葛尾はみとふしぎなねこ
カレーメシ シーフード+ガブうまハムカツ 1/3
こんこんと、雪が降っている。
空一面、辺り一面を覆う白は、私ひとりをおいて、すべてを埋め尽くしていく。
……なんて、悠長なこと言ってたら私も埋まるわ! なんだこの雪ー!?
上長から「雪ひどいらしいから、現場さえよければ早くあがってね」ってメッセージが送られてきたので、んじゃ今日は急ぎの作業もないので帰るかー、と身支度してビルの玄関を出てみたのだけど、これはこれは。
降るとはニュースアプリで見ていたけど、まさかこれほどとはね。地元の降り方と一緒だよこれ。首都圏でしょここ。日本海側の豪雪地帯かって勢いだね。
首都圏は雪に弱い。その程度の雪で……とか言う雪国の人がいたりもするけど、それはちょっと違う。なにもかも雪が積もる想定では作られていないからだ。仕方ないよ。
というわけで、電車が止まってどうにもならなくなる前に、帰ってしまおう。
道を歩く人も皆駅に向かって急いでいる。すべらないように気をつけてくださいねーっと。私は慣れているから、大丈夫。小さい歩幅で、足の裏全体を地面につけて慎重にいけば、滅多なことでは転ばない。あと今日はカバンが(例に漏れずインベーダー柄の)リュックなので両手もフリー。これでばっちりだ。
さあ、とっとと行こう。ちょっと地元でも思い出しながら、ね。
電車は早い時間の割にはそこそこ混んでいたけれど、さほど遅れもなく自宅の最寄り駅に無事到着した。
改札を出て見上げた、薄暗くなってきている灰色の空からは、まだまだ雪が降り続けている。
ふむ。これ絶対、夜に出かけたくなくなるやつだ。
なにかごはん買って帰らないと……あ、そうだ。さっきSNSで見かけたけど、今日は『カレーの日』らしい。カレー、いいな。
でも食材買って帰るのもこの雪だからちょっとイヤだし、かといって牛丼屋さんのお持ち帰りのカレーもあんまり気分じゃない。最近お気に入りのカレー屋さんは結構遠回りになるので避けたいし。うーん……。
駅前のデッキの屋根のあるところを歩きながらうんうん考えていると、視界の端に女の子の姿が。
「こ、これは……!」
駅前のカメラ屋さん(という名の電器屋さん)の入り口でお出迎えしてくれている、店舗擬人化キャラ、らしい。等身大ポップかー、案外かわいいじゃない。眼鏡だし、なんとなく親近感。……いやすみません、こんなにかわいくないです。私ももうちょっと小さければなあ。
よしよし、なにかの縁だ。ちょっと寄ってってあげよう。確か少しだけ食料品も売っていたような気がするし。なにかいいモノあるかもしれない。あなたのおうちに、ちょっとおじゃましますね。
エスカレーターを上がって、ドラッグストアコーナーへ。あー、あったかいー。
ここに食料品も……よかった、あった。
私は店内を物色し始める。案外、お客さんの姿はまばらだ。これはなかなか穴場かもしれない。
こういうとこだと、レトルトカレーとかかな……いや、いやいやいや。いいモノあるじゃない。
コレだー! まだチャレンジしたことないコレを今こそ試すべきだ!
『カレーメシ シーフード』!!
カップ麺の形状で、お湯を注げばそのままカレーライスが食べられるという噂の商品。
前食べた『カップヌードル ぶっこみ飯』もおいしかったし、いけるんじゃない? コレ。
しかも軽いから持って帰るのもらくらく。今日の私のためにあるようなものじゃない。
さあ決まりだ。レジでお会計してとっとと帰ろう。ありがとう、カメラ屋娘ちゃん。
自宅への帰り道。
ちょっといい気分なので、近所の公園に寄り道してみた。
公園は一面、白の世界。暗くなってきているのだが、なんといっても今日は雪だ。積もった雪で明るくて、ちょっと神秘的。
降りしきる雪も気にせず、まっ平らな白の絨毯に影をつけて歩く。
一歩一歩、踏みしめるたびに、ぎゅっ、ぎゅっ、と、懐かしい音。
よーし、はみさんちょっと雪だるま作っちゃうぞー。
まずは小さい雪玉作って……うわ、素手だとしゃっこいなあ。
そして雪の上でころころ転がす。
ころころ、ころころ。
…………。
んー、なんか、柔らかすぎてなかなかくっついてこないな。
ころころ、ころころ。
…………。
おお、わりと大きくなってきたけど、こりゃ結構重労働だな。腰痛くなってきた。
ふー。んじゃ胴体はこれくらいにして、もう一個頭を。
と、腰をとんとんしながら顔を上げた視線の先に、人影が。
うわー、東屋に人いたんだ、ちょっと恥ずかしい……。かーっとなった頬に冷たい手を当てて気持ちを落ち着かせる。
しかしこんな雪なのになにしてるんだろう。私も人のこと言えないけど。
フードをかぶった黒のパーカーに、ブラックジーンズ。パーカーのファスナーをちょっと下げた胸元には、白の襟付きシャツがのぞいている。グリーンのフレームの眼鏡の……男の子、雰囲気的に学生さんだろうか。
手になにか持っている。んーとあれは……コンビニのカウンターフードかな。食べかけのフライみたいなのが、包みからちらりと見える。いいなあ、私も買って帰ろうかな。
食べかけのままで、なにか独り言を言っているようだけど……ん、携帯のイヤホンマイクとかかもしれないか。
と納得しかけたとき、ベンチに腰かけている彼の膝の上に、なにかが見えた。
私は、我が目を疑った。
「妖精、さん……?」
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