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 窃盗団を捕らえてから1週間経った夜、真壁は立番中に、こみ上げてくる欠伸をどうにか抑えていた。

 警視庁の地域警察官は4つの係に分かれ、それぞれが日勤、第一当直、第二当直、非番という順序で交代勤務している。第3係は午後2時半に出勤し、翌日の午前10時まで勤務する「第二当直」に当たっていた。

 そこに、高城が顔を出してきて、真壁の肩を小突いた。

「若いくせして、情けねぇな」

 真壁は「すいません」と呟き、いまだ夜間の勤務に慣れない自分を呪いながら、「どうしました?」と訊いた。

「110番通報。歌舞伎町2丁目のホテルで女性客が暴れているらしい。行くぞ」

 真壁は高城に急かされて、夜道をホテルへ走った。高城の年齢は50に近く、走るのが億劫になり、若い自分を先にやって後からついて行こうという算段だろうかと思った。

 真壁が到着すると、ホテルの女将が「あら、若いのね」としげしげと眺めてくる。

「どうかされたんですか?」

「いやね、昨夜は社長さんらしい人と一緒に泊まったんです。でも、朝になったら男の人は先に帰ったらしくて女の人が独りになっていてね。それで暴れてるんですよ。訳の分からないことを言って」

 女将によると、女性は30歳前後だが、定時制高校生で、社長の事務所で働きながら都立高校に通っているという話だった。

 高城が遅れて到着する。女将の説明を真壁が高城に伝えると、高城と真壁はさっそく女性が入っている部屋に向かった。

 部屋のドアを開けた女性は、全体的に体がひ弱そうで痩せていた。ダイエットして痩せている感じとは違うようで、よく見ると、顔色が青白い。浴衣を上からはおっているが、その下は裸である。パンツも履いていない。

 2人の警官を見るなり、女は叫んだ。

「どうして警察なんか呼ぶのよ。私はお金を払って延長しようとしてるのよ。警察なんか関係ないわよ」

 浴衣がはだけているので、裸が丸見えだが、気にする様子もない。真壁は「まだヤクが効いてるようだ」と感じ、高城に耳打ちしようとすると、女は急に真壁に近づいてきた。

「坊や、ちょっとイケメンね。坊やになら、見せてアゲル」

 浴衣をはずし、裸になった。真壁は眼を見開いた。女の前で直立不動になり、眼のやりどころが無く視線が泳いだ。

 その様子を見ていた女将が「見てらんない」と言って立ち去った。さらに大胆になった女は真壁の傍によりかかって「あなた、あなた」と言いながら、抱き着いてしまった。真壁が体を振り払おうとすると、「いいじゃないの。私のことキライ?」と迫る。

 真壁が高城を見ると、自分の様子を見て笑っている。

「高城主任、こういう時は・・・」

 高城は女を引き離した。

「ちょっと、ちょっと。こいつはまだ若いんだから、あんまりいじめるなよ」

 やがて社長がやって来た。女は社長に訴える。

「私、この2人に犯されました」

 女は裸である。状況は警官らに不利だ。

「何言ってるんですか?」真壁が言った。「最初から裸だったじゃないか」

「いいえ、違います。このおまわりが来た時は、パンツをはいてたし、ブラジャーもしてたんです」

 社長も2人の警官をにらみつける。

 そこへ女将がやって来ると、高城は「女将さん、私らがこの女の人を裸にして犯したと言ってるんですよ」と声をかけた。

「冗談じゃないわよ。最初から素っ裸じゃないか。私が証人になりますよ」

 女将の強い口調に、女は口をつぐんだ。その場をどうにか高城がいなすと、社長は女の宿泊費を払って、2人は待たせていたタクシーでホテルを出て行った。

 真壁と高城が続いてホテルを出ると、東の空が明るくなってきていた。交番への道を戻りながら、真壁は高城に言った。

「女はヤクをきめてたみたいでした。覚せい剤使用で逮捕しても良かったのでは?」

「女の部屋は見たか?」

「いえ」

「ベッドの上に小さなアルミのパッケが転がってた。おそらく、危険ドラッグの一種だろう。お香とかバスソルトの名目で売られてるものだ」

 真壁は思わず高城の顔を見た。

「あれはお香だと言われれば、それで終わりだ。摘発できない」

 高城は真壁の肩を叩き、低い声で言った。

「よく聞き、よく見るんだ。頭は放っておいても、後からいくらでもついてくる」

「はい」

 東の空が明るくなり始めていた。新宿の夜が明ける。

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新宿巡査Ⅱ 伊藤 薫 @tayki

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