[3]

 高城一範巡査部長が応援として加わることになった。高城は第3係の中で勤務暦の長いベテランで、角ばった顔貌に職人らしい頑固さがにじみ出ていた。

 落合と真壁は持っていたロープを浮浪者たちの腰に通し、高城がロープの両端を落合と真壁の手首に結わえた。品物は1つのバックに全部つめて、真壁が持つことにした。

 歌舞伎町交番に同行している途中、通行人が追いかけてきて真壁の肩を叩いた。

「おまわりさん。あの人が財布を落としましたよ」

 通行人が浮浪者の男の1人を指した。田中と名乗っていた。

「あ、それは俺のですよ。うっかり落としちゃったんですね」

 田中が受け取ろうとするのを、高城が真壁の手から財布を取った。

「ちょっと待て」

 高城が財布を開けると、入っていた運転免許証の名前を確認する。

「この野郎、名前が違うじゃないか!これも盗んだんだろ!」

「す、すいません。さっき盗んだばかりなんで」

 真壁が名前の欄を見ると、伊藤と書かれていた。呆然とする真壁に、高城が言った。

「どんな時でも耳と眼は動かしてろ」

「はい」

 歌舞伎町交番で、窃盗の手口を追及した。手口の追及は、交番の1階の奥に相談室で行われた。台所へ続く通路をはさんで右側に2つ、左側にトイレと並んで1つある。

 トイレの隣の部屋は第3係が入る時は高城の専用となっている。広さは2畳ほどで、スチール机とパイプ椅子が置かれているだけだが、机の上は高城の几帳面な性格を表していてペン立て、メモ用紙と付箋紙、四角いクリップ入れがきっちり計ったように並べられている。右上の隅に、正方形に畳んだハンカチが置いてあるのも定位置だ。

 雑談を交えながら、高城が聴取した。真壁はその傍で、盗品の目録を書いた。腕時計が5点、指環やネックレスなどの貴金属類が20数点、バックが3点という内訳だった。

 窃盗団を率いていた女によると、泥酔者を介抱するフリをして、その隙に衣服やカバンから盗み出すのだという。次に、置き引き。ゲームセンターでは、荷物を床に置いたままゲームやプリクラに熱中しているから、その間にカバンごと持っていく。

「どのゲーセンが最も狙いやすいの?」高城が言った。

「そりゃあ、この眼の前のゲーセンですよ」

 歌舞伎町交番が眼の前にあるので、客は安心してゲームに集中できる。その隙を突くのだと、自信たっぷりに答えた。もちろん、金のありそうな者しか狙わない。そうした得た品物を区役所前のコインロッカーに隠していたということだった。

 窃盗団はその後、パトカーで新宿西署に移送された。それを見送ると、高城が真壁と落合にぼそりと言った。

「制服は着替えた方がいいかもしれんな。俺たち、臭うぞ」

 そう言われて、真壁は制服の袖に鼻をやると、たしかにドブのような臭いがする。

「それと、眼を擦らない方がいい。俺は脹れたことがあるぜ」落合が言った。

「本当ですか?」

 高城はうなづき、苦笑を浮かべた。

「これだから、浮浪者を相手にするのはヤなんだよな。あいつらの臭いは、あの世までついてまわるとしか思えない」

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