ご臨終です
○ ブラックアウトの画面
ベートーベンの『運命』が流れだす。
(※以下、ラストシーンまでは、BGMのみの無声劇)
○ 市街地・鉄道踏切前(朝)
遮断機前で、通勤通学に向かう車列と人垣が踏切待ちをしている。
電車のレール方向を見ている人々が、一様に驚き、口開け、目を見開いてい
る。中には顔を覆っている女性も居る。
と、スーツ姿の
り〟で戻ってくる。
大地、遮断機をくぐって道路側に来ると、遮断機前に立ち、イライラした表情
で腕時計を睨むように見る。
遮断機前に立っていた人々が、大地が遮断機をくぐるのに合わせて、驚きの表
情から、素の表情に戻っていく。
大地の腕時計。
秒針が反時計回りに動いている。
(※映っている映像は、逆再生されているものである)
大地を含め、踏切待ちをしている人々の映像がキュルキュルと倍速早戻しで動
く。(長い間、踏切待ちで足止めを食っている描写)
映像が通常速度に戻ると、大地は時計から目を離し、疲れているかのように屈
んで、ゼイゼイ呼吸をはじめる。
遮断機が上がる。
と、大地、後ろ走りで、人々を掻き分けながら、道路を〝逆行〟していく。
○ 同・踏切近くの道
歩道上を歩いている人々が皆、逆行していて、車も車道を後退していく。
後ろ走りの大地が、人々を縫うように猛然と逆行していく。
○ 同・大交差点
横断歩道を挟むように、車が停車している。運転席の窓から人が身を乗り出
し、歩道に向かって怒っている仕草。
と、大地、歩道を逆行してきて、赤信号になっている横断歩道をそのまま突っ
切っていく。
大地が通過するのに合わせて、横断歩道脇に停まっていた車の運転手が車内に
戻り、車が後退していく。
大地が後ろ走りで横断歩道を渡り終えると、歩行者用信号が青の点滅に切り替
わる。
大地、尚、道を逆行していく。
○ 同・横断歩道近くの歩道
OL(30)、歩道に倒れこんでいる。近くにはハンドバッグが転がってい
る。
と、大地が歩道を猛然と逆行してくる。
OL、地べたから空中に舞い上がり、ハンドバッグが手元に吸い寄せられる。
OL、逆行してきた大地と激突後、歩道を後ろ向きに歩き始める。
大地、OLの後方を、勢い良く逆行していく。
大地が後ろ走りで向かっている方向に、歩道橋がある。その上で、男子高校生
が頭を抱え、欄干下の車道を覗き込んでいる。
○ 同・歩道橋下の車道
粉砕されたスマホが一つある。
その上を大型ダンプが後退していく。
ダンプの前輪が通過し終えると、スマホが復元されている。
と、スマホが、歩道橋上に向かって飛び上がる。
○ 同・歩道橋上
歩道橋下からスマホが飛び上がってくる。
男子高校生、欄干から飛び退くように歩道橋の通路に戻る。
と、スマホが男子高校生の手元に収まった瞬間、通路を逆行してきた大地と接
触。
男子高校生、俯き加減でスマホを操作しながら通路を歩いて逆行していく。
大地、その後方を猛然と走って逆行していく。
○ 住宅街・路地
小学校中学年くらいの男女が道端にいる。女児はうずくまっており、膝を擦り
むいている。男児は路地の前方に向かい、人を呼び止めようとしているように
腕を差し伸ばしている。
と、男児が腕を伸ばしている方向から、大地が猛然と逆行してくる。
大地、小学生二人を見向きもせず、そのまま路地の奥手へと逆行していく。
男児、大地を追うように見ていたが、大地が遠のいていくと、心配そうな目線
を傍らの女児に向ける。
○ 民家・脇
大地、路地を逆行してくると、民家脇のブロック塀の前で屈む。
大地、ふわっと宙に浮き、ブロック塀の上に乗る。
大地、ブロック塀を反対側へと、よじ降りる。
○ 同・敷地内
ブロック塀前に、盆栽の台があるが、盆栽の鉢は地面に落ちて割れている。
と、ブロック塀を越えてきた大地が台の上に足を乗せる。落ちていた盆栽が台
の上に飛び移ってくる。
大地、台の上を一段二段と降りていくと、通過した台の上に、盆栽が次々飛び
乗ってくる。
○ 同・門前
男性老人(68)が、門前の道路を箒で掃いている。老人が一掃きすると、集
められていた落ち葉が、路面に散らばっていく。
門奥の民家敷地内を、大地が逆行して横切っていく。
○ アパート・全景
二階建てのボロアパート。
大地、路地を逆行してくると、アパートの入り口手前で立ち止まり、腕時計を
見る。
大地、逆行を再開し、アパートの敷地内に入り、階段を逆向きにのぼる。
○ 同・二階通路
大地、奥にある部屋に向かって逆行していくと、部屋のドアがひとりでに開
き、その一室に吸い込まれていく。
○ 同・大地の部屋
大地、大慌てでスーツを脱ぎ、クローゼットにしまうと、床に散らばっていた
パジャマを大慌てで着ていく。
パジャマ姿になると、頭を掻きむしりながらウロウロ後ろ歩きで部屋をあるき
まわり、ベッドに飛び乗る。
と、目を皿にして驚く大地の手元に、ベッド上に転がっていたアナログ目覚ま
し時計が飛び乗る。
大地、寝ぼけ眼になり、アナログ目覚まし時計を枕元に置くと、掛け布団をつ
かみんでベッドに仰向ける。
大地、眠り込む。
と、キュルキュルと映像が倍速早戻しされていき、窓の外に浮かんでいる太陽
が地平線へと少し戻っていく。
映像が通常速度に戻ると、安らかな表情で寝ている大地が手だけ動かし、アナ
ログ目覚まし時計の頭を叩く。
すると、叩かれた時計の上に付いている鐘がブルブルと振動を開始。
大地、不機嫌そうな寝顔な顔つきで何かをつぶやきながら、寝る。
ブルブルと震えているアナログ目覚まし時計が、振動を停止させる。
大地、安らかな表情の寝顔に戻る。
○ アナログ目覚まし時計
7時丁度を指している長針と短針。
秒針が「12」から「10」まで反時計回りで動いてくると、長針が6時59分に
戻る。
ベートーベンの『運命』BGMが停止。
すると、秒針が通常通りの時計回りで「10」から「12」に動いていく。
そして、長針が7時丁度を指す。
○ 同・大地の部屋
枕元のアナログ目覚まし時計が、鐘を震わせ、ジリリリリッと音を出す。
大地、安らかな寝顔から、不機嫌そうな寝顔になって、
大地「うるせぇなぁ……まだ寝かせろよ」
と、つぶやき、アナログ目覚まし時計の頭を叩く。
音が止み、大地、ふたたび安らかな表情で寝入る。
その画に重ねて、
○[タイトル]『ご臨終です』
[END]
【シナリオ】 ご臨終です のうみ @noumi
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