六節 決戦【すべてはこの日のために】

067 すべてはこの日のために:01



A Tear shines in the Darkness city.

 ‐ Fire in the Rain ‐ (邦題:雨の中の灯火)


第六節【太陽は闇に輝く】 編 最終シナリオ


【すべてはこの日のために】




EPISODE 067 「決戦! 死神の処刑場! ACT:1」




「これより作戦会議を始める」

 サン・ハンムラビ・ソサエティの本部、その地上オフィスの会議室で一同は作戦会議を行う。本番はもう明日、作戦直前のブリーフィングを除けばこれが最後の会議になるかもしれない。


 対TUSK 及び ビーストヘッドの責任者であるファイアストームが会議の音頭を取る。会議にはリトルデビル、ローズベリー、ヤエの他、追加戦力のバケットヘルムや、ヘリコプター搭乗員、祈り手の稲毛 セツ。

 ロッジ長の楠木は別件で顔を出さなかったが、代わりに副ロッジ長の今村の姿もあり、会議室はぎゅうぎゅうの状態となっていた。最初はレイと涼子個人の契約から始まった失せ物探しと探偵業務は、今や闇の魔術結社をここまで大きく動かす出来事へと膨らんでいた。



「まず作戦参加メンバーからだ。本作戦のメンバーは俺とリトルデビル、加えて増援としてバケットヘルムが来てくれた」


「よろしく」

 外見で二十代半ばほどの、涼子の見知らぬ男性の姿がそこにあった。彼は本件の専任として配属された組織のサイキッカー。魔術名コードネームはバケットヘルムだ。


「そして最後にローズベリー、君だ」

 ファイアストームの鋭い眼光が涼子を見る。涼子は小さく頷く。彼女の表情にもはや迷いはなく、そこには覚悟と闘志が満ち溢れていた。



「バックアップにはミラ8号ヤエが当たる。以上4名の戦闘サイキッカー、1名の支援サイキッカー、更に今回は輸送ヘリ1機のほかに、攻撃ヘリ2機による航空支援も付く」

「ファイアストームさーん」

 すると会議室の中で挙手があがった。手をあげたのはリトルデビルだ。


「ナナちゃん、何か」

「ブラックキャットはー?」

「彼女はナイトフォールと共に別の極秘作戦にあたるためこちらに参加できない」

 ファイアストームは答える。今回の作戦とほぼ同時に、別任務が展開される事になっている。機動力の求められる極秘任務で、転移テレポート能力持ちのナイトフォールと、彼の機動力に合わせられる高速移動能力を持つブラックキャットが支部長に連れていかれてしまった。遺憾だが優秀な人材ほど上手くやりくりしなければならぬため、やむを得ない。


「また、ミラ36号も負傷により任務参加不可能だ。代わりに8号のドローンが8機、追加での使用許可が取れた。ソフィアの穴はこれでカバーする」


「えーっ、二人ともこないのー」

「だから代わりに航空支援とバケットヘルムがつく。これでも恵まれた戦力だ。何とかするぞ」


「俺じゃ不満なのか……?」

 リトルデビルの横でバケットヘルムが怪訝な表情を浮かべた。

「まさか、今回の作戦はお前の能力で成り立つ。来てくれて助かるよ」


 そんな彼へとファイアストームは感謝を向けてから作戦説明を続ける。会議室モニターに衛星写真と、目的となる建物外観の写真が表示された。


「さて、戦場となるのはここだ。東京都杉並区内のビル「ブラッドカップ・イン」表向きはホテルという事になっているが、一般開放されていない施設だ。ゆえに、どんな仕掛けがあるかもわからん」


