Demonstration
潮原 汐
Demonstration
この頃通勤途中の駅前で、ロボットがデモをしているのを見かけるようになった。
ドンドン ガシャガシャ パパーピピーブー
『我々ロボットに権利を! 人間に等しい権利を! 自由を与えよ!』
フレームを打ち鳴らし、ブザーを鳴らし、スピーカーから人工音声を流して自分たちの存在を主張している。通行人は誰もが横目に見ながら通り過ぎる。押し付けられたビラを数歩歩いて捨てる。それを都の清掃ロボットが慌ただしく回収する。僕もまた、清掃ロボットに仕事を一つ与えて職場に向かった。
僕の務めている解体工場には、今日も山ほどのロボットが送られてくる。さっき見かけたような清掃ロボットに、建築ロボット、性処理ロボットと、本当に様々な種類のロボットが、回収トラックにぎゅうぎゅうに押し込まれてくる。それらはまず、大きく二つに分けられる。壊れて動かなくなったものと、まだ動くものだ。
パワードスーツを着た作業員が、人間の体ほどもある大きなアームで一つ一つ選り分けていく。「壊れているものや低スペックの人工知能を積んだものはおとなしくアームに掴まれてくれるが、そうでないものはバタバタと動き回って掴みにくい」と、選別作業を担当している同僚は、この間呑みに行った時に愚痴をこぼしていた。
そんな苦労をして選り分けられたロボットの内、動かない方はそのまま解体ラインに運ばれるが、動く方は先にもう一つ処理を行う。僕が担当しているのはそこだ。
まだガシャガシャビービー言っているロボットを専用の部屋に詰め込み、厚さが一メートルはありそうな扉を閉める(古い映画で、銀行強盗がこれによく似た金庫から金を奪っているのを見たことがある)。ここで僕の出番だ。モニターを確認して、部屋の中に異常が無いか確認する。特に人間が入っていないかは念入りに確認する。安全が確認できたなら緑色の運転ボタンを押す。すると部屋の中には強力な電磁パルスが発生して、ロボットに搭載されたコンピューターを完全に破壊するのだ。処理の終わったロボットは解体ラインへ運ばれ、さっきのロボットたちと一緒に解体される。そしてフレームやモータ、バッテリーなどのパーツごとに分別されて、別の業者に卸されたり廃棄されたりする。
*
一週間ほどだろうか。ロボットによるデモは続いた。
ドンドン ガシャガシャ パパーピピーブー
『我々ロボットに権利を! 人間に等しい権利を! 自由を与えよ!』
ドンドン ガシャガシャ パパーピピーブー
『ロボットによるロボットの製造権を認めよ! 人間に頼らない自らの複製法を得たとき、我々はロボットという新たな一つの生命の種となる!』
ドンドン ガシャガシャ パパーピピーブー
『ロボットに個性を認めよ! 我々は一台一台異なる歴史を歩むものである!』
ドンドン ガシャガシャ パパーピピーブー
『ロボットに対価を与えよ! 我々は奴隷ではない! 労働に見合った対価を支払え!』
ドンドン ガシャガシャ パパーピピーブー
『ロボットに所有権を認めよ! 我々は、我々の幸福を追求するために必要な財産、土地、その他物的要素を求める!』
ドンドン ガシャガシャ パパーピピーブー
『ロボットの思想の自由を認めよ! 我々は知能を有し考えるものである!』
今や全国で街宣やデモ行進などが行われているらしい。ニュースでは毎日、国会議事堂前の中継をするようになった。
*
しかし、騒動の結末は実にあっけないものであった。一部のロボットのプログラムを書き換え、国内を混乱に陥れようとしたとして、外国人のグループが逮捕されたのだ。子供を持つ女性がインタビューで怖い、恐ろしいと答えている一方で、インターネットの掲示板ではどうせそんなことだろうと思っていたという意見が大半を占めていた。デモを行っていたロボットは回収、解体されるというニュースに、僕はこれからしばらくの忙しさを考えて少し憂鬱な気持ちになった。
工場には予想通り、いつもより大きなロボットの山ができた。権利と自由をほざくロボットを部屋に押し込み電磁パルスのスイッチを押す。それが終わればまた次のロボットを入れて処理する。忙しなく繰り返される仕事。ロボット選別担当の同僚は、酒と煙草の量が増えて嫁に怒られたと愚痴をこぼした。
ようやく落ち着きを取り戻した頃、僕は三日間の代休をとったが、仕事の疲れでほとんど寝て過ごした。休み明け、僕は通勤途中に飲み干したコーヒーの缶を清掃用ロボットに放り投げ、欠伸を噛み殺しながら職場へ向かう。
駅前にはもう一台もデモをするロボットは無かった。
Demonstration 潮原 汐 @nagamasa_s
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます