三毛猫の自由帳
深山桂一
去れず、散れず
昼なのに青い月が上がっていると君が言うから、つい振り返ってしまった。
振り返った先には、桜の枝に絡まってしまったのか、1つの青いゴム風船が。
「あれは風船じゃないのかい?」
あんまり必死に月だ月だと君が跳ねるので、なんとなく言葉を投げてみる。
「ふーせんはね、もっとふわーっと上にいっちゃうの、だからあそこにずっといれるのは、お月さまなの!すっごいんだよ!」
散る花びらと同じ色に頬を染めて、君は興奮気味に語る。桜も人も朱がさして、風船と僕は居づらいばかりだ。
「飛んでいけないと、すごいのかい?」
「だって、ふーせんはとんで行ったらひとりになっちゃうけど、お月さまは、はんぶんだけでもみんなのこと見ていてくれるから!ふーせんがお月さまになったから、すっごいんだよ!」
「そうかい……ほら、はぐれると悪いから、こっちにおいで」
君に重なる花びら。月は涙を見つけて、夜はそれを包むのだと静かに笑った、もう咲かない花。
「うん!」
大輪の笑顔で駆け寄る君を抱き上げて、また人だかりを歩く。今度は自分がお星様のようだと、手足をばたつかせるものだから危なっかしくて仕方ない。
君を産んで散ってしまった花を風船になって追いかけようかなんて考えては、まだ月でいようと思い直してもう5年が経つ。
今度は桜の枝でも持って、考えまで似てきたと君の母には伝えよう。
強い風が吹いて、青い風船が空に溶けていくのが確かに見えた。どこに行くかは分からないけど、僕には、そんなに悪い事ではない気がした。
三毛猫の自由帳 深山桂一 @mikecat51
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