葛尾はみとSE稼業のひとときの癒し(あるいはストレス)
鬼かき揚げ天ぷらうどん+からあげクンレッド
ゴォォォォ――。
だだっ広い無機質な室内に途絶えることなく響く轟音。
そう、ここはデータセンター。
私の周囲には鋼鉄のラックがずらりと立ち並んでいる。その中にはもちろん、無数のサーバーやネットワーク機器が収納されているのだ。
これらの機器はPCとは比べ物にならないほどの熱を発する。それを放熱するためのファンと、さらにその熱を逃がし冷却するための強力な空調。数百のラックによる合奏となり、轟音にならないはずはない。
しかし本当に、うるさいし、寒い。
今日ここに作業しにくると事前にわかっていれば、厚手のジャケットなんかも持ってこられたのに。急に依頼されるもんだから、薄手のシャツくらいしか持っていなかったのだ。
ううさむ……よし、通ったかな。
バーチャルプライベートネットワーク、略してVPNの設定を完了し、ルーターにつないだノートPCから社内のネットワークへのアクセスを試みる。うまくいっていれば、仮想的に閉じたネットワークがここと社内との間に構築され、安全かつ便利に社内からアクセスすることが可能となるのだ。
……うん、オーケー。社内のファイルサーバーにアクセスできている。
さて、終わり終わり。あとは会社に戻って最終確認だ。
サーバーラックにカギをかけ、セキュリティチェック等の退館手続きを済ませ、退館。
会社に戻らなければならないのだが、今は深夜だし電車も動いていないので、タクシーをつかまえることにする。
行き先を告げ、ほっと一息……と思いきや。
このタクシー冷房効きすぎ!
ああもう、データセンターを出ればなんとかなると思ったのに、またしてもどんどん身体が冷えていく。
下げてくれと頼むのも面倒。会社まで少しの間がまんだ。
でもこの冷え切った身体はどうしてくれようか……。
やっとのことで会社のあるオフィスビル前に到着。
外は生ぬるい気温で冷え切った身体にはちょうどいい感じなのだが、まだまだ芯が冷えている感覚がある。
とりあえず……そうだ、あの青い看板のコンビニに寄ってなにか温かいものを!
「いらっしゃいませこんばんはー」
店員さんの挨拶に出迎えられ入店。その店員さんはカウンター奥のフライヤーで揚げ物を作っているようだ。
ふむ、いいかも。このタイミングなら揚げたてがもらえそう。
でももうちょっと、汁物っぽいのも欲しいかな……。
「ただいまからあげクンレッド揚げたてでーす。期間限定一個増量中でーす、いかがでしょうかー」
お、レッド! じゃあアレでいくしかない!!
私はお目当てのカップを手に取り、カウンターでからあげクンレッドも購入。
とっとと戻って食す!
いつもどおり、ひとり深夜の社内。
まったく……誰かここに残って社内側を確認してくれれば戻ってくる必要もなかったのに。
とまあ愚痴はほどほどにしておいて、まずはごはんだ、身体を温めないと。
先ほどコンビニで購入したカップを取り出す。
ふたには『鬼かき揚げ天ぷらうどん』の文字が。
さっそく開封し、粉末スープを入れて電気ポットからお湯を注ぐ。
五分か……。ちょっと先にからあげクンつまんじゃおう。
からあげクンレッドのニワトリの絵が描かれているパッケージを開け、少し赤みがかった衣に包まれたからあげを爪楊枝で刺し、一口ぱくり。
ジュワっと口の中にほんのりとした辛さと鶏肉の味が広がる。
んんー! 揚げたてで衣がカリカリ! でも中の鶏肉はふんわりやわらかジューシー!!
と、ふとパッケージに目をやると、隣に同じからあげクンのぬいぐるみが置いてある。
あれ、いつの間に……と思っていると、突然もぞもぞと動き出し……背中から何か飛び出たー!?
「ボクを呼んだかい?」
うまいことうどんのカップの上に着地したその妖精さんは、ショートカットの赤い髪にTシャツとハーフパンツといういでたち。Tシャツにはまたからあげクンの絵が描かれている。
……ボクっ娘か。クン付けだからって安易じゃない?
「いやいや、呼んでないですよ? ……あ、そろそろ五分経つんでちょっとそこどいてもらえます?」
「うわぁ、なんか爪楊枝こっちに向けながらとか怖いよおねえさん」
ひきつった笑みを浮かべてすごすごとカップから下りていくボクっ娘。
よしよし、今日の妖精さんは聞き分けがいいな。
カップのふたを開ける。出汁のいい香りと湯気が湧き出てくる。
そこへあとのせのかき揚げを投入し、上から割り箸で押して汁に浸す。
さて、いただきます。
まずは汁をすする。……はあー、温まる!! ちょっとかき揚げの風味がついて、深みが増すんだよなあ。
そしてかき揚げを一口。よーし、これこれ! 他のカップめんの天ぷらは油っこすぎて食べた後に後悔するレベルで気持ち悪くなったりするんだけど、このかき揚げはそうはならない。玉ねぎの風味もしっかりしていて、汁との相性もバツグン。天ぷらが入っている系のカップめんの中では最高の出来だと思う。
うどんもずるずる。うーん、このカップめん特有の麺、いいんだよね。
さてさて、ここからがはみ流。
私はおもむろにからあげクンをパッケージごと持ち上げる。
「うんうん、うどんとからあげクンって合うよね……って、ええー!?」
どぼどぼどぼっ!
うどんの汁にパッケージ内のからあげクンをすべて投入。
妖精さんは口をあんぐり開けたままガクガクしている。
「ふふん、これがおいしいんですよ、これが」
十分に汁に浸されたからあげクンをすくいだし、口に運ぶ。
ううーん! 汁で少しふやけた衣が、辛味と出汁の混ざった味になって最っ高ーにおいしい!!
昔っから、からあげクンレッドはうどんの汁に浸して食べるのが私の楽しみ方なのだ。
さらに汁を飲み込む。からあげクンレッドのお味もちょっとしみだして、これもまたおいしいんだなあ。
「みっ、みんな! 助けにいくよー!!」
どぼぉん。
幸せな気持ちで小休止していたところ、妖精さんがうどんの海に飛び込んだっ!?
助けに行く、って、からあげクンを救助しに?
……あれ、浮上してこない。
「あっ、あああ……。大丈夫?」
さすがにちょっと心配になってくる。
と、そのとき、ぷかぁーっと、仰向けの状態で妖精さんが浮いてきた。うっとり幸せそうなお顔だ。
しかもその頭には大きな鬼の角が二つ生えている。
「これはなかなか……いいものだね、おねえさん」
「なんかその角、鬼ってことなのかな。鬼かき揚げ? 合成されちゃってるけど大丈夫?」
ああ、そうか。
まだ鬼かき揚げうどんの妖精さんが出てきていないと思ったら、こっちに融合しちゃったのかな。
なんか、なんでもありだなあ、妖精さん。
しかもからあげクン改め鬼から揚げうどんクン、心なしかあごがしゃくれてしまっているような……。
いやいや、いくらうどんだからって、うどん県の副知事っぽくならなくても。というかこれ讃岐うどんじゃないしね。
「うどん県の人たちに謝れ!!」
「ぴっぴ!」
とりあえず爪楊枝でつついて制裁を加えておいた。
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