リフレッシュショットコーラ

 春うららかな昼下がり。

 私は席を離れ、自動販売機が整然と立ち並ぶ休憩スペースにふらふらと向かっている。

 ああ、いけない、このままではまったく仕事にならない。

 PC画面上には一行に数え切れぬほどの『j』の文字が並んでいた。

 キーボードのホームポジションに手を置いたままうとうとしてしまい、右手人差し指が押し込まれていたのだ。

 ……ちょっと久々に張り切って作ったお弁当が、ボリュームありすぎたかな。うん。次はもうちょっとお弁当箱のサイズから見直そう。


 そんなことをだらだらと考えながら、私は自販機の前に立つ。

 なにか、目覚めの一杯をキメないと。

 缶コーヒーとか生易しいものではなく、こう、ガツンとくるものを。

 そうして物色しているうちに、なんとも魅力的な一本が目に入る。

 『リフレッシュショット』と書かれた、たった200mlのコーラ。

 強炭酸×強カフェインの文字がまぶしい。

 これだ! これしかない!!

 握り締めていた小銭を投入し、ボタンをプッシュ。ガコンッ。

 よし飲もう、すぐキメよう。


 昼休み直後で誰もいない休憩スペースのテーブルにつき、開缶。

 プシュッ、と炭酸の抜ける爽やかな音。

 それを口に当てて一気に喉に流し込む。

 舌に感じる強い甘みと、喉にはじける強い炭酸。

 ふうっ、この一杯!


 と、一瞬にしてすっきりとした私の前に、水色の髪をした小さな天使が降り立った。手には一冊の本を抱えている。ああ、妖精さんか。

 その手にした本を掲げて、妖精さんは言った。


「目ざめよ!」


 その言葉を聞くなり、私の腕は光の早さで妖精さんを捕らえ、薄手のカーディガンのポケットへ突っ込む。


「それ以上はしゃべってはいけません。私には何もコメントできません」

「えーなんでですか! 聖書の一節から引用しただけですよムギュ」


 ポケットから顔を出して反論してくるので再びムリヤリ押し込む。


「問答無用です。もう私は十分目が覚めたのでご心配なく」

「むぐぐ……苦しいです……」


 静まるまでしばらくこうしておくしかないかな。仕方ないけど我慢してもらおう。

 それにしても、また妖精さんが増えるということは、帰ったら名前をつけてあげないといけないな。

 ふーむ……あ、そうか。最近読んだ小説に、魔王様と暮らす天使がいたなあ。その子も青い髪だった気がするし、それから引用ってことでいいや。


「出してくださいよー! 駅前に立ったり知らない人のおうちを訪問したり、ましてやお祈りと称して身ぐるみ剥いだりもしませんからー!」

「一言も二言も三言も多いっ!」


 魔王様とセットで出てこなかっただけましか。きっと二進も三進もいかなくなっていたことだろう。やれやれ。仕事に戻ろう。

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