未来のカケラ

○ 高校・玄関・内(登校時間)

   二、三年生の各学級の下駄箱前に、学生の人集りができている。下駄箱には組

   分けの座席表が貼りだされており、それを確認している。

   深町岳ふかまちがく(16)、一喜一憂している学生の中、二年五組の下駄箱の前にいる。

   貼りだされている座席表。窓際から二番目、最高尾の席に「深町岳」という名

   前が記名されている。

岳 「五組か。――(座席表を見回し)うわぁ、知ってるやついないし……」

   岳、座席表の前から立ち去る。

   座席表。岳の隣、窓際最後尾に「雫石鈴風しずくいしすずか」という名前が記入されている。


○ 同・二年五組の教室

   クラスメイトたちの騒々しい会話声。

   雫石鈴風(16)、窓際最後尾の席に座り、静かに窓の外を見ている。机に乗

   せられた左手小指には、子供用の玩具の指輪が嵌っている。

   教室は四階に位置しており、窓からは市街地が一望できる。学校側にほど近い

   場所に、団地があることがわかる。

   岳が来て、窓際から二列目の最後尾の席に着く。鞄を机脇にかけると、

鈴風の声「おはよう」

   岳、窓際の席に顔を向ける。

   鈴風が岳のことを見ている。

鈴風「深町岳くん?」

岳 「え? ……あ、うん」

鈴風「(笑顔になって)私、雫石鈴風」

岳 「雫石……さん?」

鈴風「今年から編入して来たんだ」

岳 「ああ、どうりで見覚えないと思った。――(笑顔で)はじめまして、よろし

 く」

鈴風「……(笑顔から一転、悲しみ混じりのムッとした表情になる)」

岳 「……?」

   鈴風、岳からプイッと目を背け、ふたたび窓の外を眺める。

   岳、困惑顔で鈴風を見続ける。


○ 同・外観

   小高い土地にある5階建ての校舎。

   学校敷地を取り囲む桜が満開である。

   キンコンカンコンとチャイムの音。


○[タイトル]『未来のカケラ』


○ 同・駐輪場近く(午後/放課後)

   岳、自転車を押しながら校舎沿いを歩いている。

   と、上空から花びらのようなものが、いくつも舞い落ちて来くる。

岳 「ん? 桜?」

   頭についた一片を摘み、見て、

岳 「じゃない……」

   岳が手にしているのは、切断された写真の一片で、青空の一部が映っている。

   岳、眩しそうに頭上を見上げる。

   校舎屋上、フェンス越しに女子生徒と思われる人のシルエットが見えるが、す

   ぐに引っ込む。

   岳、小首をかしげ、歩きはじめるが、

岳「あれ?」

   地面を見て立ち止まり、足元に落ちている写真の切れ端を一つ摘み上げる。

岳「これは……」

   手にした一片は、岳(5)が悲しそうに笑っている顔部分を切り抜いたもので

   ある。

   岳、もう一度頭上を怪訝そうに見上げた後、地面に散っている写真のパーツを

   ひとつひとつ拾い出す。


○ 団地・全景(夕方)

   そこは高校の窓から見えていた団地。

   建物に挟まれるように、公園がある。


○ 同・団地の棟・外観

   上層に位置する部屋のベランダ。

   窓越しに見える室内で、岳が学習机に座っている。


○ 同・岳の部屋

   写真のパーツが学習机上に広げられており、パズルを組み立てるように岳が繋

   ぎ合わせる作業を行っている。

岳 「これはこっちで……違う……こっちか」

   三分の一ほどが組み上がっている写真。

   公園と思われる場所で、岳(5)が、悲しそうな笑顔でピースして立ってい

   る。背景に団地と桜の木が見えている。

岳 「(腕組みをし)やっぱ俺だ。幼稚園のころ? ああ~、思い出せない。(窓を

 見やり)うちの公園だよなぁ……」

   窓から見下ろす地上には、写真の場所と思しき公園が広がっている。


○ 高校・駐輪場近く(翌日/朝)

