097 最後の雪へと零れる血:1
最終決戦【ファイアー・イン・ザ・レイン:04】
EPISODE 097 「最後の雪へと零れる血 ACT:1」
最終決戦の火蓋は切って落とされた。本社突入部隊第一陣、ダストパニッシャー、ダストシューター、ナイトフォール、総勢三名、本社エントランスへの突入に成功!
――横浜みなとみらい地下深く、SHSの作戦司令部ではミラシリーズのサイキッカーたちや、内勤のオペレーターたちがせわしなく働き、戦況を伝え合う。
「天候操作率100%を突破、現在110%で安定中」
「通信妨害継続中。英雄連側が遠隔でジャミングの解除を仕掛けてきたため防衛を開始」
「突入第一陣、結界の突破に成功、敵守備隊と交戦を開始しました」
ミラ8号ヤエから作戦第二段階の成功報告が上がった。
「良し、第二陣、出撃準備!」
総指揮官を務めるエイエンが号令を発する。
「迎撃部隊、行動を開始。ファイアストーム、敵サイキッカーと交戦中」
ミラ36号ソフィアからも報告が上がる。突入部隊を支援するため、ファイアストームが敵との戦闘を開始した。こうなったら彼は、すべてを殺し尽くすまで止まらない。
この報告には今村が答えた。
「【ディスアームズ】と【聖天使猫姫(ホーリーエンジェルにゃーこ)】を向かわせろ、二名はファイアストームと共に外周部戦力の迎撃を行え」
「了解」
「ミラ41号「カナデ」より。ディスアームズと聖天使猫姫はファイアストームの支援に向かえ」
『了解!』
『わかったにゃ!』
情報リンク状態にある東北支部からの出向組、ミラ41号カナデが36号ソフィアから情報を瞬時に受け取り、それを現場の兵士へと伝達する。
――最前線、本社エントランスホールに乗り込んだのはたったの三名とドローンが数機。魔女の呪いと守護結界の干渉を極力抑えるために初期投入戦力は少数に絞られた。
暴走ゴミ収集車は正面受付台を粉砕し、巻き添えとなった警備兵をプレスする形で壁に激突、そこでようやく停車に至った。
辛うじてゴミ収集車の激突を回避した警備兵が慌てて走り、建物の非常ベルを押し込む。けたたましい警報ベルが鳴り響くと共に、非常事態が訪れた事を下層エリアの兵士たちは認識。
「死ぬかと思った!」
「もっと上手に運転しろ!」
「無理! だったら次はお前がやれ!」
口論しながらダストシューターら二人は車内から外へと転がり出る。ナイトフォールは激突の直前、既に短距離テレポートで車から飛び離れていた。
鋼鉄の両腕を輝かせ、バラクラバ帽で顔を顔したソルジャーが、鷹の如き鋭い瞳によって敵戦力を図った。三人、五人、七人……庭側からも敵が向かってくる。緑の警備服に身を包んだ男達……想定よりも数が多く感じる。
――だが問題ない。
ナイトフォールはアクスナイフ付きのオリンピックアームズピストルを、まるで投げ斧のように投げた。刃が深く敵の頭部に突き刺さる。――まずは一人。
ナイトフォールはテレポート跳躍し、敵兵の死体からオリンピックアームズピストルを引き抜いた。腰のホルスターに拳銃を収めながら、背中のハンドアックスを抜き、隣の警備兵を殺害。その後、素早く手榴弾とライフル銃を奪取する。
第一陣の役目は敵の防御の強行突破、そして第二陣の応援が来るまでの間、内部の敵戦力を減らす事。
ナイトフォールがライフルの引き金を引いた。敵警備兵が血に沈み倒れる。ナイトフォールは自身の両肩に、重くのしかかった透明な女性の手の感覚を感じている。エーテルの巡りが悪く、身体が鈍い。固有能力のテレポート発動にも
予想通りだ。本社には強力な結界が張ってあった。
だが、その戦力で当面は耐え続ける必要がある。
ナイトフォールが敵の銃撃を走って躱し、代わりに通路の方へと手榴弾を放り投げた――爆発。水色の清掃員の格好の上にタクティカルベストを身に着けた男女も帽子を脱ぎ捨て、敵警備兵との戦闘を開始した。
☘
『第一陣、戦闘開始。突入部隊第二陣、および
ミラ8号からテレパス通信によって伝令が下る。そろそろ”彼女たち”の出番がやってこようとしていた。
フローリングの上に、空になった精神安定のための薬物アンプルがカランと落とされる。
「いよいよね」
「そうですね……」
黒いキャットラバースーツに身を包む女性と、隣に立つ赤いパーカー姿に空手道着の真っ白な股下を履いた少女が、共にマンションのベランダ側を見た。
「最初の理由がどうあれ、貴女は望んでこの場所に立った」
明かりの落とされた暗い室内で、ブラックキャットの髪が薄い桃色に染まってゆく。彼女は、隣に立つ少女を
「……まあこれでも年長者だから、一つアドバイスしておくわ」
浅川 ケイ、
「誰かが決めた正義と悪は関係ない。ただ、あなたの決めた道を真っすぐに駆け抜けなさい。正しいかどうかは、駆け抜けた後に貴女が勝手に決めなさい。なぜならば、これは貴女の人生なのだから」
それは、その口調や、時に行動にまで厳しさの現れるブラックキャットが時折見せる、彼女なりの優しさと、年長者なりに彼女がこの数日ずっと考えていた、後輩へのアドバイスだった。
