かっぱえびせん

 カリッ……カリッ……。


 ああもう、あの子はまたなんでこんなお仕事取ってくるかなあ。

 まあ、仕事があるのはいいことだけど、こうお仕事たくさん取ってきて、大量にこなすのは私なんだぞーっと。


 カリ……カリリ……。


 それでもって当の本人はお客さんとお寿司食べに行ってるし。

 ほんと、心を握ってくるよなあ。

 お寿司握るのもうまかったけど。


 カリッ……カリカリッ……。


 もうこれ、他のとこにお願いするしかないなー。

 こないだ頼んだ協力会社さんにまたお願いするかあ。

 VPNつないでもらったし、Redmineもそのまま使ってもらえるしなー。


 カリカリ……カリカリ……。


 は、やばいやばい。

 私は慌てて、赤い袋に伸ばしかけた手を引っ込める。

 定時後の一人作業に『かっぱえびせん』は、本当にやばい。

 袋の中を覗いてみると、もう半分も食べた後だ。


 袋の表をじっくりと見てみる。

 そういえば、最近はパッケージにって書いてないな。

 油を使っていないと勘違いされたりしたのかな。

 油で揚げてはいないけど、焙煎して油を吹き付けているらしいしね。


 さて、気を取り直して、協力会社さんにメールでも送っておくか。

 袋を脇にどけ、改めてPCと向き合う……が。

 キーボードのふちに座る、小さな影がこっちを見ている。

 ……はあ。


「やめられない? とまらない?」


 ロングの赤髪に長ーい触覚を垂らし、白と赤のボーダーのワンピースを着た、手のひらサイズの小さな女の子が話しかけてきた。

 まあ、やっぱり、えびだよね、これ。


「やめられないです、とまらないです。困るんです。だからちょっとどけててくださいね」

「ひーっ! ひげがぁ! ひげが抜けるぅー!」


 すぽっ。

 触覚ひげをつまんで空のマグカップに投入。


「食べすぎはよくないんです。少しそこでおとなしくしていてください」

「いったたたぁ……はぁい」


 おや、でしゃばってくる妖精さんも多数いるというのに、この子は案外素直だな。

 さて、メールを書くか。


 カタカタ。


 ぴょこぴょこ。


 カタカタカタ。


 ぴょこぴょこぴょこ。


 ……ええい、キーボードを打つのに合わせて触覚を動かすんじゃない!

 気になるじゃない!

 食べたくなるじゃない!


 う、ううーん。

 もう一口、もう一口くらい、いいよね。


 カリ……カリカリ……。


 はあ……。

 強すぎない、やさしい塩気に、ほのかなえびの香り。

 そこに加わる軽い食感がベストマッチ。


 カリカリカリ……カリカリカリカリ……。


 はっ!?

 一口どころで済んでない!


 ふとマグカップに目をやると、えびっ娘が顔を出してニコニコと微笑んでいた。


「やめられない? とまらない?」


 うん、やめられない、とまらないね。

 この、主張しすぎないところも、かっぱえびせんの魅力なんだろうなあ。



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