伝統の木の下から異世界へ
@mentaiko_kouya
春に合わせたちょっとした短編です。
この岡崎健也16歳は今日、好きな子へ告白をする事にした。
場所はこの学校にある!伝統の木の下!
それは金曜日の夕方にここで告白すれば100%付き合えるようになると言う何とも胡散臭いがどこの学校にでもありそうないわゆる伝統(オカルト)の木(ウッド)の一つだった。
しかし俺は高校2年になって惚れた女子へ手当たり次第コクるがことごとくフラれてしまいコンボを更新。
結果として『フラレ崎』とか『ダサキ』と数々の汚名を付けられた…そしてそのコンボと言う名の負の連鎖を断ち切る為に伝統の木の下で告白する決意をした。
その相手は同じクラスの葛城涼(かつらぎりょう)
ボブが似合う女子なんだが結構サバサバしてて男勝りな部分が強い。
コイツの弟とは小学校の頃に釣るんでコイツとも時々仲良くはしてたんだけどその時は女として見ていなかった。
高校でたまたま一緒になり、小学以来だな久し振りと思えば…高校に入ってコイツ、ショートだった髪を伸ばし始めてたんだがそれが妙に可愛くて気が付いたら意識していた。
おい、誰がチョロ崎だ。
とまぁそんな事で俺は意を決して放課後、葛城を木の下へ呼び出した。
この場所は昔ここの学校の女子が首吊りしたトコだとか何度も女にフラれたヤツがここでフラれると地獄に落ちるとか男同士でここに来るとホモになると言う変な噂もあったりしたが、昔から馴染みの友人の田村が無理だと思ってたヤツにここで告ってOK貰ったらしい。
成功した前例があるならばやるっきゃないっしょ。
「葛城!好きだ付き合ってくれ!」
「ごめん岡崎。ムリ」
スパっと断られた。
男らしくスパっと行かれた。
スイマセン噂はどこに行ったんですか?
ここまで何の躊躇いもなくフラれたのは初めてだわ…コイツぁはいっそ清々しいぜってなわけねぇだろ。
今までにない衝撃に足元がグラ付いて周りの風景も歪む。
もーやだこの世界。
何がダメなんだよ何がマズかったんだ?これでフラれたの…5回目だよ。
そんな事を思っていると葛城が声を上げる
「え、ウソ…ナニコレ」
その声に俺も我に帰る。
さっきまであった学び舎は無く、聞こえていたカラスの声も野球部の汗臭い掛け声もない。
しかも夕方だったハズなのに陽は高くまで上がって昼過ぎ位か…。
いや、それはどうでも良い。
辺りには何も無くだだっ広い秘境グンマーにありそうな草原。なのに俺らの格好は学校の制服のまんま。
なんじゃこりゃ?っと辺りを見回すと草むらがガサガサと動いて葛城の脅えていた原因がわかった。
…草原の奥には豚みたいな顔をした小人達。
ボロ切れみたいなのを身体にまとって右手には先の曲がった刃物を握り締めこっちを睨むと小さくフゴフゴ鳴きながらこっちへ迫る。そして何匹かの頭上にはジリジリと音を立てながら火の玉が浮かんでいた。
「お、岡崎…っ」
いつもは勝ち気な性格で男みたいな葛城が目の前に広がる異様な光景に震えた声で俺を見る。
次の瞬間、俺は葛城の手を握って全力ダッシュで走った。
第六感とか言うのがあったとしたらそれが逃げろって叫んだからそりゃもう力一杯逃げた。
途中で葛城が俺のダッシュに付いて来れなくてコケたから引っ越しのお兄さんヨロシクな感じで肩に担いでおもっきり走った。
理由はわからねぇがここは異世界だ。いくらちっこい言ってもあんな武器持ってるヤツらに囲まれたらどうなるかなんて俺でもわかる。
どれだけ走ったかわからないが気が付くと村みたいな場所の前で俺は大の字で転がって息を吸って吐くだけの機械になってた。
「っぜぇっぜぇっぜぇ…」
息をしながら頭が冷えて状況整理を何とかする。
水を被ったみたいに全身の毛穴と言う毛穴から汗が吹き出して、おパンツまでびっしょりである。
若くてよかった…じゃなきゃ絶対あんなダッシュ無理だったわと高校生の自分に感謝をする。
「何なのここ。電波も入んないんだけど…」
俺の横で葛城がスマホいじりながら絶望のお知らせを告げてきた。
