冷凍たこ焼 2/2
しばらく待つと、レンジからいい匂いが漂ってくる。
……はあ。冷凍食品ってこの待ち時間が苦行なんだよなあ。
普通に調理していても匂いはするのに、冷凍食品の温めとなると我慢ならなくなる。黙って待っているだけだから、とかなのかな。
なんてことを考えているうちに、三分半。
《♪てれれれ↓てれれれれん↑》
レンジからメロディーが鳴り響くと、私はすぐさま扉を開け放つ。……あれ、なんかいつもとメロディーが違った気がするけど、まあいいか。
庫内から解放される、大量の湯気と、おいしい匂い。
ああ、たまらない。
小袋のソースを余すことなく絞り出し、熱々の球体にかける。かつおぶしも忘れずにぱらぱらと。
たこ焼、ソース、かつおぶし。三つの香りが混ざり合い、黄金の三角形を形成する。これは……トライフォースか!
……なんてアホなこと考えてないで、食べよう食べよう。
先ほど取り出した割り箸についていたつまようじをたこ焼に突き立てる。
「おお……これがワタクシの探し求めていた伝説の剣、マスターソード! 誰かこれを引き抜く勇者は現れぬものか……」
「あなたが引き抜くわけではないのですね……」
いつの間にかえすこが戻ってきていたらしい。
まあいいか。
では、いただきます。
まずは一つ、一気にほおばる。
あっつ! あついあつい!!
はふはふと口の中に空気を送り込みつつ、なんとか食べきる。
ふー、これもまた、たこ焼の醍醐味だよねえ。ちょっと口の中痛いけど。
次はゆっくりと味わおう。
割り箸をちょっと差し込み、切れ込みを入れると、中からさらに湯気がわき出す。
ふーっ、ふーっ、と少し息を吹きかけて冷まし、また一気に口に放り込む。
うーん! これだこれ。
とろりとした生地、大きなたこ、絡むソースとかつおぶし。味の
大事なことなのでトライフォース二度目言いました。
しかし、コンビニの冷凍たこ焼でこのレベルってすごいと思うんだよね。
しかも二〇〇円もしないときたもんだ。
さすがコンビニ業界最大手のプライベートブランド。
もう他の冷凍たこ焼には戻れないよ……。
《♪てれれれ↓てれれれれん↑》
突然どこからともなく効果音が鳴り、テーブルに置いてあったたこ焼の外袋から妖精さんがもぞもぞと出てきた。あー、さっきレンジのメロディを謎解き音に差し替えたのはこの子か。
緑の服に三角帽子、先のとがった長い耳。これはまさしく、
もうね、こういう流れになったあたりから、こんな妖精さんが出てくることは完全に読めていたんだよね。予定調和予定調和。こんなことでははみさんは驚きませんよっと。もう一つたこ焼を口に運ぶ。うん、うまい。
「その姿は! ワタクシが伝え聞いた勇者の姿そのままじゃ! さあ、そのマスターソードを引き抜いてみるのじゃ……」
いつの間にか勇者を導く魔女みたいになっているな、えすこ。
緑の勇者は無言でこくんとうなずく。この手の主人公はしゃべらないものだしね。
彼女は私のたこ焼に刺さっているつまようじの前に立ち、その柄の部分を両手でゆっくり引き抜き、天に向かってかざす(その刀身はソースでべたべたなのだが)。心なしか光り輝いているように見える(ソースが)。
「ついに司祭はみから世界を救う勇者が現れ――あふぅっ!? うわなにするやめ」
抜き取ったマスターソードを試しに一振りしたところ、その刀身からビーム――というかソースかな――が飛び出し、えすこにクリーンヒット。緑の妖精さんはなんだか楽しくなってきたのか、何度もぶんぶん振り回し、えすこにビームを当て続ける。
そうだよね、新しい武器もらってビーム出るようになったら出したくなるよね。あるある、よくある。
さっきまでマスターソードが突き刺さっていた最後の
ごちそうさまでした。
「あーんはみさんっ! 助けてくださいようー」
「人を悪の司祭呼ばわりするような子は知りません。いいじゃないですか、粉もん同士なんですし。仲良く遊んでてください」
「鬼! 悪魔! はみ!」
あーあー、きこえなーい。
あーこれ、お好み焼なんか食べた日には、さらに粉もん妖精さんが増えるのかな。
三人揃うとどうなるのか、見てみたいような、めんどくさいような。
ま、とにかく、その辺に飛び散っているソースとか掃除するのがもっと大変になるってのは覚悟して食べないといけないわけだ。
……うん、お好み焼を食べるのは元気なときに限る。それだけだ。
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