「俺とローズベリーは敵から直々に招待を受けているから、内部まではストレートに侵入できるだろう」

「返してくれる気はー?」

「無いだろう。ゆえに二人でホテルへの侵入後、罠を脱し、敵地から脱出する事が重要となる」

 リトルデビルの問いに、ファイアストームは平然と言い放つ。


「作戦目的は主に三つだ。まずは潜入後、敵地からの脱出。これが最重要」

 モニター画面が切り替わり、デフォルメされたファイアストームとローズベリーが建物から脱出しヘリコプターに掴まる絵が写し出される。ソフィアの仕事用クラウドストレージにアップロードされていた画像の一つだ。きっと、二人の安全を祈願する意味も込めて描いていたのだろう……。



「次に、彼らビーストヘッドが関わる犯罪行為に関する情報を掴む事と、被害女性の遺物の奪還」


「ファイアストームさん、質問をしても」

「あとでまとめて受ける、少し待ってくれ」

「了解です」


「続けるぞ。三つ目の目的は、暗殺だ」

 バケットヘルムの質問を切ってファイアストームは言い放つ。


「もちろん最優先ではないが、敵の代表者が自ら出て来るのはまたとない好機でもある。後の禍根を断つためにも、本作戦で殺害する事が極めて望ましい」


 道理だ。敵の代表者が自らその姿を現すなど、アサシンにとっては殺してくれと頼まれているようなもの。無論相手側も防衛策を敷いて来るだろうが、ここで敵のリーダーを殺害できれば、組織を一撃で壊滅させ、すべての禍根を断つ事が出来る――絶好の機会だ。欲を言えばそうしたい。



「ローズベリー、君にその手を汚させる事は本意ではない。だが敵もこちらも、お互いを殺す事こそが目的であるし、俺も立ち塞がる敵全てを殺すために行く。屍で作る道、君はその後をついてくる覚悟があるか」


「……行きます。もう、後戻りできませんから……」


 ファイアストームの恐怖的な問いかけを前にしても、ローズベリーは退く様子を見せなかった。当然だ。失われた麗菜の命と同様に、もう涼子は後戻りできないのだ。

 いや、それだけではない。今の涼子は、ソフィアの決死の覚悟さえも乗り越えてこの会議に参加している。彼女は、進まなければならないのだ、この悲しみを乗り越え、そして新たなる親友、ソフィアのの託してくれたものを、無駄にしないために……。


「良し」

 ファイアストームは小さく頷いた。



「周知のことだが、ビーストヘッド・プロモーションの私設軍事部門であるタスク警備保障は超能力者サイキッカー超越者オーバーマンを複数名戦力として保有している。尋問によって得た情報では、残りのサイキッカーは4名。後は能力ナシの超越者オーバーマン常人モータル戦力の寄せ集めだ」


「尋問によって得た情報をファイル化してあります。こちらをどうぞ」

 ミラ8号ヤエによって一枚のプリントが配られる。雷光ライコウ、ヒートウェイブ、テンタクルランス、リザードマン……尋問によって手に入れた敵サイキッカーのコードネームと、その能力が記載されている。



「あくまで尋問情報だ。4人という情報は信憑性が高いが、それ以外の具体的な能力等には実際の情報と食い違う可能性もある。ただ参考として頭には入れておくように」


 ファイアストームは付け加えた。人数と彼らの隊長、雷光ライコウの能力に関してはバックホーも同様に吐いており、その情報の信憑性があるものの、他は参考情報、というよりほかない。

 フラットら、精神操作能力を持つマインドハック班が洗脳による情報の引き出しを試みたり、自白剤の使用も行われたが、いずれも魔女の呪いの力が尋問を阻み、それ以上の有効な情報を引き出すことは出来なかった。



