カレーメシ シーフード+ガブうまハムカツ 2/3

 どれだけの間、立ち尽くしていたのか。それとも、ほんの一瞬だったのか。

 いつの間にか、黒パーカーの少年が、目の前でにこやかに立っていた。


「おねーさん」

「はっ、はいぃ!?」


 声をかけられた。落ち着いた声だ。一方の私は、パニクっているのか返事が上擦ってしまう。

 そりゃそうだ。なんで妖精さん? 見えてるの? 話せるの? なんで?


「あ……う……えっと……」


 言葉が頭の中でぐるぐるぐるぐる渦巻いて出てこない。


「ガブうまハムカツ」

「……え?」

「ガブうまハムカツ、おいしかったよ。そこのコンビニの」


 満面の笑みで。無邪気に。

 彼はそれだけ言って、ざくざくと走り去っていった。

 と、思ったら、公園の出口から「おねーさん、またそのうちね!」と言い残し、行ってしまった。


 少年も、言葉の残滓も消え失せ、ただひとり残された私は、頭に積もった雪を払い、


「やれやれ」


 白く吐き出す息とともに、やっと一言、言葉を絞り出す。

 帰ろう。『ガブうまハムカツ』買って。




「ああ、それはだな」


 ズコー。盛大にずっこける私。


「いやいや、ちゃん。あれ見た目普通に人間の男の子でしたよ?」

「そんなこともあるだろう。だってねこだからな。なあ

「そうソウ! ねこだからナ!」


 頭痛い。わけがわからないよ。

 がぶりんのしゃべりのアクセントの置き所もわからないよ。


「なんか……知ってて当然みたいな言いっぷりですね」

「当然だ。私が研究するまでもない。あと助手って言うな」


 妖精さんたちの間では常識なのか……。


 私は帰宅早々、お湯をわかして『カレーメシ』を作り始めた。

 沸かしたお湯をカップに注ぎ、フタの上に『ガブうまハムカツ』を置いたところ、すぐに妖精さんが現れた。

 まずは見知った顔。白衣を着たぐるぐる眼鏡の研究者風の助手――助手という名前だ――がカップの裏から顔を出した。

 以前出てきた『カップヌードル ぶっこみ飯』とは別商品だけど、これも研究対象だったのかな。同じカップごはん系だしね。

 そしてニューカマー。上半身は人型というか天使、下半身は馬という、ケンタウロスっぽい妖精さん。、か。ちなみに頭の上には輪っか代わりのハムカツが浮かんでいる。

 彼女たちはすぐに意気投合。がぶりんという名前も助手がその場でつけた。たぶん、研究対象として魅力的なんだろうな、がぶりん……。

 で、なんとなく博識そうな助手に、さっきの公園での出来事を話してみたら、この回答。


「えーと、ということはですよ。あの少年はねこで、なにかしらの理由で人間の姿してて、だから妖精さんも見えている、ってことです?」

「まあ、そうなるな」


 うーん……。

 ねこには妖精さんが見えるってのは、うちのねこのももかを見ていれば、まあ納得できる。べろんべろんになめたりしているしね。

 っていうか、そもそも他の人には見えていない、んだよね? 変な人だと思われないように、私も隠したりしてるから、確認したことないけど。そこらへん、どうなんだろう。


「はみ」

「なんですか助手ちゃん」

「だから助手って言うな……。もうとっくに五分を過ぎているぞ」

「え、ああ、いいんですよ。こないだの『ぶっこみ飯』で学んだのですが、このごはんはちょっと時間をおいた方が好みなんですよ」

「ほう。研究熱心でいいことだな」

「そりゃどうも」


 そうなのだ。ちょっと時間をおくことで、ごはんのもっちり感が増すようなのだ、このメーカーのカップごはん系は。

 ではでは、そろそろ頃合いかな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る