手と手から始まる物語

くまねこ

手と手から始まる物語

彼女と別れてから半年。

気持ちの整理もほとんどついていて、未練などもなくなっていた。

はずなのだが、まだどこかで気になってるような気がした。

なんでそんな気がしたか?

それは俺が今本屋にいるからである。

俺は本を読むのが得意ではない。

いわゆる『活字を見ると眠くなる』という奴だからだ。

そんな俺がなぜ本屋に?

理由はただひとつ




【彼女が読書をするのが好きだったから】




本屋に入ってもやはり小説などは苦手で、すぐに漫画方面へ歩みを進めてしまう。

そして並んだ本のタイトルをただただ眺め、それもすぐに飽きて帰路につく。

いつもそんな感じだった。

だけど今日は少しだけ違った。

何故だかやけに気になるタイトルの小説が一冊あったのだ。


理由はなんとなくわかっていた。

その小説のタイトルは映画になっていたからだ。



「このタイトル見覚えあるな~。どんな内容だったかな~」



本の裏側にあらすじでも書いてあるかな?

なんて思いながらその本に手を伸ばした。



「あっ。ごめんなさい」



か細い声でそう言う女性。

その本に女性の手が伸びていることに気付かずにその手に触れてしまったのだ。



「あ、いえいえ!こちらこそすみません!」


「いえいえ!そんな・・・」




その言葉をきっかけに無言になるふたり。

『話さなくちゃ!』

なぜだか俺はそんな気分になった。



「本、好きなんですか?」


「え?あ、はい。」


「そうなんですか。俺も好きなんですよ!とか言いたいんですけど。ちょっと苦手で・・・」


あははと笑いながらそう話した。

たいしたことは話してないはずなのにどこかぎこちない。

今初めて話したのだから当然なのだが。



「そうだ!本が好きってことは何冊かは読んだことあるんですよね!」


「まぁ、はい・・・」


「そしたら俺におすすめの本教えてくださいよ!あ、でも・・・あんまり難しくないやつで。俺、頭悪いからさ」


「そんなこと」



と言いつつその女性は「あはは」と笑った。



「やっと笑ってくれた」


「はい?」


「いや、なんでも!で、おすすめ教えてよ!」


「おすすめって・・・。その本じゃダメなんですか?」


「これさ、ちょっと前に映画でやってたじゃん?だからタイトルがちょっと気になっただけというか・・・」


「それでいいんですよ!そういうほんの些細なきっかけで!」


「そういうもんなんですかねぇ」


「そういうものです!だって、わたしもそうですから」


「というと?」


「映画あったなーとか思ってただけで・・・」


「つまり、お仲間だったんですね」


「そうですね」



今度はふたりで「あはは」と笑った。



「そんじゃ、これ買ってみるかなぁ」


「じゃ、わたしも」


「あ!じゃあ、こういうのはどうかな!」


「はい?」


「今度どこかでまた会ったらこの本の感想言い合うとか!そういうの無いと結局読まなそうでさ」



照れ隠しのためか思わず目を逸らした。



「いいですよ!そういうの面白そうですし!」


「よし!じゃあ決まり!」


「ですね!」



ひとり1冊ずつその本を手に取り、レジで会計を済ませる。

そして一緒に店の外へ。



「じゃあ、俺こっちだから!」


「わたしはあっちなので」


「ほんじゃここで!」


「はい!」


「じゃ、またどこかで!」


「はい!またどこかで!」



軽く手を振り合いふたりは反対方向に向かって歩き出した。

そして赤信号で立ち止まると袋から本を取り出した。



「【最後の恋のはじめ方】か。最後の恋、はじまっちゃったかな」



自分にしか聞こえないほどの小さな声で呟くとまた歩き出した。

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