第3話
夏の暑さからも解放され、寝るのも苦痛にならなくなるこの季節。蝉の活動もそろそろお終わりを迎え、次はコオロギや鈴虫が活動しており、キキキキと涼やかな音色を出している。
実咲屋は無事本日の営業を終了し、皆が床に入る時間であった。美麗も連日の給仕で疲れ果て、布団をしっかり握りしめて、スヤスヤと眠っている。しかし、小夜が更ける頃、2人の女たちが密会をしていた。
「〝ヤツら〟が動き始めている」
「……そう」
窓辺に腰かけているのは、色鮮やかな桃色の髪に、黒い着物、そして、少し赤みがかった濃い桃色の瞳をしている少女だ。座り方も少し立たせた太ももに腕を乗せ、手をぶらんと下ろしている様子から、中々勝ち気な少女だということが伺える。
対して、桔梗はその少女を見ずに、ただひたすら横で静かな寝息を立てている美麗の頭を撫でている。時折、なめらかな白髪を一束掬い、戯れている。
「どうしたんだい?あんまり興味無さそうだね」
「いえ、そういうわけでは無いわ。ただ、この子の寝顔があまりにも可愛くて」
桔梗はいつもの強気な表情は消え失せ、穏やかな顔をして美麗を見つめている。たまに、ふにふにと美麗の頬を触りながら。その光景を見た少女は、はぁと、盛大なため息をつき、天を仰いだ。
「呆れた。さすがの桔梗も慌てると思って、すぐに駆け付けたのに。無駄だったのかい」
「あら、無駄ではないわよ。……そうね、ここも見つかるのも時間の問題かしらね……」
瞬時に桔梗は、いつもの強気な表情を見せる。窓から月の光が差し込み、艶やかな黒髪と、燃えるような赤い瞳が呼応する。美麗の頭を撫でるのを止め、紅い眼をすっと見据え、目の前にいる少女に対峙した。そんな何気ない動作でも、どこか気迫に満ちた、いや、凛とした水の波紋が伝わるような静けさを醸し出している。
「……あなたにお願いがあるの」
「なんだい?アタイに出来ることがあれば」
アンタがアタイに頼みごととは珍しいじゃないか、と、少女は面白そうな瞳をしてにんまりと口角を上げる。そんな少女をよそに、桔梗は半ば無表情で紡ぐ。
「……実咲屋に入って、美麗を守って欲しいの」
桔梗の言葉は、その場を凍り付かせるほどの威力を持っていた。そのせいか、少女の思考も一瞬止まったが、頭を思いっきり稼働させ無理やり思考を巡らせた。
「は?何言ってんだい。美麗を守るのは姉であるアンタの役目なんじゃないのかい」
「私は、ここを経営している以上、簡単に身動きが取れないの。そして、〝ヤツら〟の狙いはこの私。私が美麗の側にいれば、この子に危害が及ぶわ」
「〝ヤツら〟がアンタに復讐するために、アンタが一緒にいると美麗にも危害が及ぶから、アタイに頼むってわけなのかい。だったら、美麗の意思はどうなるんだい。見ず知らずのヤツに守られることを。アンタ美麗の気持ちもわかってるんじゃないのかい」
「……勿論よ……。私たちが姉妹以上の感情を持っていることも」
桔梗は顔を俯かせ、目を伏せる。そんな桔梗の姿を見た少女は、思わず窓辺から飛び降り、桔梗に掴みかかった。
「だったらどうしてだい!?戦いたくなければ逃げればいいじゃないか!!」
少女は勢い余って、大きな声を出してしまう。すると、近くで美麗が身じろぎ、2人はギョッとたじろかせた。しかし、美麗は桔梗の肌襦袢の裾をぎゅっと掴み、すぐに眠りの世界へと沈んでいった。微かに、ききょうねえさ……という寝言が聞こえる。どこかほっとした空気が場を覆った。しかし、美麗に視線を送っていた桔梗は、今度は真っ直ぐと少女を見つめ、紅い眼から雫が一滴流れ落ちる。
「……もう逃げないって決めたのよ……」
あの時、美麗を守った。だから、今ここにいる。しかし、自分はとんでもない罪を犯してしまい、一生追われる身になってしまった。現在、この状況では、本当に美麗を守り切ることがあの時出来たのだろうか。己の身はいくらでも守れる。八つ裂きにされようとも、この身体が朽ち果てようとも。
しかし、美麗は別だ。あの子は普通の人間だ。幼い頃から両親と離れ離れになり、ずっと寂しい想いをさせてきた。同情などそんな陳腐なものではない。姉妹愛?いや、それ以上の愛という概念を越えている何かだ。ただ、それを表現する言葉が無いので、愛というありふれた言葉に収まってしまう。初めてあの子を見た時から、ずっと、心寄すようになった。どろどろとした何かが、私をあの子に蜘蛛の糸のように纏わりつかせる。本来ならば、傍で守ってやりたい。今の自分では、余計事態が悪化しそうだ。
