きらきらをたべて生きるヒト
篠騎シオン
きらきらをたべて生きるヒト
僕の先輩は多分、きらきらをたべて生きている。
きらきらって言うのは、恋とか青春とかそう言ったポジティブなイメージから生まれる光みたいなモノ。
先輩は多分、それを食べて生きている。
僕には、きらきらを生み出す力はない。
だから、先輩は僕なんかを好きにならない。
僕は、先輩と話したことが一度しかない。
一度あるだけでも奇跡だと思ってる。
それは遠い遠い昔、僕が幼稚園だった時の記憶。
年少組の僕らがクレヨンで絵を描いていたら、年中組からボールが転がってきた。
それを取りに来たのが先輩だ。
先輩はボールを取ると、即座にもとの部屋に戻ろうとするが途中で足を止める。
「きれいなえだね!」
「えっ、あ、ありがとう」
それが僕が先輩と人生で交わした最初で最後の会話だ。
先輩はそれだけ言うと元の部屋に戻って行った。
そして、先輩がいた部屋と僕の部屋は先生たちによって分断される。
たぶん、ボールが危ないって判断されたんだろう。
ガタンとしめられた立て付けの悪い扉が僕と先輩は一生交わらないんだと教えてくれた気がした。
先輩は美人だ。
小さい時から、とてもかわいくてきれいだった。
それは僕がよく知っている。
先輩は、その存在だけで周囲にきらきらをふりまいているように見える。
もしかしたら、と僕は思う。
もしかしたら、僕も先輩のきらきらをたべているのではないか。
そして、世界中の人々はきらきらをたべて生きているのではないか、と。
そんなことはない、と僕の心のどこかで批判の声が起こる。
人類は、水と食物と空気によって生かされている
そんなことはわかっていると、僕は心の声に反論する。
そんなことはわかっている
でも、先輩はきらきらをたべて生きているって僕は確信しているんだ
なぜ?
心の声は問いかける。
なぜって…それほどまでに先輩は綺麗だから
僕が答えると心の声は興味なさそうに、ふうんと言って消えていった。
僕は絵を描くのが好きだ。
昔先輩に絵を褒められたから。
僕はあれ以来、たくさんたくさん絵を描いている。
でも、先輩に褒められた時のような絵は描けなくて。
僕は正直、僕に嫌になる。
僕の描いた絵は、たくさんたくさん賞をもらった。
でも、僕の絵はきらきらを生み出さない。
僕の描く先輩の絵は、うつろだ。
先輩には恋人がいる。
とってもかっこいいその人は、とってもとっても人気者だ。
どこから見てもお似合いのカップル。
そこに僕が入り込む隙間はない。
先輩はいつもその人とたくさんのきらきらを生み出す。
先輩の笑う顔が好きだから僕はそんな様子を遠くからだけど見つめる。
ストーカーじみてることはわかってる。
きらきらじゃないから、やめるべきだってわかってる。
でも、しょうがないじゃないか。
好きなんだから
先輩はきらきらをたべて生きている。
だから、先輩に恋人がいようと僕は嫉妬してはいけない。
嫉妬したら、僕の穢れが先輩のきらきらを消してしまうに違いない。
そしたら、先輩は死んでしまう。
僕はそんなこと望まない。
だから僕は嫉妬をしない。
遠くから眺めるだけ。そう、眺めるだけだ。
僕は先輩たちの絵を描いてみる。
あの時のようにうまくはいかない。
でも…
その絵は少しだけきらきらしているように見えた。
きらきらをたべて生きるヒト 篠騎シオン @sion
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