第3話

僕は彼をただ待った。が、ついに彼は現れなかった。彼は現れる時はいつも突然だったけど、消える時はじんわりと滲むように消えた。彼が現れなくなってからの日々において、彼の記憶は僕の中からじんわりと滲んで消えていった。彼が現れなくなって1年も経った頃には彼の事をすっかり忘れていた。以来僕は一度も、誰かの頭が無くなるのを見なくなった。


---


何故彼はまた突然僕の前に現れたのか。


 馴れ馴れしく自分の力を誇示するような、癇に障る喋り口調で捲し立てるいつもの彼ではなかった。彼は落ちつき払った仕草と口調で、でも躰を小さく震わせながら途切れ途切れに喋りだした。今にも消え入りそうな小さな声で。


 「救いた い やつを 教えななななな よ。救ってき ててて やるか ら さ。俺俺俺 は お前 の為 に やって や んだ よ。お前 に 苦苦苦苦し みを 与え る為に。さぁぁぁぁ、 教えな よ。名 前を 口にす る だけ ででででいいんだ かかかからからからから さ」


 僕は迷わず自分の名前を口にした。その瞬間彼は、僕の目の前でギギギッと喉を鳴らした。僕の目に写ったのは、地味な破裂音を発して吹き飛ぶ彼の頭だった。頭を失った体は、まだ生きているみたいにゆっくりと跪きやがて不格好な形でうつ伏せに倒れて行った。全てがスローモーションに見えた。


 「おい、なにボケっとしてんだよ、また遅れっぞ♪」


 不意に後ろからカバンで頭を叩かれた。ケージ君は、半分からかうような仕草で僕を追い抜いて走っていく。そうだ僕は学校へ行かなくては。全くケージ君は、いつも僕を少し馬鹿にしてるんだから、腹が立つ。


 ええとなに考えていたんだっけ。おかしいな、何か見たような気がしたんだけど。何か今朝は調子がおかしい。まいいや。つい詰まらない想像を巡らせてしまうのは僕の悪い癖だ。でもあれだな、ケージ君ってあんなに背が高かったっけ。


 「まってよーケージくーん!」


 僕は足元に散らばっている、灰色のぶよぶよしたへんなモノを避けながら、学校に向かって走りだした。


完■■

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

リセット ヒズミ @death13th-overdrive

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