098 最後の雪へと零れる血:2
最終決戦【ファイアー・イン・ザ・レイン:05】
EPISODE 098 「最後の雪へと零れる血 ACT:2」
突入部隊第一陣が戦うエントランスホールでは、ハンムラビのサイキッカー三名がビーストヘットの手足たるタスク警備保障の残党と激しい戦闘を繰り広げていた。
清掃服に身を包む女性サイキッカー、ダストパニッシャーが自身の能力を終了させる。壁に突っ込んでいたゴミ収集車がエーテルの塵となって雲散。
「リブート!」
しかし、さらに再起動を行う。庭側から流入してきた警備兵の真上にゴミ収集車出現! プレス・キル! ダストシューターは飛来したライフル弾を超常の
ナイトフォールは鋼鉄の腕で警備兵の首を掴みあげると壁に叩きつけ、もう片腕でライフルを連射し弾幕を張る。
弱体化中とはいえ三人の訓練された能力者を相手に、
警備兵の中に混じった黒服バラクラバ帽の兵士をナイトフォールは射殺。
「……」
この場でただ一人、ナイトフォールだけがその手ごたえに若干ながらも違和感を覚えた。何かが、おかしい。
しかし多くを考える余裕はナイトフォールに無かった。手榴弾の爆発を潜り抜け、戦国鋼鉄甲冑に身を包んだ武者男が乱入。
ナイトフォールはライフルの残弾をすべて鎧武者へと撃ちこむが、外傷を与えるどころかエーテルフィールドさえ起動させる事ができない。
(硬いな。硬化系の能力者か)
弾丸の雨を抜けた鎧武者が抜刀しナイトフォールへと切りかかる! ナイトフォールも鋼鉄の腕で刃を受け止める!
「俺はクロガネメイル、お前を倒してボーナス六倍だ」
英雄連陣営 丙種認可ヒーロー クロガネメイルが関東横浜支部のエースに挑む!
ナイトフォールはライフルを後ろに投げ捨てる、と同時にテレポート跳躍。同士討ちの危険が無くなった瞬間、ダストパニッシャーが間髪入れずライフル弾を撃ちこみ、ダストシューターが手榴弾を超常斥力によって高速射出する連携攻撃!
「ふざけんな! こっちは四倍しか出ないんだぞ! 命がけで仕送りする立場にもなれクソジジイ!」
「効かん!」
爆発――されどクロガネメイル健在! Toughness!
「硬ってえ」
「ファイアストームならこういうのブチ抜いてくれるんだけどなあ」
全身がサイキック由来の鉄鎧か、ダストパニッシャーとダストシューターは対物ライフル持ちのファイアストームの事を突然恋しく想い始める。
「奴は別ポイントの援護に向かっている」
ナイトフォールは冷静に告げる。戦場での無い物ねだりに意味はない、それに倒せない相手だとも思っていない。確かに丈夫だが、この三人なら必ず倒せるはず。ナイトフォールは二つの鋼鉄の拳を構えた。
☘
市街地ではファイアストーム、ディスアームズ、聖天使猫姫らが行動中。吹雪が東京の空の輝きをおぼろげなものに変える夜、ファイアストームは滅ぼすべき敵に狙いを定め――アンチマテリアルライフルの引き金を引く。
淡く金色に輝く12.7mm弾がホーミングし、フレキシブルソルジャーの命を狙うも敵は間一髪で弾丸を回避!
「うおおっ!」
彼の固有能力である反射神経の追加ブースト効果によって彼はこの危険な狙撃から逃げ続けている。
フレキシブルソルジャーとしては応戦したい所だが、敵の距離が遠く、何とか逃げ隠れるしかない。
『ディスアームズ、ホーリーにゃーこ。位置情報を伝えるので追い込みをかけてください』
「了解!」
「おっけーにゃ!」
ファイアストームが敵を釘付けにしている間、二名の女性サイキッカーがフレキシブルソルジャーを包囲すべく追う!