だが、傍でなくとも、守ることは出来る。あの子と平和に暮らしたい。ただそれだけなのだ。自分が犯した罪が、それを許さないと言うのならば、私は……いや、もうその覚悟が出来ている。
「……わかったよ。上手くアタイが潜り込めるようにお膳立てしといてくれるかい」
「もちろんやるわ。任せてちょうだい」
「あと、もう1人いるんじゃないかい。えっと、久遠……なんていったっけ?」
「久遠渚。男の格好をしているけど、列記とした女よ」
「ここのモンはみんな訳ありじゃないか。まあ、いいさ。で、その渚というのは事情を知っているのかい?」
「詳しくは教えてないけれど、事のあらましは知ってるわ。ただ、核心部分は知らないけど」
「そうかい。まあ、あまり事情は知らない方がいいだろうね」
よいしょっと、少女は窓辺に乗り移る。少女は少し不満気だったが、どこか納得したようだ。さらさらと、涼風が舞い込み、鮮やかな桃色の髪が四方に靡く。
「さっきのこと、頭ァに伝えておくよ。まあ、許可は降りると思うけどね」
「無茶を言ってごめんなさいね」
「普段誰にも頼らないアンタの頼みだからね。まあ、頭ァもアンタの母さんに恩があるから断れないと思うよ」
「……そうだったわね」
どこか寂し気な表情を醸し出す桔梗は、じっと掌を見つめる。ふと、我に返り、明日も早いからもう寝るわねと、少女に声をかけてから、美麗の布団の中に潜り込む。窓辺に佇んでいる少女は、ふとその動作を眺めていた。
「……アンタ……いや、桔梗。……死ぬつもりなのかい?」
桔梗は一瞬制止したが、問いに答えなかった。隣にいる美麗に寄り添い、そっと抱き込んだ。
渚は、店先で倒れている少女を一先ずは奥の部屋の布団へと運んだ。少女の身体は少し泥汚れが目立っていた。せっかくの柔らかな茶色の着物に緑の袴が台無しだ。着物と同じく柔らかな茶色の髪で緩く2つに結っており、それをさらに三つ編みにしている。そして、時折、少々眉を歪ませていた。
「……どうすんだ、コイツ」
「しばらくは寝かせておきましょう。話を聞くのはそれからでも遅くないわ」
「凄い……汚れてる……大丈夫かなぁ……」
3人は少女の顔を覗き込んで、口々に言い放つ。桔梗の言う通り、今はそっとしとおくことが賢明だろう。
「美麗、この子を頼むわ。私は仕事が残っているし」
「わかりました!桔梗姐さん!この子を見ています!」
美麗は拳を握りしめ、勢いよく頷く。
「頼むぜ、俺も後があるから」
渚は美麗の頭をポンっと叩き、桔梗と2人で部屋を後にしようとする。すると、奥で寝ている少女が何か呟いた。
「……おなか……すい……た……」
か細い声で少女が呟く声が、3人の耳にも入った。驚いた表情で少女を見つめる。
「おい!大丈夫か!?」
渚はすかさず少女の元へ駆け寄り、顔をのぞき込んだ。見ると、少女の顔は先ほどよりも微かに穏やかだった。茶色の瞳がゆっくりと覗かせる。
「……おなか……すいて……」
弱々しい声だが、それでも芯はしっかりとしている声だった。
「ああ、何か作って来るよ。そこで待ってろ」
渚は何か残ってたかなーと、ぼやきながら、調理場へ向かう。桔梗も後は
美麗に任せ、さっさと2階の方へ上がっていった。任された美麗は、少女に対して恐る恐る話しかけようとする。
「あの、大丈夫ですか?」
「……はい、ご心配おかけして……あの、ここはどこですか?」
少女はどこかぽーっとした様子でゆっくりと起き上がり、周囲を見渡す。自分がなぜここに来ているのか、記憶が抜け落ちているようだった。穏やかな様子から、少し不安気な様子になる。
美麗は意外にも話しやすい子だと感じ、会話を続けようとした。
「ここは、実咲屋というご飯屋です。とっってもご飯が美味しいんですよ!あなたのお名前は?」
「そうでしたか……私は里木椿と申します。あの…あなたは?」
「私は緋桜美麗って言います!ここで給仕をやってます!とても優秀な給仕として評判なんですよ!」
「とてもドジっ子な給仕として有名……だろう?」
美麗がえっへんと、少女に対して少しだけ誇張表現をして自己紹介をすると、すかさず部屋の入り口から訂正の言葉が突き刺さる。美麗の自己紹介を訂正したのは、渚だ。おにぎりを片手にくすくすと苦笑いしている。
「あ!渚くん酷い!最近はお皿割ってないですよ!」
「それはたまたまだろう?しょっちゅう皿割って桔梗に叱られてぴーぴー泣いてるくせに」
「ぴーぴーは泣いてません!しくしくです!」
「同じことだろうが」
美麗が顔を真っ赤にして渚に反論しているが、やはり渚の方が上手なので、全く相手になっていない。そんな様子を眺めていた少女は、声を押し殺しながらくすくすと笑い始めた。自然と、2人の視線が少女に集まる。
