞳からは光が失われた。





EPISODE「吹雪に燃ゆる命 ACT:3:」へ続く。

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