「了解」


「ここまでで質問は」

「奪還する遺物とは? 本当に必要なものなのか?」

 先ほど一度質問を切られたバケットヘルムが、再度挙手して訊いた。


「彼らが関わる犯罪の犠牲となったとみられる女性の装飾物だ。……呪物や魔法道具の類ではないため、戦略的な価値はない」

 と前置きした上で、レイは加えて述べた。

「しかし必要なものだ。その奪還によって救われる人が居る……協力してはくれないか」


 レイがまず頭を下げ、涼子も一緒になってバケットヘルムへ頭を下げた。

「おねがいします」

「べ、別にダメとは言ってない。理由があるならいいんじゃないか……」

 バケットヘルムがチラりと涼子を見て答えた。


「ロッジ長の楠木さんはその件について了承済みだ。問題はなかろう」

 副ロッジ長の今村は言った。


「すまないな。他には? ……なければ続けるぞ」



「作戦は潜入班と救出班に分かれる。敵から招待を受けた俺とローズベリーで潜入を行う。どの時点でそうなるかはわからないが、必ず戦闘になる。

 その他メンバーは全員救出班。戦闘開始の時点でバケットヘルムは速やかにホテル屋上へ降下。屋上の対空設備と敵対戦力を排除し、空の安全を確保してくれ」


「了解」


「我々潜入班は戦闘しながら脱出地点を目指す。空の安全を確保次第、輸送ヘリは脱出地点へ、我々を回収に向かってくれ。回収後は速やかに作戦域を離脱する。質問は?」

「ボクは?」

 リトルデビルが挙手し尋ねた。


「リトルデビルは離脱するヘリの直掩ちょくえんを行ってくれ。それ以外は後方で不測の事態に備えて待機」

「いざという時は?」

「指示に応じて出て貰う。ローズベリーの救出と戦線の離脱が主にはなると思う」

「オッケー」


 次にファイアストームはバケットヘルムを見て、こう告げる。

「それと、バケットヘルムは発火能力者パイロキネシスとの戦闘に備えておくこと」

「どうしてです?」

 バケットヘルムは理由を尋ねた。


「屋内でパイロキネシスの使い手を出すと延焼や施設機能停止のリスクが高い。仮にホテルの防衛戦力として配置するなら、屋上での対空設備の防衛だろう」

「なるほど、配置的に俺が一番当たりやすいってことか……」


「逆に我々潜入班はタスク警備保障、総隊長の【雷光ライコウ】と直接戦闘になる可能性が高い。電撃能力者に関するデータとその対策を後で徹底して行うから、そのつもりで」

「はい、わかりました」

 ローズベリーが頷いた。



「作戦は以上の通りだ。ローズベリーが加わり、ソフィアの不足を8号で補う以外に救出班側の作戦に大きな変更はない」


 ファイアストームは作戦の参加メンバーたちの顔を見た。前線に立つ戦闘サイキッカーも、そうでない者たちも、すべての者の瞳に等しく決意が宿っていた。


「それから最後に……西端ではあるが、今回の作戦は杉並区、東京都の23区内で行われる。23区の中央、西側は政府の支配領域内であり、日本国政府と我々ハンムラビは以前より対立関係にある事を、多くの職員は周知の事と思う。我々の存在を嗅ぎつければ、政府戦力の介入も最悪のケースとして想定される。仮にそうなれば脱出は困難になる」


 そしてファイアストームは最後にこう締めくくった。

「よって戦闘開始から杉並区離脱までの所要時間をいかに短縮するかが任務の成功とメンバーの生存を分ける。目的を達成し一人でも多くが生還するために、各員がベストを尽くして欲しい。以上だ」




EPISODE「決戦! 死神の処刑場! ACT:2」へ続く。



===


☘【作戦名:作戦オペレーション・アーリーチェックアウト】


作戦実施勢力:サン・ハンムラビ・ソサエティ 日本ロッジ本部 関東横浜支部。



☘【作戦目標】

第一目標:杉並区のホテル「ブラッドカップ・イン」からの脱出と東京23区からの離脱。

第二目標:野原 麗菜の死の真相究明と遺品の奪還。

第三目標:ビーストヘッド・プロモーション代表取締役、畑 和弘の殺害。


☘補足

・ナイトフォール、ブラックキャットの二名は不参加。

・ミラ36号ソフィアは訓練中の事故により負傷。作戦不参加。彼女の不足はミラ8号のサイキックドローンで補う。

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