「あっ……ごめんなさい……つい……」
「笑うことが出来るくらい、少しは良くなったみたいだな。ほら、食えるか?」
「……はい、頂きます」
椿という少女は、渚からおにぎりを受け取り、少しだけ頬張った。すると、ちょうど良い塩加減が口の中に広がる。ふっくらと炊かれた米も甘く感じられ、何個でも胃の中に入れたくなるような美味しさだった。椿は思わぬ美味しさで、少しだけ咀嚼が早くなる。そして、あっという間に平らげてしまった。
「……美味しい」
「今日の残り飯で悪いがな」
「渚くんのご飯はとっても美味しいですよね!あ、渚くん、私の分もある?」
「無い」
渚はきっぱりと否定した。あるわけないだろう、ご飯それしか残っていなかったのだからと言わんばかりだ。それを聞いた美麗はがっくりとうなだれる。
「……渚くんのケチ」
「ケチで結構だ。で、彼女は何て言うんだ?」
「里木椿ちゃんだよ。お花のお名前!可愛い名前だよね!」
「そうか。俺は久遠渚。じゃあ、椿……でいいか?風呂が沸いてるからコイツと一緒に入ってこい。その泥を落としたいだろう?」
「え、でも……ご迷惑じゃ……」
「今更何言ってんだ。さっきもう一人いた女将の桔梗からも許可は出ている。風呂に入ってから、事情を聞かせてもらうぞ」
桔梗も何を考えてんだか、とため息をつきたい表情を見せる。しかし、一方の椿はやはり、泥を落としたかったらしい。どこか戸惑いながらも湯浴み出来るのは嬉しそうだった。そして、渚の提案で、美麗も一緒に風呂に入ることになった。いつも桔梗と入っているのだが、今は手が離せないのと、1人で入るより、2人一緒で入った方が、水道代が助かるというわけだ。しかし、これには椿がまた萎縮してしまう。
「……美麗さん、ご一緒して大丈夫ですか?」
「全然!迷惑じゃないよ!1人で入るより、他の人と入った方が楽しいし」
1人で入るのが逆に慣れていないので、会話しながら湯を浴びるのが一番心地いいのだ。
「うるさい奴だが、話し相手ぐらいにはなるさ」
「本当に……何から何まですみません……」
椿は土下座しそうな勢いで、頭を下げる。
「お、おい。これも何かの縁だろう?後で着替えを脱衣所に置いておくから」
「私の分もお願いね!」
「自分で用意しろ」
美麗はまたもやぷーっとふくれっ面を見せた。
実咲屋の風呂場は小さいものの、浴槽は檜で作られており、どこか森林の香りがする。小さいと言っても、2人くらいなら余裕で入る余地はある。実は風呂場には外に繋がるドアがあるのだ。この時代には個人風呂がまだ贅沢品であり、大抵は銭湯で汚れを落とす。しかし、ここの経営者が風呂好き、綺麗好きの影響もあって、風呂が設備されているのだ。常連客などがよく風呂を借りに来るため、入りやすいように勝手口があるのだ。
美麗と椿は服を脱ぎ、ちゃぽんっと足を湯の中に差し入れる。そして、ゆっくりと、肩まで浸かった。
「んっ……気持ちいい……椿さん、湯加減どうかな?」
「……はい、とても気持ちいいです」
湯気が2人を包み込む。風呂場にいるせいか、声も籠もって聞こえる。美麗は湯船の中で、ぐぐぐっと足と腕を伸ばして、疲労した筋肉を癒す。
「あの、椿さんって何歳なの?」
「今年で17歳になります」
「そうなんだ!私と同い年だ!」
美麗が多少童顔が入っているせいか、椿が異様に大人っぽく見える。落ち着いた雰囲気のせいだろうか。だが、まだあどけなさは残っているので、10代ではあるに違いないだろう。
「あ、あの、そんなに驚きますか?」
「うん!だって、落ち着いてるし、私よりも年上かと思ったもん!あ、さん付けじゃなくて、椿ちゃんって呼んでもいいかな?」
「ええ、構いませんが……」
どこか椿が圧倒されている。しかし、同い年とわかった椿も、美麗と同じくどこか嬉しそうだった。
「じゃあ、私のことは、美麗って呼んで!」
「……えっと、その……まだ……慣れてないので……美麗さん……じゃ、ダメですか?」
それを聞いた美麗は、ちょっと不満そうな顔をしたが、椿は人見知りするタイプで、あまり近づこうとすると戸惑ってしまう子だと理解した。一瞬間を置いていいよ、と返事をする。
「……ありがとうございます。美麗さん。私……同年代の友達がいなくて……」
「私もだよ!この町は私よりも年上が多いの!桔梗姐さんはもちろん、渚くんだって私よりも年上だし……」
美麗は口元を湯に突っ込み、ぶくぶくと泡を噴かせる。常連客もそうだが、この町は子どもよりも大人が多い。この時代はまだそこまで医療は発達しておらず、子どもは7歳までは神の子と言われるほどなので、仕方ないのかもしれない。そんな美麗の様子を見ていた椿はくすくすと微笑む。
