メメントモリ ACT:2
EPISODE 088 「メメントモリ ACT:2」
「くそ! くそ! くそっ……!」
英雄連
「応援はまだか!? 頼む! 誰かたすけ――」
ゲッチュアーウィングスが上空へと逃れながら助けを求めるも、金色に淡く輝くライフル弾がそれを追い、彼の背中から展開する超常の可変翼を貫いた。
「うわああああーーー!」
翼がエーテル煙を吐きだし飛行制御を失うと、ゲッチュアーウィングスは真っ逆さまに墜落! 信号機上に立つ死神の如き男はカービンを背中に格納するとヘルメットの眼光を輝かせ、信号機上から跳んだ!
ゲッチュアーウィングスを空中で捕まえると、必殺の対空忍術「
ゲッチュアーウィングスから飛び離れたファイアストームは空中で、ホルスターから伸びるランヤードの先からザウエルP226ピストルを素早く手繰り寄せると次の敵へと連射! 救援の間に合わなかった乙種ヒーロー「火焔戦隊ドラグーン
そこへ更なるアシストスナイプ! ハンムラビ所属のナイトフォールが放ったオリンピックアームズピストルから発射される5.56mmライフル弾による精密射撃だ。
直後、ナイトフォールがドラグーン壱拾七号の眼前に出現!
彼の固有能力【直接強襲(ダイレクト・アサルト)】による短距離テレポートだ! 瞬時に間合いを詰めたナイトフォールはオリンピックアームズに装着したハンドアックス状の銃剣でドラグーンに斬りかかる!
首への斬撃をエーテルフィールドと左腕装甲で防御、しかしナイトフォール、背後に跳躍し、ドラグーンの背中を斬りつける! ぐらついた所へ正面からファイアストームのエーテルホーミング弾が飛来し追い打ちのダメージ!
丙種ヒーロー「ホローP99」は能力生成した拳銃をナイトフォールに向ける。ナイトフォールの銀色の左腕からライフル銃が展開、軍用プレートキャリアさえ貫く7.62mmライフル弾で反撃され、ホローP99はよろめく。
ドラグーンの始末をファイアストームに任せ、ナイトフォールは跳躍。バラクラバ帽を被り、肩の根元から完全に機械化された、鋼の両腕を持つ恐ろしき迷彩服ソルジャーがホローP99の眼前に立った。
重々しい鋼鉄のボディーブロー、フックパンチ、右の専用銃剣による斬撃、ゼロ距離射撃。容赦ない攻撃が次々に叩きこまれ、ホローP99のエーテルフィールドと肉体は破壊されてゆく。
ホローP99が反撃するも、ナイトフォールの姿がゆらめき、攻撃がすりぬけた。短距離テレポート能力者が得意とする同一座標上でのテレポート・ドッジだ。
ナイトフォールによる股間への蹴り上げ、ホローP99が苦悶の叫びをあげる。頭の下がった所へ鋼鉄の拳を振りかぶった殺人的フックパンチ。ホローP99が地面に打ち倒される。
「き、聞いてない、こんなの……!」
ホローP99は銃を投げ出し、股間を片手で押さえ、地に手をつきながらナイトフォールに背を向けると、走った。
ナイトフォールは無言でホローP99の足を撃った。ホローP99のエーテルフィールドを割り砕き、銃弾は膝を後ろから貫通した。
短距離テレポート。ホローP99の足の上に、ナイトフォールのブーツが踏み下ろされる。
冷徹なソルジャーが、オレンジとスカイブルーの狭間にある朝焼けのような神秘的な輝きをバラクラバ帽から覗かせていた。
ナイトフォールはアクスナイフの付いたオリンピックアームズを振り上げ……
「や、やめっ……!」
ザクリ。ホローP99が命乞いの言葉を言い終えるよりも早く、彼の脳天を叩き割った。ホローP99のヒーローコスチュームに取り付けられた、英雄連所属を示す太陽眼六芒星のバッジが、今では虚しいだけだった。
ナイトフォールは振り向くと、引き抜いたオリンピックアームズを虚空に向けて投げた。ナイトフォールの姿が消えると、遥か先に出現し、投げたオリンピックアームズを自らキャッチした。
「やめろ、やめろーッ!」
ナイトフォールが道路脇を見ると、ファイアストームと戦闘中のドラグーンが悲鳴の声をあげていた。戦闘、いや、情勢はすでに処刑と呼ぶよりほかない状況にあった。
両腕を撃ち抜かれ発火能力を封じられたドラグーン壱拾七号はマウントを取られ、憤怒に燃える黒死鳥のマウントパンチによる猛攻を受けている最中だった。
「怪人(下位人)め、お前が何を……」
ドラグーンが賢明に叫ぶも、英雄連公認ヒーローの抹殺を誓う黒死鳥は言葉に耳を傾けない。マウントパンチ、マウントパンチ、マウントパンチ、マウントパンチ……。
「グフッ……! 何を、何をしているのかわかっているのか、俺は……」
死神の左拳が振り下ろされる。ドラグーンのヘルメットは既に砕けかかっている。隙間に指をねじ込むと、強引にヘルメットを破壊する。
「ガフッ……お、おれ……は……」
ドラグーンにはもう反撃の力はなかった。ただ虚ろに、洗脳教育によって築き上げられた言葉を発しようとしていた。
マウントパンチ、マウントパンチ、マウントパンチ、マウントパンチ、マウントパンチ、マウントパンチ…………ファイアストームは堕天使をただただ殴り続けた。
