となりのゆうれい

○ 住宅地・全景(日中)

   強い日差しと、蝉しぐれ。

   住宅が、ぎゅうぎゅうの寿司詰め状態で立ち並んでいる。


○ 塚田家前~四ツ屋家前

   二階建ての塚田家。隣接する家の屋根同士が触れ合いそうに建っている。

   引越し業者のトラックが、路地に停まっており、業者の人たちが家具を塚田家

   に運び入れている。

   塚田崇つかだたかし(13)、トラック後方からダンボールを抱え、門前に向かっていく。

レイの声「引っ越してきた人?」

   塚田家右隣の住宅(家)前に、四ツ屋レイ(13)が立って、崇を見つ

   めている。

崇 「(立ち止まり)そうだけど?」

レイ「(真顔)知ってる?」

崇 「……え?」

レイ「あそこ」

   レイ、塚田家二階に向かって指を指す。

   崇、怪訝そうにレイの近くまで歩き、指先の方向を目で追う。

   レイが指し示しているのは、四ツ屋家に面した側の一室の窓である。

崇 「あ、俺の部屋」

レイ「出るの」

崇 「(レイを見)……出るって?」

レイ「(不敵に笑み)ユウレイ」

崇 「……(嫌悪顔)」

大輔の声「おーい、崇!」


○ 塚田家・リビング窓際

   塚田大輔だいすけ(38)、窓際に立ち、外に向かって呼びかけている。

大輔「さっさと荷物運んで、こっち手伝ってくれ!」

   塚田麻美あさみ(35)、ダンボールだらけのリビング内で荷解きをしている。


○  塚田家前~四ツ屋家前

   崇、塚田家の方を見ている。

崇 「はいはーい、すぐ行く!」

   と、対峙していたレイに向き直る。

   が、レイの姿が忽然と消えている。

崇 「き、消えた!?(キョロキョロ)」

   四ツ屋家の玄関ドアが開く音。

     ☓   ☓   ☓

レイ「ただいまー」

   と、四ツ屋家屋内に入っていく。

     ☓   ☓   ☓

崇 「……隣んちかよぉ」

   崇、玄関に向かっていく。


○[タイトル]『となりのゆうれい』


○ 四ツ屋家~塚田家の狭間(夜)

   四ツ屋家の下屋根(一階と二階の間の屋根)から、塚田家の下屋根に、少女

   (レイ)のシルエットが跳び移る。


○ 塚田家・リビング

   崇、大輔、麻美、食卓に座り、テレビを見つつカップ麺を食べている。

   崇、浮かない顔つきで食が止まってる。

麻美「しょうがないでしょ~。荷物整理で夕食まで手が回らなかったんだから」

崇 「ああ、違うよ」

麻美「?」

崇 「この家って、いくらくらいしたの?」

大輔「どうした、急に?」

崇 「いやさ、昼間に隣の子が――」

麻美「あら、もう会ったの?」

崇 「え?」

麻美「隣の子、可愛かったでしょ?」

     ☓   ☓   ☓

   (インサートフラッシュ)

   不敵に笑うレイ。

     ☓   ☓   ☓

大輔「同い年だってな。(ニヤニヤ)なんだ、崇のタイプだったかぁ?」

崇 「はぁ? 違うって!」

麻美「よかったわねぇ~、可愛い子が――」

崇 「だから違うって! ああもう!」

   崇、立ち上がり、リビングを出て行く。


○ 塚田家・崇の部屋

   引っ越しの荷物が乱雑に散らばっている。窓際にベッドが組み立てられてあ

   る。窓にカーテンは無し。

   崇、入室。部屋の明かりを点ける。

   と、窓越しに向き合っている四ツ屋家二階の一室に明かりが灯る。

崇 「――(それに気づく)」

   四ツ屋家一室。閉じているカーテン越しに、少女のシルエットが動いている。

   崇、ベッドに乗り、窓を開け放つ。

崇 「ねえ、ちょっと!」

   四ツ屋家一室。カーテンが少し開き、四ツ屋ユウ(13)が怪訝そうな顔を見

   せる。(ユウはレイと瓜二つの顔)