「……私の生まれた里でも、子どもの数が少ないんです。みんな……」
「みんな?」
椿はすっと睫を伏せる。その表情はどこか悲しげだった。美麗もこれ以上は追求してはいけないと悟り、口を閉じた。
「……だから、美麗さんみたいな同年代の子と友達になれて嬉しい。……あの、美麗さんの髪の毛、洗ってもいい……ですか?」
「え?……いいけど、長いから大変だよ?」
唐突な椿の願いに、美麗は少しきょとんとした。美麗の艶やかな白髪は頭の高い位置に結っているためにそこまで長いと感じないのだが、下ろすととても長い。腰の長さくらいあるのだ。いつもは桔梗に洗ってもらっているために、大変さがわからないのだが、どうみたって大変なのは間違いないだろう。
「……よく、里の子どもたちの髪の毛を洗ってますから……慣れてます。それに、美麗さんのその綺麗な髪の毛を触ってみたくて……」
「あ、ありがとう……大変だったら言ってね!」
美麗たちは浴槽から出て、美麗は椅子に座り、椿は後ろで膝立ちをした。いつも洗っている桔梗ではないので、美麗もどこか恐縮気味だ。
椿は石鹸を手に取り、手のひらで泡立てる。そして、それを頭の上に乗せて、わしゃわしゃと白髪に馴染ませる。
「……痒いところはありますか?」
「ないですー……」
椿の力加減は絶妙らしく、美麗も少しうとうと気味だ。頭が少し堅いせいで、椿も力が入っており、心地よく頭皮のツボを刺激してくれる。時折、美麗が前屈みになりかけるので、それを椿がさっと体勢を整えてくれる。
「……流しますね」
椿はお湯を上からざばんっと勢いよくかけた。しかし、目には入らないように手でガードをする心遣いを見せた。石鹸が頭皮に残らないようにもみもみとマッサージをする。
「……本当に綺麗な髪の毛ですね……光輝いている……」
「私の髪の毛を褒めてくれるのは、桔梗姐さんと椿ちゃんの2人だけだね……」
美麗は俯きながら答える。どこかその様子は寂しさが背中で物語っている。
「……気味悪くない?白髪って」
「……そんなことないですよ。凄い……綺麗で……逆に羨ましいです……私の髪の毛は普通なので……」
「椿ちゃんの髪の毛は艶々の茶髪だよね!私はそっちの方が羨ましいなあ……」
椿の髪の毛は茶色であり、どこかふわふわとしている。普段三つ編みをしているらしいので、そのせいもあるかもしれない。椿はそのふわふわした髪の毛を掴んでじっと見つめている。
「……私の幼なじみの女の子に鮮やかな桃色の髪をした子がいます」
「桃色!?凄い綺麗な色だろうね!!」
いいなあ、と羨ましがる美麗に対して、椿は眉をじっとひそめた。
「珍しい髪の色ですから……よくいじめられて……」
「そっか……私は桔梗姐さんに守られてたから、そんなことはなかったけど……辛いよね……」
「いえ、いじめられてはいたのですが……よく返り討ちにしてました」
あっさりと言い放った椿は、はあ、とため息をついた。
それを聞いた美麗は逆に呆気に取られた。今の会話の流れから察するに、いじめられて非常に辛い思いをしていたのかと思えば、そうではないらしく、逆に攻めていたらしい。どうやら里の中でもトップに立つほどの腕っ節らしく、男相手でもよく投げ飛ばしていらたらしい。
「そ、そっか……今は女の子も強くなきゃいけないもんね!」
「……そうですね。物騒な世の中ですから、自分の身はできるだけ守らないと……」
2人はそれから、身体を洗い合った。美麗はやはり慣れていなかったために、始終照れていた。だが、椿は逆に慣れているという感じなので、どんどん洗っていった。お互いの泡まみれの身体をお湯で流し、さあ、出るかというところで、美麗が泡まみれの床に足を掬われ、椿の元へ倒れ込む。
「うわあっ!!」
「……っ」
とっさに椿が美麗を抱え込み、どたんという激しい音が風呂場中に響きわたる。美麗が椿の上にのしかかり、椿が美麗の背中に腕を回して支えるという構図になった。
「……いたたた……あっ椿ちゃんごめんね!重いよね!すぐにどくから!」
「……いえ、怪我が無さそうで良かったです」
しかし、この構図はどこからどう見ても、いかがわしい体勢にしか見えない。女同士とはいえ、裸で絡み合っているのだから。柔らかい肌同士が触れ合い、まるで吸いつくようだった。しかし、不思議と下品には見えない。
美麗もさすがにこの状態はよろしくないと思ったのか、上体を起こそうとして手を付いた場所がまたもや滑り、椿の形の良い胸を思いっきり掴んでしまった。