だがそこへ突如、後ろから銃弾が飛来!
「いけないにゃ!」
聖天使猫姫はディスアームズを突き飛ばし、聖なるメイスで銃弾を叩き落とす。猫の頭部の形状を模した鋼鉄ヘルメットの奥、彼女は銃撃してきた人物の正体を見るが……
「モータル……?」
猫姫は困惑した。銃撃を行って来たのはごく普通の、ハイヒールを履いたおおよそ戦闘に似つかわしくない若いオフィスレディの女性であったからだ。
「にゃ、にゃ……にゃーの頭ではわかんないにゃあ!」
聖天使猫姫が一瞬の間に様々な疑問を頭に巡らすも、その答えは出ず、OLの女性は更なる引き金を引こうとする。
「危ない!」
雪の積もり始めた路上に倒れたディスアームズが一枚、ピースマークの描かれたシールを生成、OLの女性に向かって手裏剣のように投げつける。
直後、OLの女性が引き金を引いたが、弾丸は出てこなかった。ピースマークのシールが付着した拳銃の引き金は、何度引いても虚しい音が響くだけ。
ディスアームズの能力名【ピースシール】、能力は武装の機能低下、エーテルフィールドを持たないモータル相手であれば武装を作動不能に陥らせる事も可能!
立ち上がったディスアームズはOLのもとまで駆けると脇固めを行い、女性を雪の地面に打ち付けながら拳銃を取り上げる。
「敵ってこと……!?」
ディスアームズも同様に困惑を隠せなかった。しかし悩んでる暇はない、今度は別の通行人が通勤カバンから突如ウージーサブマシンガンの粗悪コピー品を取り出し、ディスアームズに銃口を向けた。
「危ないにゃ!」
聖天使猫姫が聖なるメイスを振るうと、白いエネルギー弾が飛び、通行人の胸を貫いた。通行人は
「あ、あわわわわ……正当防衛だけど……モータルさんにゃ……殺しちゃったにゃ……」
『ディスアームズ、聖天使猫姫、路上から直ちに退避してください! 危険です!』
己のしでかしてしまったショッキングな行いに罪悪感を感じ、思わずへたり込みかける猫姫であったが、ミラ41号カナデから送られてきたテレパス通信が彼女たちに更なる危機の到来を告げた。
路上の通行人を容赦なく轢き殺しながら貨物を積載した軽トラックが爆走し二人の女性へと突っ込んでくる! このままでは二人の命は異世界に連れていかれてしまう!
41号と即時情報共有したミラ36号から狙撃要請がファイアストームに下る。黒死の鳥はワイヤーガンを用いて速やかに高所を確保し、アンチマテリアルライフルを構える。吹雪のため遠くの視界が悪く狙いづらい……。
「当てられるか……!?」
……Trigger! ライフル弾が飛来! タイヤを狙うまでの余裕は無し、されどカーブした弾丸が軽トラックの側面ガラスを捉え、運転手を撃ち抜いた!