ブラックキャットはベランダに続くガラス戸のロックを外し、扉を開けた。刺すような冷たい風と雪が、潜伏場所としていたマンションの一室へと吹き込む。
ローズベリーがキャットスーツの女性を見た。闇の中、ブラックキャットこと 浅川 ケイは、その鋭い顔立ちの横顔に、微かな笑みを浮かべる。
「……実は私、ナナちゃんの面倒を見てたぐらいで、きちんと誰かを教育するのは貴女が初めてなのよ」
ブラックキャットは言う。
「私は正義のヒーローなんかじゃない、悪党と殺し合いをやってるだけのただの戦士……でもそれなりに、少しは気の利く一つも言えたかしら?」
その横顔には、僅かながらも気恥ずかしそうな様子が含まれている。
「と、とんでもなさいです! ブラックキャットさんのお陰でわたし……」
「噛んだ」
間の抜けた少女の行動にブラックキャットは思わず爆笑した。
「うー……やっちゃった……」
冷たい風と恥辱の情にあてられ、ローズベリーの頬が赤く染まる。
「ふふふ……安心しなさい新人(ニュービー)、私が守ってあげる」
キリっとした顔立ちの女性の横顔から笑みが消える。彼女の凛々しい表情を目にすると、ローズベリーは心の中にある緊張や不安、恐怖の気持ちが薄らいでいくのを感じた。
「はい!」
『……突入部隊第二陣、出撃せよ!』
エイエンから下った出撃命令が、二人の戦士の頭に届いた。
「行くわよ! 遅れずに、ついてきなさい!」
「はい! ブラックキャット先生!」
そして二人は窓も開け放したままにベランダを飛び越え……階下、マンションの外の駐車場へと着地した!
突入部隊第二陣!
更に駐車場内に停められた、白蛇宅配便の業務にも用いられる偽装クイックデリバリー車の正面に全身重甲冑、筋肉モリモリの大男がドシンと着地する!
SHS東北支部所属
マンションの窓ガラスを突き破って巨大な黒い鉄球が二つ飛び出してくる。あれはマーズリングが自身のキネシス能力によって操る専用鉄球、フォボスとダイモスだ。
駐車場のクイックデリバリー車のエンジンが始動。車内後部には本作戦の要となる【
超越者としての身体機能を持たないどころか、平均的な成人男女より非力な祈り手たちを、ダストパニッシャーたちのように爆走強行突入させることはできず、ゆえに一定の速度を保ちながら敵本拠地へとこの者たちを送り届けなければならない。
突入班第二陣の役割は、彼女ら祈り手たちを護る事だ。ゆえに突破能力に優れるブラックキャット、都市部の三次元機動に長けるローズベリー、そして高い防御能力を持つ東北支部のマーズリングが直援役として選出された。
全身を重甲冑に包んだマーズリングはキネシス能力によって鎧ごと空中に浮遊。ブラックキャットは車両の進行ルート上を先行する形で直進し、ローズベリーは蔓を伸ばして近隣建物の屋上へ跳ぶ。
祈り手たちを乗せたデリバリー車は発進、この日に備えて車輪は既に積雪対策としてチェーンが巻かれており、タイヤが回ると共にガリガリ音が鳴る。
一行が目指すはビーストヘッド・プロモーション本社ビル、地獄の蓋の開く決戦の地。
――願わくば、その場所がこの悪夢の終着の地であらん事を。ローズベリーは背中に二枚の小盾を背負い、烈しく吹雪く東京の夜空を跳んだ。
EPISODE「最後の雪へと零れる血 ACT:2」へ続く。
===
☘世界観・人物情報
☘ 赤星 史郎 / マーズリング
性別:男 外見年齢:30台前半 実年齢:40代後半
所属勢力等:SHS東北支部
能力:【キネシス】
能力名:【レッド・プラネット・グラビテイション】
過去十数年、幾度となく窮地に陥ったハンムラビ東北支部を全滅の危機から救い続けてきた東北支部の守護神。高位の念動力者で、フォボス、ダイモスと名付けられた二つの超重鉄球を操り、自身も念動力によって鎧ごと浮遊する。
身長187センチとかなりの大男で、更に戦闘時は超重装甲のフルプレートアーマーに身を包むため、戦場に立つだけで恐るべき威圧感を相手に与える。
☘ ??? / 聖天使猫姫(ホーリーエンジェルにゃーこ)
性別:女性……? 外見年齢:??? 実年齢:???
所属勢力等:独立ヴィジランテ
能力:【エネルギー攻撃】
能力名:【美麗なる光の波動ホーリーライトセレナーデ零式】
正体不明の野良サイキッカー。ヴィジランテに分類される。出会う者すべてを困惑、あるいは脱力させるコードネームと口調だが、ハンムラビに属することなく、英雄連による残酷なヴィジランテ狩りに屈することなく単身で生き延びて来た強豪。かなり活動歴の長い古参らしいが、本人は頑なに事実を否定する。
過去の遭遇時にブラックキャットと連絡先を交換していたため、自主的にコンタクトを取り、最終決戦に参戦する。
猫型の鋼鉄ヘルメットで顔を覆っている為その素顔さえ不明であるが、左手に指輪をしている事から家庭を持った人物なのではないかと推察されている。
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