崇 「昼間のことなんだけど、あれってどういうこと?」

ユウ「……(気味悪がる表情で)」

   応じることなく、カーテンを閉めきる。

崇 「(ムッと)……なんだよ」

   と、崇、自宅と四ツ屋家の下屋根が接しそうなほど近いことを視認。


○ 四ツ屋家・下屋根

   崇、塚田家の下屋根から、四ツ屋家の下屋根に跳び移る。

   崇、ユウの居る一室の窓をノック。

崇 「無視ってひどいんじゃないの?」

   ユウ、カーテンを開ける。

ユウ「なに!? あなた誰?」

崇 「……誰って、昼間会っただろ? そっちから話しかけてきたんじゃないか」

ユウ「会った? ……(思案し)ああ、レイに会ったのね」

崇 「……はい?」

ユウ「引っ越して来たの?」

崇 「いや、だから、そうだって……」

ユウ「気をつけて。レイは性格悪いから」

   ユウ、カーテンを閉じる。

崇「ま、待って!」

   崇、窓をノックするが、カーテンは閉じられたまま開けられることはない。


○ 塚田家・崇の部屋

   崇、窓を乗り越え、ベッドに降りる。

崇 「やべぇ、電波さんかよ……」

   と、崇が乗ったベッドがガタガタと揺れ動き出す。

崇 「え、え、え!?」

   崇、顔を床に向ける形で、ベッドの上に四つん這い。

   と、ベッド下から、レイの顔がにゅっと出てくる。

レイ「――(真顔)」

崇 「(恐怖)……な、なんで」

レイ「――(不敵に笑む)」

崇 「うわぁぁぁっ!」

   崇、飛び退き、背中を窓に押し当てる。

   床から伸びた両手が、ベッド端を掴み、レイの顔がベッド上に出てくる。

崇 「!?(恐怖)」

   と、開いている窓からユウの声。

ユウ「ちょっと、近所迷惑なんですけど?」

   崇、顔を横に向けると、下屋根にいるユウが窓の外から顔を入れ、崇を見てい

   る。

崇 「――(気絶)」


○ 同・崇の部屋前・廊下

   閉まっている崇の部屋のドア。

   部屋の中から、ユウとレイの会話。

ユウの声「(落ち着いた声で)……レイ、どうしてあんたが隣んちにいるのよ」

レイの声「(楽しそうに)やだなユウ姉、引っ越しのご挨拶に決まってるでしょー」

   と、廊下から足音が近づいてきて、崇の部屋のドアを押し開ける。

麻美の声「崇、ケーキあるから食べる?」

   崇の部屋内。崇、ベッドで気絶している。ユウ、窓枠に座っている。レイ、ベ

   ッド下から上半身を出している。

   ユウ、レイ、ドア入り口を向く。

ユウとレイ「おじゃましてます」


○ 同・リビング

   廊下から激しく近づく足音。

崇の声「出た出た出た出た、出たー! 幽霊が――」

   息を切らせた崇が戸を開く。

   大輔、麻美、食卓に並んでいる。

   食卓にはケーキと紅茶が、四セット置かれている。

   大輔と麻美の向かい側の席に、ユウとレイが並んで座っている。

崇 「……(状況を把握)」

大輔「おう、寝たんじゃなかったのか?」

麻美「もうちょっと早く来ればよかったのに、あなたの分、無いわよ」

ユウ「あ、私、まだ手をつけてないので」

麻美「いいのいいの、遠慮しないで、ユウちゃん」

崇 「……ユウ? ……と、いうことは……」

   崇、レイのもとへゆっくり歩み寄っていく。

崇 「こっちが――」

   レイ、ケーキを咥え、走りだし、リビングを出て行く。

   崇、走って追いかける。

麻美「あらあら、仲良しねぇ~」

大輔「タイプはレイちゃんだったか」

ユウ「?」


[END]

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【シナリオ】 となりのゆうれい のうみ @noumi

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