何となく理解はしていた…異世界に飛ばされたと言うならば電子機器はアテにならないだろう。
そう考えた俺は自分のアイフォンを見て絶望の確認をし終えると電源を切って身を起こした。
「葛城、スマホ電源切っとけ」
「え?ああ、うん。…って岡崎どこ行くのさ!」
「どう考えてもここは異世界だろ?じゃあ話聞いたりして戻る為に色々考えようぜ」
とりあえず村で戻る為の情報収集して…先に宿をどうにかしないとな。
あとはすぐに戻れない可能性もあるからその為の事も考えねぇと。
突然の事にパニくるかと思ってたが命懸けで走りまくったお陰か妙に頭がスッキリしていた。
それから俺ら二人はこの異世界で生活する事になった。
俺はあのブタみたいな小人から村を守る護衛団に入り日々の小銭を稼いで葛城は畑仕事。
最初は金が無かったので俺はアイフォンを売りに出したら案外良い値段で売れてくれた。電池30%しか残ってなかったけどまぁ良いよな…。
高校生の俺に出来るかなと思ったけど腹を決めて必死にやったら案外何とかなった。
葛城も手伝ってくれたのもあって一人でこんなとこに飛ばされないで良かったと感謝した。
ここの村の人達も良い人ばっかりで生活の為に色々と手助けをしてくれて高校生の俺らでも衣食住に困らずに済んだ。
そして俺らみたいに別の世界から来たと言う人間を知ってる人と話をする機会が出来たがその内容は明るいものではなかった。
それは数年に一度、俺たちみたいに別の世界から人間が来ると言う話だったがある日突然、居なくなるとの事。
こちらで生活してた期間はまちまちだが、一貫して言える事は何の前触れもなく急に居なくなってしまうと言う話だった。
有力な情報が!と思った矢先にその希望の光は潰えた。
「はぁ、マジ困ったわ」
護衛団の団長からの紹介で借りてる2DKくらいの質素な部屋に戻ると俺は久し振りに情けない声を出す。
あの日から結構がむしゃらで色々頑張って、やっと手がかりを得たと同時に失った俺は木製のテーブルへ顔から突っ伏すと大きな溜息が出てしまった。
「岡崎、どうかしたの?」
「いやよ…俺らと同じようにここへ飛ばされたヤツのを知ってる人が居たんで話を聞いたら、そいつらはある日突然居なくなってるって言う話でよ…」
「元気だしなよ岡崎…お前、ここに来てからその…ずっと頑張ってるんだしそう凹むなって」
励ましを向けるコイツはそう言いながら畑で採れた野菜を使ったジュースの入ったコップを俺によこす。
何と言うか葛城はこの世界に来てから変わった。
前みたいな男っぽい部分はまだあるんだけどなんつーか、トゲがある部分が抜けたと言うか…。
そしてこんな風に励ますような言葉もかけてくれて良い奴だ。
顔とかじゃなくその優しさに改めて惹かれる。
この世界に来る前、一目惚れつって可愛い子に告白してたけど中身も見ないで告ってたんだ…そりゃフラれコンボも更新するわな。
「それに、よくよく考えたらウワサであった通りだったし…大丈夫だよ岡崎」
葛城は最近少し伸びた髪をくりくりと指で巻きながらうんな事を言ってきた。
「ウワサ?」
「アンタが…その、アタシを呼び出した場所のウワサ」
「…あぁ、あの告白したら100%付き合えるようになるっつー詐欺の木か。
田村が上手く行ったって言うから期待してたけど御利益なかったし」
「詐欺?いや…その通りになってるじゃないか。だからその…田村達もうまく行ったんだろ…?」
うん?何か話が噛み合わない…。
あそこは金曜日の夕方に告白すれば100%付き合えるようになると言うふざけた伝統(オカルト)の木(ウッド)じゃないか。
葛城に言われてううむと頭から引っ張り出す…そう言えば
「昔あの学校の女子が首吊りしたトコだとか、何度も女にフラれたヤツがあそこでフラれると地獄に落ちるとか、男同士であそこに行くとホモになると言う噂があったのは覚えてるが…?」
俺の発言に葛城はひくっと顔を引き攣らせた。
そして何でか赤くなり顔を伏せてはやたら落ち着きがなくなる。
どう言うこった?