   雀の鳴き声が聞こえている。

   岳、しゃがんで雑木を掻き分けている。

岳 「……おっかしいなぁ」

   と、手を休め、ポケットから一枚の写真を取り出す。それは、前日拾って繋ぎ

   合わせた写真で、セロテープで接着されてある。写真はほぼ復元されている

   が、岳の隣の空間が、人型にくり貫かれた状態で、パーツが足りていない。

岳 「隣に誰か居るよな、ぜったい」

   キッと自転車が停まる音。

鈴風の声「どうしたの? 探しもの?」

   岳、顔を上げると、自転車登校してきた鈴風が近くに停車している。鈴風の左

   手小指には前日と同じ玩具の指輪。

岳 「(写真を隠し)あ、えっと……雫石さん。うん、ちょっと、パズルのピース

 を」

鈴風「一緒に探してあげよっか?(笑顔)」

岳 「いいよいいよ、大丈夫。大したものじゃないから」

鈴風「(ムッと)そう。じゃあ、頑張って」

   鈴風、駐輪場に向かっていく。

岳 「……また怒った」

   岳、雑木林を掻き分ける作業を再開させると、鈴風の声が脳裏でリフレイン。

鈴風の声「どうしたの? 探しもの?」

岳 「(手を止め)あれ、こんなことが昔……(自転車を漕ぐ鈴風に目を向ける)」

   鈴風の小指に嵌っている玩具の指輪。

岳 「!(ハッと目を見開く)」


○ 【回想】11年前の団地の公園(夕方)

   夏。ひぐらしの声がこだましている。

   鈴風(5)が、砂場の砂を一生懸命に掻き分けている。

鈴風「(泣きそう)無い……無い……」

岳の声「どうしたの? 探しもの?」

   鈴風が、振り向くと、岳(5)が立ってる。

     ☓   ☓   ☓

   岳と鈴風、しゃがんで砂場の砂を掻き分けている。

岳 「ん? ――あった!」

   砂場から手を引き抜く岳。

   子供用の玩具の指輪を摘んでいる。

     ☓   ☓   ☓

   岳と鈴風、砂場で対峙し、立っている。

岳 「はい、もう落とさないようにね」

   岳、鈴風の左腕を取り、指輪をはめる。

鈴風「――(頬を朱色に染めている)」

   岳が指輪を嵌めたのは、左手の薬指だ。

岳 「大丈夫、顔赤いよ?」

鈴風「ううん。なんでもない。ありがとう……えっと、名前」

岳 「ぼく、岳っていうんだ」

鈴風「ありがとう岳くん。わたしは、鈴風」

   岳と鈴風、団地の棟へと歩いて行く。


○ 戻って、高校・駐輪場近く

   復元写真を見ている岳。

岳 「(ぽつりと)思い出した……」

   駐輪場に自転車を停め、引き返して来ていた鈴風が、岳の後方を通り過ぎる。


○ 【回想】10年前の団地の公園・外の道路(日中)

   春。桜並木の道路に、引っ越し業者のトラックと、乗用車が一台停車してい

   る。

   岳(5)と鈴風(5)、その傍で向き合っている。(写真と同じ服装)

   泣きじゃくっている鈴風の頭を、岳が悲しそうに笑って撫でている。

     ☓   ☓   ☓

   引越しトラックに続き、乗用車が走り出していく。

   それを歩道で見送る岳。

   乗用車の後部座席から鈴風が顔を出す。

鈴風「(岳に手を振り)ぜったい戻ってくるからね~!」

岳 「(手を振り返し)きっとだよ、鈴風ちゃ~ん!」


○ 戻って、高校・駐輪場近く

   鈴風、岳に背を向け、歩き遠のいて行っていると、

岳の声「待って!」

   鈴風、立ち止まり、振り返る。

   岳、復元写真を自分の顔の前に掲げて立っている。

   人型に穴の開いた部分に、悲しげな表情で振り返った鈴風が嵌っている。

   岳、写真を顔から下げて、

岳 「最後のピース、見つかったよ。――鈴風ちゃん」

鈴風「――(ニッコリ微笑む)」


[END]

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【シナリオ】 未来のカケラ のうみ @noumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