異世界召喚してほしい!

いましん

第1話

小学校を卒業するかどうかって時だった。

自分で書いた小説を投稿できるサイトを見つけ、片っ端から読み漁っていった。

そして次第に思うようになったんだ。


異世界に、行きたい!



当時流行っていた異世界モノ。

今でもちらほら見る、人気ジャンルだ。

僕はいわゆる読み専だったので、黒歴史は作らずに済んだけど、代わりに目標ができた。

ある日、異世界に召喚され、仲間を集めて魔王を倒し、世界を救う。

想像するだけで、僕の心は踊った。


異世界に行くと決めてからの行動は早かった。

中学校に入ってすぐの頃から、思わず召喚したくなるような人になるべく、努力に努力を重ねた。


まずは人格。嫌われ者が勇者にはなれない。

誰にでも優しく、正義感が強く、仁義に熱く、負けず嫌いで……

とにかく、誰にでも好かれる人物を目指した。

しかし、あまり個性が強すぎてはいけない。

僕の目標は正統派の異世界モノで、ギャグになってはいけないからだ。


次に、強さ。あまり力が強すぎても仕方ないが、召喚する側も強い方が良いに決まっている。

ありとあらゆるスポーツに手を出した。極めるまでは行かなくても、ある程度実戦で使えるレベルにまでもってきた。

体力や力というよりは、判断力・瞬発力を鍛えた。単純な強さよりも、作戦などの頭脳プレイで勝つ方が、僕の理想に近かったからだ。


勉強も欠かさなかった。

前の通り、戦術というのも理由の一つだが、賢くない人が召喚されてもグダるだけだという思いがあった。

科学力が発達しているかもしれないので科学を。異世界の言語を理解しやすくする為に言語学を。政治を任されるかもしれないので政治学を。戦いの方法を学ぶ為に歴史を。

その他、経済学、医学、数学、哲学に至るまで、広い分野を徹底的に勉強した。

こんな勉強して、いつ使うんだ。そんな疑問を口にする同級生も居た。勿論、異世界に行った時だ。


顔は中の上くらいになるように。

彼女は作らないように。

ライバルはこっちの世界で作り。

ゲームやアニメでも異世界を考えて。

とにかく、ほんの少しでも異世界に召喚されそうな条件は、次から次へと満たしていった。



そして数十年後。僕は60歳になった。

高校生の間に異世界に行くことは叶わず、大人になってからも召喚されなかった。

異世界召喚の夢は叶わなかったものの、学生時代に様々な分野に手を出した結果、社会にはとても貢献できた。出世も早く、今では大会社の代表取締役社長をやっている。

傍から見れば、幸せな人生だ。僕も実際そうだと思っている。でも、心の中には、少しだけ虚しさがある。それは今後も満たされることはないだろう。









とある場所にある、とある秘密組織。

そこでは、盛大なパーティーを開いていた。

「現代社会の経済力の低下。我々の計画で立て直せて良かったなぁ。」

「まさか、異世界から素質ある幼児を召喚し、知らず知らずのうちに経済を支える存在に仕立て上げるとは、誰も考えるまい。」

「あいつも、異世界召喚されたい!なんて言ってたけど、ちょっと可哀想だよな。本能的に戻りたかったんだろう。」

「ずっと、普通の人は短めの尻尾が生えてると思ってるんだろうな。まぁ、1回は異世界召喚されたんだし、良くね?」

「充分幸せな人生を過ごしてるし、文句も言えんだろ。」






その後、かの社長は、勇者という異名を残してこの世を去った。

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異世界召喚してほしい! いましん @zunomashi

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