「ひゃあっ!」
「うわっ!!ああ、ごめんね!!本当にごめんね!!」
「何か騒々しいのだけれども」
運悪くこのタイミングで桔梗が風呂場に入ってきた。目に入るのは、裸で美麗が椿にのしかかり、しかも胸を掴んでいるという光景だった。もちろん、美麗のことだから、滑って転んで椿に倒れ込んだということはわかるのだが、許せないものは許せなかった。
桔梗は表情には出してはいなかったが、目は一切笑っていなかった。それを長年の経験で察した美麗は、風呂で赤くなった肌が一気に青ざめていくのを感じる。
「あ、あの、これはですね、桔梗姐さん……」
「……着替えたら、2人も食堂に来なさい。……美麗はその前に部屋へ」
美麗は湯浴みでかいた汗の他にも、冷たい汗も流れてくるのを肌で感じ、ごくりと唾を飲み込んだ。
「それで?前に勤めていたところから追い出されて、三日三晩食うものも食えず、空腹でたどり着いたのがここってわけか」
「……はい……。ちょうど、お出汁の良い香りがしたのでつい……」
美麗と椿が湯浴みをした後、一同は食堂へ集まり、まずは腹ごしらえということで夕食をつついていた。主に昼食のまかない飯なのだが、それをアレンジして作っているのだ。今日は鮭の刺身といくらの親子丼だ。美麗の好きなメニューの一つなのだが、当の本人は意気消沈しており、口から魂が出てしまうのではないかというくらいに暗くなっている。
「……美麗、お前また桔梗を怒らせたな?」
「その件についてはしっかりお灸を据えておいたから、気にしなくていいわ。……それよりも、里木椿……で、いいのかしら。なぜ仕事を辞めさせられたの?」
桔梗が先ほどの湯浴みの件を流し、本題に進めようと椿に話すように促した。その場にいたものたちも自然と椿に目線が集中する。
「……はい。とある料亭の給仕として働いていたのですが……仕事のミスは無く……一緒に働いている方々やお客様にもよくして頂いたのですが……その……」
椿は次の言葉を出すときに少しだけ戸惑った。だが、言わなければならないと自分を律し、口を開く。
「……その、私……凄く食べるんです……」
その一言が発せられた瞬間に、時間が止まったように見えた。何かもっと重大な重い話だと思ったのだ。場の空気を変えようと、渚が動く。
「まさかそれは、まかないを大量に食べるから店の経営が傾くということか?」
「はい、そうなんです……1人でご飯5合以上食べてしまうのです……本当にお腹がすいて……あ、ご飯屋で働いているとは言っても……つまみぐいは絶対にしません……」
椿は恥ずかしそうに頬を赤く染め、俯いてしまう。美麗たちも顔を傾げ、少し困惑した様子だった。
椿の話では、働き者で客からも人気を得たのだが、まかないなどの店の食材を食べ尽くし、経営難になるからという理由で暇を出されたらしい。中々次の職場も見つからず、飲まず食わずで放浪とした結果、ちょうど出汁の匂いに釣られて、中に入ろうとした瞬間に空腹で倒れてしまい、渚に発見されたということらしい。
「お恥ずかしい話で……」
「そうね……」
美麗たちは事の発端に何も言えず、沈黙したままだった。辞めた理由が理由なので、何と言えばいいのかわからなかった。少しばかり重い空気が流れた所で、それを打破したのは桔梗だった。
「それで?あなたはこれからどうするのかしら?見たところによると、行く宛が無いみたいだけど」
「そうなんです……これからどうしようかと」
本当に途方にくれたという感じだった。理由が理由なだけに、職種を変えるか、里に帰るかの選択肢しか無いのだろう。しかし、町は圧倒的に飯屋のところが多く、それ以外の雑貨屋や薬屋、果ては遊女屋くらいしかないのだろう。そこは飯屋で働いても合わなかった者が殺到するところで、人手不足ではないため、採用は難しいだろう。飯屋以外となると、物凄く範囲が狭まってしまう。
「いいわ。ここで働きなさい」
「おい、桔梗!」
「丁度人手不足だったし、オーナーには私から話しをつけておくわ」
渚は桔梗の肩をガッと掴み、2人には聞こえないような声色で囁いた。
「素性が全くわからないんだぞ。何考えてんだお前は」
「あら、ここで働いている者は皆訳ありよ。それはあたなたもよく知っているのでは?」
桔梗は平然とお茶を啜り、渚の意見を遮断するように目を瞑った。これ以上は聞かないと言わんばかりだ。
「……渚くん……」
美麗が椿の手を握って不安そうな顔でじっと渚を見つめた。風呂場で随分と仲良くなったらしく、先ほどの椿の話ですっかり絆されたしまったらしい。椿も不安そうな表情を浮かべている。これでは自分が悪者みたいだと思った。そして、最後の一言が渚を動かすことになる。
