081 すべてはこの日のために:15


すべてはこの日のために 015

EPISODE 081 「ESCAPE FROM THE DARKNESS CITY ACT:2」



 ホール内での戦いは再開された。ベルゼロスとサイクロンの二人は持ち前の飛行能力によってホール内を飛ぶ。一方飛行能力を有さぬファイアストームは地を駆けながら銃撃を行う。


 ベルゼロスがホーミング弾を次々と避けるが、追いつかれる。そこへブルー・サイクロンの生み出した突風が吹き、風のバリアとなって弾丸の到達を阻む。



「社長、司令よりお話は伺っております。どうかお下がりください、奴は私が殺します」

 ブルー・サイクロンは名状しがたき姿の蠅の王を見て、それが畑 和弘であると判別できた。タスク警備保障の末端には知らされていなかった彼の変身形態も、サイクロンたちには話が行っていたからだ。



「いいや、私も戦おう」

「しかしあなたはこの国を支えてゆく大切な御身です、どうかここは……」



「屑共、冥銭めいせんを払う順番は決まったか」


 ファイアストームは敵兵の死体からライフルを回収。地獄のような言葉と共に弾倉内に残った実弾を吐きだしながら、その下にエーテル弾を能力給弾してゆく。


 銃弾を潜り抜けながらまずベルゼロスが接近! だがファイアストームの反応速度が増している! スライディングでベルゼロスの真下を潜り抜け、すれ違いに射撃! エーテル弾がカーブを描きながらベルゼロスの背中に突き刺さる!



 続けてブルー・サイクロン向けてライフル射撃、ブルー・サイクロンが両手を突き出すと、超常の風圧が発生し、銃弾を食い止める! だがすぐに超常の風を避けるようにしてカーブ弾丸が飛来! サイクロンは空中で身を捻って回避!


 羽根にダメージを負ったベルゼロスは着地すると反転し、ファイアストームに襲い掛かる。貫手! ファイアストームは拳で受け流す。キック! ファイアストームはライフルを盾にして受け止める。両肩から伸びる二つの異形の首が噛みついてくる! カスール砲発射!


「グオオォオォォ」

 右肩から伸びる頭部の一つを貫通! その顎に大穴を開けるとベルゼロスは悲鳴をあげ苦しんだ。ファイアストームは弾丸をバラ撒きながら後退。ベルゼロスはエーテルフィールドを展開しガードするが、獣の手足に弾丸が突き刺さる。


「貴様ッ!! 必殺、サイクロントルネード!」

 ブルー・サイクロンは空中から竜巻を放った。竜巻はファイアストームを捉え、その身を切り刻む。だがファイアストームはエーテルフィールドを展開させながら受け、ライフル盾として犠牲にすることでそのダメージを最小限に抑える。

 そしてその竜巻の風圧に逆らわず、あえて彼は後ろに飛んだ! その後方にはヘリのマイクロミサイルで扉の吹き飛んだホールの出入り口が!


 ベルゼロスはダメージと痛みに膝をつく。ブルー・サイクロンは死神を追ってホール出口へ。

「逃がすか下位人!」


 しかしファイアストームが呟いた。

「かかったな」


 その言葉で、ブルー・サイクロンがそれを認識した。ファイアストームが退いた後の床に、エンジ色のクローバーの紋章の書かれたフラグ・グレネードが二つ転がっていた。



「なにっ、ウワーッ!」


 一つはファイアストームの能力不安定により不発。もう一つは無事起爆した。そして片方の爆発に併せ、残り一つも誘爆。爆風と破片をまき散らし、ブルー・サイクロンの身を吹き飛ばした。





 ローズベリー対レッド・サイクロンの戦いは厳しい状況に置かれていた。蔓のネットとガントレットで攻撃を防ぐものの、防戦一方だった。レッド・サイクロンの拳から放たれた超常の竜巻がローズベリーを吹き飛ばす。


 しかし、そこへファイアストームが乱入! ザウエルピストルを引き抜き射撃! レッド・サイクロンは側宙回避。しかしローズベリーの後ろから放った蔓のロープが足にからみつく。


 ファイアストームは銃撃を行いながら接近。ローズベリーの足止めから逃れる間を与えない! レッド・サイクロンのヘルメットの瞳が赤く輝き、赤いマクラーは風になびく。片足を取られた状態にも関わらず風圧のバリアーを張り銃撃を受け止める。


 ファイアストームは決断的に接近。拳銃をホルスターに仕舞い肉弾戦を仕掛ける。ファイアストームの右拳とレッド・サイクロンの右拳がぶつかり合う! ファイアストームのボディーブロー! 能力行使の間を一瞬たりとも与えない! レッド・サイクロンの斜め振り下ろしの手刀、死神は止める!


 レッド・サイクロンが突きを放つ。ファイアストームは半身の動きで側面に入り込む。レッド・サイクロンの拳から風圧が発生し、割れ残った強化ガラスを破壊する。ファイアストームが左拳を顔に打ちこもうとすれば、レッド・サイクロンはそれをもう片手で受け止める!



「ヤーッ!」

 ローズベリーが蔓のロープを思い切り引っ張る! レッド・サイクロンがバランスを崩すと同時にファイアストームは足払いでバランスを崩させ、右手でレッド・サイクロンの顔面を掴む! 大外刈りからの連携チョークスラムによって、大理石の床へ堕天の英雄の後頭部を叩きつけようとする!