「あ、あのな岡崎…?あそこはな」
「あん?」
「昔あの学校の女子があの場所でフラれたショックで首吊りをした所。そしてあそこへ男同士で行くと変な関係になって…その、ホモになる。
でそれを知らずにあの木の下で男子が女子に告白すると首吊りをした女子の呪いで異世界に飛ぶって言う噂があったんだよ…」
はい…?
初耳なんですが?
よーく考えたらあの木の下で告白すれば100%付き合えるって話だったのに誰も使っていなかった…しかも上手く行ったと言ってたのは田村だけだった。
要するにお付き合いならぬお突き合い出来る関係になれる場所ってか?
そら誰もいかねーわ。
「はぁあああああ!?ナニソレ!!お、ま…待てよ!じゃあ田村どうなんだよ!アイツ彼女出来たって言ってたんだけど!」
「……その相手、ウチの弟…だよ」
真っ赤になってプルプル震えてる葛城。
なんつーか涙浮かべてながら笑ってるとかコイツ器用なヤツだな…。
つーかまじか…人のダチをホモにするだけじゃなくホモカップル爆誕させる伝統の木とかふざけんな。
しかも異世界に飛ぶオマケ付きとかハッピー○ット以上にいらない特典付きじゃねーかまじ勘弁してくれよ。
「…えーじゃあお前俺フったのも」
「岡崎、田村と仲良いじゃん?だからアタシをからかうのに呼び出してると思って断ったんだよ」
何と言う事でしょうか。
あれか、今まで俺は相手の顔だけを見て告ってたから神様が罰をお与えになったんだな。
そうに違いない…ならばその罪を受け入れ―…ってなるかよ。
もしこの場に神とか言う輩が居たとすれば俺はこの世界で鍛えた筋肉と有り余る若さ全て剣に乗せてそいつをぶった切る。
「それに…その、帰る方法は多分あるだろ?」
真っ赤な顔で俯いたまま葛城はポツリとそう言った。
「ま、まじかよ!?どうすれば帰れるんだ!俺に出来る事ならマカセロ!」
俺は思わず葛城の肩を掴んで叫んでしまった。
いや、嘘は無い。
俺に出来る事なら何でもやろう。なんつったって一緒にここまで来た仲だしな。
「もしかして帰る方法知らないのか?…いやそのな、まぁ方法は簡単なんだよ」
「ほう!」
「告られた女子が、その…な。ホントに好きになってちゃんと返事すれば…その」
ピシリと何かが凍る。
そしてこいつがこの話をし始めてから俺と目を合わせずにもじもじと挙動不審な理由がやっとわかった。
告った相手に好きになってもらって返事をもらえれば帰れる。
なるほどな…これムリゲーじゃね?俺フラれたんだぞ…?
あれだ、自殺した女子の最後の嫌がらせっつーやつだな。
ぶった切るべきは神ではなくその女子であった。てか幽霊って剣で切れんのかね?
「それにもしアタシが今ここでちゃんとその、返事をしてしまえば二人きりなんて無理になるだろ…?さっきの話じゃ急に居なくなるって話はすぐに元の世界に戻ってしまうって事だろうし…だからよ、その…もう少しこのままって…ダメか?」
すんげー真っ赤になりながら上目遣いに首を傾げてこんな事言われた。
流石に鈍感な俺でもこの意味は理解する。
俺はそれに無言で頷くと二人でしばらくそのまま生活を続けました。
意識するとまじあれな、好きな相手の全てが可愛いし何もかもが喜びになるわ。
ガキの頃は何も思わなかった葛城の笑顔が天使に見えます。
そんなこんなで俺らは暫くこの世界で生活してたんだけど、葛城の方が色々我慢出来なくなって襲うようにキスしてきたんですがそれと同時に元の世界に戻ってしまった。
こう、例えると夜遅くに大人なTV番組見てるところに風呂上がりの母ちゃんが電源切って『早く寝な!』と怒鳴ってきた時みたいな感覚。
まじ賢者モードですわ。
んで元の世界に戻ったその時に『リア充爆発しろ』と言う言葉が聞こえた。
その先へ視線を向けると村を襲ってきていたブタフェイスの小人…のような顔の女子高生が俺の頭上で凄い形相で睨んでいた。
俺は何かの錯覚だと言い聞かせて上に乗っかってる葛城の手を掴み、第六感に従うとダッシュでその場を後にした。
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