「渚、私の判断が間違っていたことはこれまでもあったかしら?」
その一言に、渚は苦虫を潰したような顔で渋々と言い放つ。
「……ねぇよ」
「やったあ!椿ちゃん、良かったね!」
「……はい。あ、あの、本当によろしいんでしょうか?」
椿の不安と期待が入り交じった視線が女将である桔梗の元へと降り注ぐ。本当にこれで良かったのかと。少し訳ありな自分を本当に働かせてくれるのか。桔梗は椿の視線に応えるように湯飲みを静かに置く。
「先ほども言ったけれど、うちは人手不足なの。特に給仕がね。あなたは経験者のようだから、すぐに慣れると判断したわ。だけれども」
桔梗の赤い瞳がきらりと輝いた。
住み込みで働くことなど衣食住は保証する。そして、食事に関しては無限に食糧があるわけではないので、決められた範囲以上に食べるのであれば、実費で賄うのは構わないという旨を伝える。すると、椿は感極まり、ありがとうございますと、頭を下げた。
「椿ちゃん、私と同じ給仕だね!これからよろしくね!」
美麗は新しく入った同年代の同僚に対して天にも登るような雰囲気だった。対して、椿は嬉しさと不安などが混じっており、美麗とは反面、どこか落ち着いていた。
「早速だけれど、美麗と2人で町で買い物をして欲しいのよ。買い物リストは後で渡しておくから」
「はい、桔梗姐さん。わかりました!」
「……もう働かせるのかよ」
渚は腕組みをして、はあとため息をつく。まだ椿を疑っているようだった。突然現れて、物凄い量の食事を採る彼女は何かと謎が多い。どこの出身やどこで働いていたのか、なぜ出身地から出てきたなど。見た感じでは悪いことをするような人間にはとても思えない。どこかおどおどしている彼女に対して、警戒心丸出しな自分が嫌な人間に見えてしまう。致し方あるまいが、ここは、桔梗の判断に任せてみるしかない。
「おい、食事は決められた量しか出さないからな。それ以上は金払えよ」
「は、はい……それはもう……」
すると、椿からぐぎゅうと軽快な音が鳴り響いた。
昼間の町はさすがに賑わっている。
実咲屋から少し離れたところに食べ物屋や雑貨、見せ物屋など多数の店が並んでいる。桔梗から渡された買い物リストを頼りに美麗と椿は人混みをかき分けて足を運んでいく。
「相変わらず凄い人だねー!椿ちゃんは初めて?」
「は、はい……人に酔いそうですね……」
桔梗に買い物リストによると、皿などの食器類などを買ってきて欲しいそうだ。デザインや色、系統など細かく記載されている。ここまで書かれていると桔梗自らが見立てた方が良いと思うのだが、女将という立場上いかせん身動きが取れないようだ。
2人は離れないように手を繋いで進む。すると、椿は振り返らずにすっと後ろを横目で見る。
「椿ちゃん!着いたよ!」
「……は、はい」
どうやら、食器などを売る雑貨屋に着いたようだ。可愛い食器やレトロなもの、シックなもと多様な種類のものが置かれているようだ。奥には少しばかりの髪飾りなどの小物もある。
「あら、美麗ちゃん!」
「弥生さん!」
2人はぎゅっと抱き合った。ここの女店主である弥生は、母性溢れる雰囲気を醸し出している。割烹着姿がよく似合う女性だ。何かと美麗に世話をやいていており、頼りない美麗のことを幼い妹を持ったみたいだと喜ぶのだ。もちろん、経営もやり手で、2店舗目も出そうか模索しているらしい。すると、美麗の隣にいる椿に目配せした。
「あら?お友達?」
「今日から実咲屋で働く里木椿ちゃんです!」
「は、初めまして……里木椿と……申します……」
「そうなのお。初めまして。ここの店主の弥生と言います。弥生さんって呼んでね!歳は17歳よお」
うふふと、笑う弥生はどう見ても17歳のは見えない。20歳はとうに越えてるいるだろう。いや、女性相手に年齢の話は愚問だ。
「今日は何を買いにきたのかな?」
「桔梗姐さんに頼まれて、食器を買いにきました!小皿とか大皿とか」
「いつものリストはある?」
「はい、これです!また細かくて……」
あら、こんなにあるのねえと、弥生はリストを手に食器を探し始めた。彼女が探している間に、美麗と椿でのんびりと小物を見ていることにした。簪や髪留め、造花を使った華やかなブローチなど、年頃の女の子が見れば、思わず手にとってしまうほどの美しいものが揃えられている。
「わあ!椿ちゃん!これすっごく綺麗!」
「あ、本当ですね……」
美麗が手に取ったのは、赤い簪だった。桜と桔梗をモチーフにしたものだった。赤色をベースとしており、所々に金箔が散りばめられている。どこか凛としたような気品さが出ており、桔梗によく似合いそうだ。