「……お前は?」
最後に、ようやくファイアストームが一言だけ尋ねた。ドラグーン壱拾七号の顔面は潰れきって、既に事切れた後のことだった。
返事がすぐに返ってこないと、ファイアストームは更にマウントパンチを振り下ろした。マウントパンチ、マウントパンチ、マウントパンチ、マウントパンチ……。
「ファイアストーム、こっちはもう終わった」
ナイトフォールが声をかけた。
「今日はもう十分殺った」
「……そうだな」
ファイアストームはようやく拳を止めた。両の拳は血に染まっていた。
『リトルデビル』
ファイアストームが立ち上がりリトルデビルを呼ぶと、道路上に丙種公認ヒーロー「プルーフジャスティス」が上空から叩きつけられ、無残に墜死した。
「はーーい!」
「撤退だ。包囲網を突破する」
「オッケー」
リトルデビルは着陸すると、カービンを構えるファイアストームに後ろから抱き着いた。
「俺は予定通り、地下を経由して脱出する」
ナイトフォールが、リトルデビルと共に宙に浮きあがったファイアストームへと告げた。
都心下水路に張り巡らされた迷路のような空間は、ネズミとハンムラビの暗殺者たちのための通り道だ。ハンムラビ日本支部の本拠地が東京にあった時代から、追跡を撒くための魔術的なトラップや仕掛けを長年かけて構築している。
加えて逃亡者がテレポート能力者であれば、その追跡と捕獲は不可能といっても良い。
「了解、本部で会おう」
「ああ、また本部で」
二人は短い言葉を交わすと、それぞれ暗黒の街からの脱出を図った。
――元号:光輝35年 2月26日 月が中潮から下弦へと移りゆく夜。東京都内ではハンムラビのアサシンたちによるゲリラ作戦が展開されていた。
先日の杉並区ホテル攻防戦は日本英雄団体連合会に衝撃を与えた。陣風戦隊サイクロンは英雄連が飼うヒーローチームの中でも歴史あるチームの一つ、それらの三人がいとも容易く敗れたことは、彼らにとって大きな屈辱だった。
また、ハンムラビ側にとっては少々想定しない事が起こった。それは「警備の異常増加」である。無論、東京23区内は彼ら英雄連最大のテリトリー、そこに彼らが目の仇にするハンムラビのアサシンが出現し、混乱を引き起こす事がいかに面白くない事かは想像に難くないが……。
もちろん、混乱に伴うパトロールヒーローの増加は想定していたことだ。だが、その警備増加規模がハンムラビ側の想定の約3倍にも及ぶ量であることが問題だった。
その警備量の増加規模からして、ビーストヘッド・プロモーションという企業とその首級である畑 和弘 こと
ゆえにハンムラビはこの問題への対処として、大規模な軍事作戦を行う前段階としてゲリラ作戦を展開、ファイアストームやナイトフォールなど、高火力または高機動の少数精鋭を深夜に放ち、都内の公認ヒーロー戦力の間引きを行う事を決めた。
ファイアストームは上空で飛行能力を持つ公認ヒーローの姿を見つけると、引き金を引いた。ジェット飛行中だったドラグーン拾号が撃たれ、夜の闇の中に堕ちていった。
包囲を突破するとファイアストームは夜空を見た。月は日に日に隠れ、それは新月へと近づいている。次の新月は3月7日、あと二週間足らずといった所だ。
新月の日は魔女の呪いと共鳴する魔術結界が最も弱まるため、拠点攻めに適した日……。それはハンムラビ日本ロッジ代表の
ヒーロー側はビーストヘッドを守るために多数の増援を昼夜問わず展開、ハンムラビ側も他支部や同盟関係にある野良サイキック勢力から増援を要請中。
それぞれの勢力が、勝者として立つための青写真を描き、最終決戦に向けての布石を打っていた。
EPISODE「メメントモリ ACT:3」へ続く。
===
☘世界設定・人物情報
☘ウィリアム ジャクソン / ナイトフォール
性別:男性 外見年齢:30代 実年齢:30代半ば~後半
能力:【短距離テレポート】
能力名:【直接強襲(ダイレクト・アサルト)】
所属勢力等:サン・ハンムラビ・ソサエティ 関東横浜支部。
LIKE:カレー。肉。トレーニング。ヒーローのブラックパンサー。車。艦隊擬人化の少女が出てくる例のゲーム。
DISLIKE:派手な服。散らかった衣類。ソフィアに食わされた納豆。
ファイアストームとほぼ同期のベテランエージェント。アメリカ系黒人と日本人女性の間に生まれたハーフで日本生まれの日本国籍。
彼の祖父は黒人差別の残る第二次世界大戦の時代、あるヒーローの影武者として活躍する記録に残らないヒーローだった。自分はインディアンの末裔であるという祖父の自説を、彼自身も信じて生きている。
四年前の内戦で重傷を負ったため、両腕を根元から機械化。内戦の終結後は、後遺症で戦闘力の安定しなくなったファイアストームの穴を埋め、関東横浜支部のエースとして傷を負った組織を牽引し続けている。
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