葛尾はみと尽きないお悩み
冷凍たこ焼 1/2
『たすけてください……ワタクシは、お
ワタクシの名前はえすこ……6人のイケニエがささげられ、ワタクシが最後の1人……』
…………。
なんだ……? 頭の中に直接、声が……?
『家にやって来た司祭はみはイケニエを使い、七賢者の封印を再び開こうとしています。
……ワタクシは、お家の冷凍室の中……たすけて……』
うーん……。
せっかく珍しく早く帰ってこられたから、惰眠をむさぼろうと晩ごはんも食べずに即刻ベッドにもぐりこんだというのに。
ボサボサの頭のまま、枕元の眼鏡をかけ、同じベッドで寝ていたねこのももかのふわふわの毛皮を一撫でし、のろのろとリビングの冷蔵庫へ向かう。
ここ? 私を呼ぶ声はここなの?
……って、場所も正体もわかりきっているんだけど。
冷凍室の引き出しを開け、中身を確認。
……うん、冷凍野菜とお弁当用おかずのストックはばっちりかな。あ、冷凍ごはん、残り二パックか。明日炊いてストック増やしておくとしよう。
あと、大事な大事なおやつもしっかりあるね。よし。
その横にいかっぽい何かがいるけど気にしないでおこう。
私は冷凍室の引き出しを閉め――
「ちょま! はみさん! なにスルーして閉めようとしてるんですかっ」
――ようとしたところで、冷凍室内からの声に引き止められた。
「……なに、冷凍庫の中で遊んでるんですか、えすこちゃん。私寝てたんですけど」
「あ、遊んでいたわけではないのですよ! 迷いの森に封印されているという伝説の剣を求めて、ワタクシ、この冷凍食品の森をさまよい歩いていたのですよっ! そしたら大変なことに……」
「やっぱり遊んでいたんじゃないですか」
いかっぽい魔女風コスチュームを身にまとった、手の指くらいの身長の『いか焼そば』の妖精さんが、必死に訴えてきている。
いつもいつも、妖精さんたちの考えていることは理解不能だ。心なしか私の趣味嗜好を読みとられているような気はするが。
今回彼女が話している内容なんて『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』のネタ丸パクりじゃない。
……まあ、どうせ何も食べていない状態でこんな深夜に起こされたんだ。おなかがすいている。おやつでも食べよう。おなかさえ満たされれば付き合ってやらんでもない。
私は冷凍室にストックしておいたとっておきに手を伸ばす。
「えすこちゃん、ちょっとお隣さんのそれ、もらいますね」
「ミンナニ ナイショダヨ」
誰よ、みんなって。
ていうかあなた、最後のイケニエのお姫様なんじゃなかったの。
冷凍室から取り出したばかりのそれは、当然ながらひんやりと冷たい。
袋をがさごそと開封すると、紙のトレーに乗ったまあるい球体が、六つ。
コンビニで買っておいた『冷凍たこ焼』だ。
冷凍食品と侮ることなかれ。これがまたすっごくおいしいんだ。
この状態でもほのかにおだしのいい香りがする。
ソースとかつおぶしの小袋をよけ、レンジへIN! スイッチON!
「ああ……司祭はみの手によって六人のイケニエたちが……」
えすこはレンジをのぞきこみながらぷるぷる震えている。
さっき言ってたイケニエってこれのことだったんだ……。確かに六個入りだけど。
レンジ調理待ちなので、キッチンの引き出しから、たこ焼を買ったときにもらったつまようじ入りの割り箸を取り出す。
「食べるの邪魔したらえすこちゃんもイケニエにしちゃいますよ」
つんつん。
袋から出した割り箸でえすこちゃんをつつく。
「ヒエッ!? それだけはごかんべんをー! 封印が……封印が解かれちゃいますっ!」
ぽてぽてと逃げていくえすこ。
……いや、食べたりしないけど。なんなのさ封印って。
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