「これ、いいなあ…」
ちらりと値札を見ると、それ相応の価格が付いていた。良品なものにはそれなりの値段が付いてしまうのは致し方ない。いくら店主と仲が良いとはいえ、値下げしてもらうのは気が引ける。
「……美麗さん、弥生さんにお願いして、とっといてもらうのはいかがでしょうか?……お金が貯まったら、買いに行くということで……」
「そうだね!後で弥生さんに聞いてみる!」
お給料から少しづつ貯めれば、いずれは買えるだろう。おやつを買うのを少し我慢すればいいのだ。大好きな桔梗のためならこのくらい平気だ。
「美麗ちゃーん、あったわあ!こんなのはどうかしらあ?」
弥生が奥から持ってきたのは、落ち着いた色をした水色や薄桃色、薄緑の小皿と大皿だった。あまり派手なものは使わず、食事時に癒しを与えることを基本としている実咲屋には合いそうだ。
「ありがとうございます、弥生さん!このお皿とっても可愛いです!」
「でしょでしょ!あら、美麗ちゃん、それ気に入ったの?」
弥生は美麗が持っている桜と桔梗柄の簪を見つめた。
「はい!これを買うにはお金が足りないので、お金が貯まるまで、とっといてもらえますか?」
「あらあ!桔梗さんにね!全く、姉思いないい妹ね!わかったわ!奥に置いておくから、お金が貯まったら、買いに来てね」
本当に可愛い美麗ちゃんっと、美麗を抱きしめ、胸の中に招き入れた。一方美麗は、豊満な胸にぎゅむぎゅむと押し込められて、少し苦しそうだった。
「あ、あの……美麗さんが……」
「あら、美麗ちゃん!ふふふっごめんなさいね」
「ぷはっ」
椿の助け船によって脱した美麗は顔を真っ赤にさせていた。きゅうっと座り込みそうになるのをなんとか堪える。そんな美麗を見ていた椿は、そっと腰を支えてやる。
弥生に食器を綺麗に包んでもらい、店を後にした。帰り際に桔梗さんによろしくねということと椿には買い物じゃなくて、今度ゆっくりお茶でもしましょうという誘いだった。誘われた椿はどことなく嬉しそうだった。
店から出ると、食べ物屋や雑貨屋などが立ち並んでいて、市場はまだまだ賑やかな盛況だった。そんな楽しそうな買い物を楽しんでいる人たちを後目に、椿はちらりと目線だけ後ろに目配せする。
「……美麗さん、ちょっと、知り合いを見つけてしまって……挨拶をしたいので、先に帰ってもらえませんか……?」
「いいよ!あ、でも私も挨拶しに行っちゃ駄目かな?」
美麗は椿の手を掴んで、お願いをしてみた。すると、椿はゆっくりと美麗の手の上に己のものを重ねる。
「その知り合い……物凄く人見知りで……あまり人には会いたくない人なので……」
「そっかあ!わかった!じゃあ、会う時に私のことも紹介してね!」
あまり無理を言うものではないとすぐに察した美麗は、椿ちゃんのお友達とも知り合いになりたいなあ、また後でね!と、実咲屋に向かった。すると、椿の横を通って、後を追う黒い影がいくつか通り過ぎた。それを見送った椿は小走りに美麗とは逆の方向へ向かい、市場を抜けて行った。
椿が向かったのは、河原だった。大中小様々な石が点在している。もうすぐ夕暮れ時らしく、夕日が水面を煌びやかに照らしていた。
「あなた……ですか……ストーカーさんは……」
「ストーカーとはひでえなあ。俺はただ可愛い女の子に会いたかっただけなのに」
全身真っ黒な男は、失礼な話だぜとぼやいた。黒いマスクをして、目元以外は完全に黒い布で覆われている。肩越しには太刀の柄のようなものが見える。ガタイが良さそうで、太刀も難なく持てそうな感じの男だった。その男の背後には同じよな格好をした男たちが2人ほど控えていた。違いは、太刀を持っているかいないかだった。
「単刀直入に聞くぜ。夜雲桔梗と緋桜美麗はどこにいる?」
「知りません……」
おやおやつれないねえと、男は小刀を手のひらで軽く投げては受け止めるという遊びを繰り返した。くくくと、ニヒルに笑う。
「さっき仲良くお買い物してたじゃねえか。嘘をつく子はお仕置きしなきゃなあ?」
それにしても、お前は誰だと椿に問う。しかし、椿は何も答えず沈黙という空気が立ちこめる。両者共しばらく動かなかった。しかし、その沈黙を破るように、男は遊んでいた小刀を椿に神速で投げる。すると、椿は一気に地面から離れ、宙を舞う。りーんと鈴の音のようなものが聞こえ、空中に鼓動が響き渡る。
「ぐおおお、お前は……!!」
