バナナボート 1/2
スーツケースをひきずり、私は新幹線からホームに降りる。
久しぶりに故郷へ帰ってきた。
最近仕事がちょっと落ち着いているので、9月のシルバーウィークは有給休暇を使って大型連休にしてだらだらと過ごそうと思っていた矢先のこと。
「ちょっとはみー、たまには帰ってきなさいよー」
との母からの電話。
いやいや、もう少し暇だったら帰ってもいいんですよ?
あと、
そりゃあ伊達に行ったことのない都道府県ランキングで1位に輝いてるわけじゃないですよ。
でもまあ、ちょうど長期休暇が取れそうだったので、せっかくだから帰ることにした。
どうせ家でひとりで積まれているゲームを消化するってオチになりそうだったしね。
さて、それじゃあまずは、かわいい後輩に会っていこうじゃないか。
高校、大学と一緒だった2つ下の後輩で、高校時代に部活で一緒になってからというもの、こっちにいた頃はなにかとよく遊んでいたものだ。
どうも今日はバイトらしいので、いきなりバイト先に行って驚かせてやろう。
じゃあ在来線に乗り換えて……って、ええっ!? 40分待ち!?
そうだった……首都圏での生活が長いと電車なんてすぐ来るもんだと思っちゃうからね。
仕方ない、待ちますか。
ようやく来た2両編成の電車に揺られ、たった3分、1駅先の
これならバスとかタクシーでもよかったかな……と思いつつ、懐かしい島式ホームに降りる。
エスカレーターなんて気の利いたものは設置されていない地下道を、スーツケースを抱えながら苦労してくぐる。ああ、暑い暑い。
そうして駅を出た先に、彼女のバイト先の古本屋『ミレニアムブックス』があった。
……んー、前もこんな古本屋があったような気がするけど、こんな名前だっけ?
お隣の中華料理屋は変わってないような気がするけど……まあいいか、入ろう。
自動ドアを開けると、ひんやりとした空気と古本の独特な香りに身体が包まれる。悪くないな。
入って右手側を見てみると、木製の本棚にずらりと並ぶ、新旧さまざまなゲームソフト。
さらにコの字に並んだ本棚の中央のスペースにはテレビとファミコン――しかもディスクシステム付きだ――が設置されている。
……ここ、古本屋?
まあ、奥にはちゃんと古本が並んでいるが、この手前のインパクト、すごいな。
と、店内を観察していると、奥のほうからぴょこぴょことよく動くポニーテールが出てくる。
「いらっしゃいませー、って、ええーっ!?」
私の存在に気づいたそのポニテは、ダッシュで私の元へ駆け寄り抱きつく。
おー、相変わらず程よくボリューミーな胸で。
……うん、ひがんでなんか、ないよ?
「はみさんっ! どうしたんですかー!?」
「
「そうでした、てへへ……」
名残惜しそうに離れる千秋こと
うんうん、やっぱり素直ないい子だな。
「ちょっとね、仕事が落ち着いてたんで、有休使ってシルバーウィークを連休にしちゃってね。親がたまには帰ってこいって言うもんだから帰ってきてみた。久しぶりに千秋にも会いたかったしね」
「そうですよー! 8月にせっかく首都圏に行ったのに、忙しいからーって言って会えなかったんですもの」
ぷすーっと膨れる千秋。いちいちかわいいなあ。
「そうそう、ごめんね。ちょうどその頃、システムのリリースがあってね。家にもあんまり帰れないほどだったんだから」
「そんな大変だったんですか! 気軽にすみません……」
ポニテとともにしゅん、となる千秋。
「ああ、いいのいいの。ほんとは会いたかったんだし、こうやって帰ってこられたからいいでしょう」
「そうですね、わたしもうれしいですよー。……あ、そういえば、ねこさんどうしてるんです? 連れてきたんですか?」
「ん? いや、ももかはペットシッターに任せてあるから、向こうでお留守番だよ」
妖精さんというペットシッターだけどね。ちゃんとやってるかな……。
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