「ブルー、イエロー、一体何をしているの! 早く来なさい!!」

 レッド・サイクロンが声を荒げた。


 地面への激突寸前、背中に向かって風圧を発生させ滞空。地面への激突を逃れながら空中逆立ち状態に。足を思い切り引き、今度は逆にローズベリーを転倒させる。ファイアストームがフロントキックでレッド・サイクロンを蹴り飛ばすと共に、レッド・サイクロンもまた超常の風圧でファイアストームを吹き飛ばす! 一進一退の攻防!



「必殺! スパイラル、サイクロンキック!」

 窓の外から黄色のマフラーをはためかせる乱入者! ヒーローは三人居た! そしてあれはイエロー・サイクロンだ!


「させるか、デビル急降下キーック!」

「グアーッ!?」

 そこへリトルデビル、ようやく到着! 急降下爆撃蹴りによってイエロー・サイクロンの必殺を阻止、逆に東京の奈落へと蹴り落とす!


「ごめん! 変なのに追われて遅くなった!」

 リトルデビルの後方を二機の小型宇宙戦闘機が追っていた。一度振り切りかけたものの非常にしつこく、未だに彼女を追ってくる。


『ミラ=エイト、バケットヘルムは戦死ケーアイエーか!?』

 外に放り出されかけたファイアストームは、かつてはガラス窓を補強していた鋼鉄フレームにワイヤーをかけて屋内へと復帰。



『重症ですがバイタルサイン、まだ有効』

 ミラ8号は報告。その状態は決して良くないが、バケットヘルムにはまだ息があった。


 リトルデビルを追っていた小型宇宙戦闘機二機がレーザーガンを発射。ファイアストームとリトルデビルは回避。ブルー・サイクロンも爆風のダメージを多少受けながらも、死神を追ってロビーエリアへと乗り込んでくる。




 状況は考えられる限りでほぼ最悪だった。レッド、ブルー、イエローサイクロンのヒーロー三人に、ベルゼロス。加えて制空権は謎の小型宇宙戦闘機二機が掌握。


 3対6の状況。しかもこっちは航空戦力を潰され負傷者も。敵地ど真ん中で脱出は困難。それどころか更に敵の増援が来てもおかしくはない。


 最後の頼みは高機動で飛行能力を有するリトルデビルの逃げ足のみ。――だが、あろうことか敵6体全員が飛行能力持ち。いくらリトルデビルでも味方三人を抱えながら、敵全員を振り切る事は不可能。



 かくなる上は――――



「リトルデビル、ローズベリーとバケットヘルムを回収して直ちに脱出しろ!」

「!」

「ヒーロー共は俺が食い止める。お前はあの敵戦闘機を振り切って飛べ」

 ファイアストームは判断した。絶対にローズベリーは生かしてソフィアのもとに帰す。バケットヘルムも見捨てる訳にはいかない。生きてさえいれば、まだ彼には伸びしろがある。


 となれば、自分が残って敵戦力を足止めする。あの宇宙戦闘機は非常に素早く厄介だが、ヒーローさえ止めればリトルデビルが何とか振り切ってくれるはず。



 レッド・サイクロンが襲ってくる。ファイアストームは風圧を回避し銃撃。ブルー・サイクロンめがけてフラグ・グレネードも投擲。ブルー・サイクロンは爆風を回避しながら飛ぶ。リトルデビルが割り込み、互いに殴り合う。



「そんな、ファイアストームさんは」

「ローズベリー、君が何のためにここまで来たか忘れるな」

 ファイアストームは向かってくるレッド・サイクロンを巴投げ!


「話し合う時間はない。命令だ。行け!」

 その命令にローズベリーもリトルデビルも不服を覚えた。だが話し合う余裕は一切なかった。建物を通過した二機の宇宙戦闘機が遥か上空で、再び反転し向かって来る。

 蹴り飛ばされたイエロー・サイクロンが復帰し上昇してくる。ベルゼロスも復帰し死神を殺すために歩んでくる。



 脱出するなら今が唯一のチャンス。それ以上はリトルデビルの機動力でも突破が不可能になる。


「……わかった。ファイアストーム、死なないって信じてる」

 リトルデビルはそう言うと、背中の散弾銃をファイアストームに投げ、代わりにローズベリーを抱いた。



 ローズベリーはどうしようもなかった。あまりに自分の無力を感じた。何を言えば良いか……

「ファイアストームさん、ソフィアさんが待ってます」

 少女は一言、死神に言葉を投げかけた。死神は返事をしなかった。




 リトルデビルは少女を抱え飛翔した。屋上まで垂直に飛ぶと、炎上するアパッチヘリの残骸と、右足を失い倒れているバケットヘルムを発見した。


 ヘリの搭乗員はもうダメだろう。だがバケットヘルムにはまだ望みがある。




 リトルデビルの後ろから二機の小型宇宙戦闘機が追いかけ、レーザーガンを撃って来る。リトルデビルはバケットヘルムを救出し、飛んだ。





 屋上ヘリポートに堕ちたアパッチの残骸を通り過ぎ、彼女は二人を抱えながら夜の闇を飛んだ。



 タスク警備保障が放った最強の防空戦力、メテオファイターの操る二機の宇宙戦闘機型の無人機も小雨の降る暗い夜空を飛び、黒翼の女性を追いかけた。




 死の街からの逃走劇が始まった。





EPISODE「ESCAPE FROM THE DARKNESS CITY ACT:3」へ続く。

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