突然、男の真上から桃色の大きな線光が雷鳴し、それが男たちに直撃した。身体は一瞬にして無惨にも引き裂かれ、周りの小石に赤い血だまりが広がっていく。男たちの生死を聞くのは愚問だろう。半分だけになった頭が奇跡的に残っていたぐらいだ。男の左目が大きく見開かれており、禁忌なものを見てしまったような顔をしている。
椿はぱちんと刀を仕舞う音と共に、すとんっと地面に足を付けた。ひゅるりと風が靡く。穏やかな風と共に鮮やかな桃色の髪の毛が気持ちよさそうにふわふわと揺れた。
「……アタイの髪を褒めてくれたのは、これで2人目だよ。美麗」
椿、いや、桃色髪の少女は寂しそうに呟く。すっかり陽も暮れたようで、月が昇りかけている。河原には血だまりが飛び散っている異様な光景だが、月の光に照らされている川は不気味なほどに美しい。少女は風で揺れ動く水面をただただ見つめた。
「早速狙われてるじゃないかい。もっと早く言いな!」
「あら、意外と早かったわね」
桃色の髪の少女が窓辺に腰掛けながら、部屋の中央にいる桔梗に対して悪態を付く。件の桔梗は素知らぬ振りをして横ですやすや寝ている美麗の頭を撫でている。撫でている手は愛おしいものに触れているかのように酷く甘やかだ。
「情報がこちらも上手く掴み切れていないのよ。そろそろだとは思っていたけれど」
「それって……アタイと美麗を餌にしたのかい?全く、相変わらず危ない橋を渡るね、アンタは」
ふうと桃色の髪の少女はため息をつく。いくらこちらに力があるからといって、大の男3人をまとめて相手にするのはさすがに骨が折れる。ましてや美麗を守りながらだ。
「それだけあなたを信頼しているのよ。そうね……これから次々と刺客が来るでしょうね……」
さらりと美麗の頬を撫でる。すべすべしてて、いつまでも触っていたくなる。当の美麗はむにゃむにゃと言葉にならないものを発して夢の世界だ。そんな光景を見ていた少女はどこか複雑そうだ。
「……美麗には教えないのかい?」
今の現状を。そう問われた桔梗は少女ではなく、その後ろの月を眺める。燃えるような赤い瞳が月の光に照らされて、艶やかでどこか寂しそうだった。
「……あの子には汚れたものを見せたくないのよ。美しいものしかみせたくない」
この世界ははっきり言って汚れきっている。人間の業ともいえる欲まみれな世界。憎しみ、悲しみ、絶望、そのすべてを集約しているこの世界にあまり美麗を近づけたくない、飲み込ませたくない。無理だとはわかってはいるが、純白な心を持つ美麗を穢らわしいもので染まって欲しくない。
「それに……」
「それに?」
桔梗は美麗の額に己の唇を触れさせる。触れるだけのものだが、愛を注ぎ込むような神聖なものに見える。己のの愛の深さと同じくらい美麗にも愛して欲しい。同等の愛でなければ嫌だというような懇願のようにも感じ取れる。
「……真実を知ったら、この子は私を嫌いになるかしらね……」
柄にもなく弱音を吐露する桔梗に対して、カッとなった少女は茶色い物体を投げつける。ガサっと少しだけ紙擦れの音が聞こえるが、美麗は起きる気配が無かった。
「自惚れるのもいい加減にしな。美麗のことを疑うのかい?」
「そういうわけではないけれど」
「じゃあ、あの子を信じな」
今日の買い物で桔梗のために見繕ったときの美麗の顔が忘れられない。人を愛するということはこういうことなのか。その場にいなくても真っ直ぐ桔梗だけを見ているということが嫌でもわかった。こんなこと、絶対目の前で俯いている桔梗には絶対言ってやらない。
「ソイツは頭ァからの餞別だ」
「あら……大学芋ね。美味しそう」
少女が桔梗に投げつけた茶色の紙袋には大学芋が入っていた。艶やかな餡を纏ったサツマイモは夜中なのにも関わらず、食欲をそそる。
「意外とアンタ甘いもの好きだよね」
「ふふっ、美麗の影響かしらね」
昔はそこまで甘いものが好きではなかったのだが、美麗のために趣味で大福だの羊羹、団子などのお菓子を作っていたら、すっかり自分も甘いもの好きになってしまったのだ。
「後であの人にお礼を言っておいてちょうだい。それと、あなたも食べるわよね?お茶を淹れてくるわ」
「すまないね」
桔梗はすくっと立ち上がると、美麗が寝返りをうった。しかし、掛け布団から出てしまったので、風邪をひかないように掛け布団をかけてやる。頭をさらりと撫でてから、部屋の出口へ向かう。すると、出口で立ち止まった。
「……紅葉(くれは)、ありがとう」
「……ふんっ」
赤くなった顔を隠すように、ぷいっとそっぽ向いた。
永愛 藤堂ゆかり @yukari_BxB
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