車内で二つに引き裂かれた胴体によってフロントガラスが血に染まり、コントロールを失った軽トラックは横転。他の市民を巻き込みながら電柱へと激突する。
『今の内に退避を!』
ソフィアの言葉に従い、二人は住宅地側へと潜ってゆく。
「これってどういう事!?」
『調査中です。少し待っていてください』
ミラ36号ソフィアが答える。彼女にもこの状況の正体は掴めていない。
ファイアストームの構えるライフルのスコープから二人の姿が消えた。難は逃れたが、狙撃支援の範囲からも二人は外れてしまった。フレキシブルソルジャーは二人に任せるしかない。
『本部からファイアストームへ、リトルデビルと合流させますので今から突入第二陣の救援に向かってください』
ソフィアからの通信だ。ファイアストームは耳を傾ける。
「問題か」
『敵に発見されました。散発的な攻撃を受けています。今のところダメージはありませんが、積み荷の内容がバレると敵戦力が集中する恐れがあります』
「
ファイアストームは通信を終える。
「……見つかるのが早いな」
良い報告ではない、彼は歯噛みした。さきほどのディスアームズたちへの攻撃……
まさか、いや、その可能性を考えるべきだ。だとしたらローズベリーたちが危ない。吹雪の向こう、ファイアストームはビーストヘット本社ビルを睨む。
――その時、二つの輝きが本社の屋上から飛び出していくのを僅かに見た。ファイアストームはその光景に焦りを覚えた。
あの動きは一度見た、あれはまさか……。
「ファイアストームよりミラ=サーティン・シックスへ、応答せよ」
『こちら36号ソフィア』
「バッドニュースだ。”例の戦闘機”使いが出て来たかもしれない。空からの対地レーザー攻撃への防御を徹底させろ。さもないと――ここで壊滅させられるぞ」
タスク警備保障最強の防空戦力 メテオファイターが早くも出撃した。第一次杉並区攻防戦での悪夢が彼の脳裏を過ぎる。
状況が良くない方向へ向かっているのを感じる。状況が悪化へ向かう前に優勢を確保しなければ――――
☘
突入第二陣は予定外の状況に陥っていた。無論、戦いとは予定外に次ぐ予定外の連続であることが常だが……敵に発見されるのが予定よりも若干早かった。
最初に敵を発見したのは先行していたブラックキャット。車が橋を通り川を抜けた所で、川沿いに配置されていた敵の警戒部隊と鉢合わせとなってしまったのだ。
ブラックキャットが敵を見た。住宅地のベランダからエプロンを着た女性が
「敵襲!」
と叫ぶと突如、そのエプロンにはまるで似つかわしくない軍用アサルトライフルを構え、銃口をブラックキャットへと向けた。
「!」
彼女は瞬時に反応し、超脚力でライフル弾を回避。そのままベランダへとジャンプし、女性の額を足で手すりに叩きつけ、ノックアウトする。
女性の声が吹雪の街に響くと同時、周辺の民家から武装した民間人が次々出現! 一体これは!?
マーズリング、躊躇せず鉄球を民家へと叩き込む。武装民間人の一人が圧死!
武装民間人の一人が銃口をローズベリーに向ける。
「えっ――」
自身と同じぐらい年頃の学生の女性が、こちらに拳銃を向けていた。その状況をローズベリーは理解できず、思わず硬直した。
「ボーっとしない!」
ブラックキャットが矢のように飛び、足刀で女性の拳銃を弾いた。ブラックキャットは女性の首筋に手刀を打ちこみ気絶させる。
「す、すみません……」
敵の数は多くなかった。戦力は僅か四、五人ほどで、三人の戦闘サイキッカーを前に、あっという間に鎮圧された。今のところ、それ以上の敵が向かってくる気配はない。
「モータル……?」
気絶した民間人の少女を見下ろし、ブラックキャットは眉をひそめる。敵として向かって来たのは自衛隊でもない、警察官でもない、
…………いいや、それどころの話ではない。この者たちは、今まで対峙してきたビーストヘッド・プロモーションの手足たる、タスク警備保障の警備兵たちとさえも全く異なる。
少なくともあの会社の警備員たちは、男も女も戦闘訓練を受けた兵士だったはず、このような少女や、エプロン姿の主婦は彼らの中には今まで一人として居なかった。
「あの、このひとたちは……」
「わからない……。ただ、こういうのはまた次が来るわ、相手の格好で油断しないように」
「はい……」
ローズベリーは雪の上に零れた赤い血の痕を見た。銃を向けて来たということ、それは少なくとも敵ではあったということ。それを倒してしまうことは、やむを得ない事だったはずだ。
……しかし、得体の知れぬ不安が彼女の心へと、こびりついて落ちなかった。
EPISODE「吹雪に燃ゆる命 ACT:1」へ続く。
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