ゾンビが大量発生中だけど、三尾森美緒は狙われない
第13話 目と目が合っても恋に発展する確率はほとんどゼロに近い状況でもこの世界を生き抜く僕らはきっと常識崩壊してると言われても、その常識とは何処にあるのやらと穴を覗く
第13話 目と目が合っても恋に発展する確率はほとんどゼロに近い状況でもこの世界を生き抜く僕らはきっと常識崩壊してると言われても、その常識とは何処にあるのやらと穴を覗く
三尾森さんから相談を受けた早田くんは、電力復旧のためにソーラーパネルやその周辺機器が設置してある屋上へ向かっていた。
「どうして僕がこんなことをやっているんだ?」
もちろん、今すぐ彼女の元を離れてこっそり逃げ出すことも可能だった。しかし、なぜか早田は逃げ出さなかった。
「なんであんなやつの言うこと聞いてるんだろうなぁ……。このままバッくれてもいいんだけどなぁ……」
マンションの階段を上りながら早田くんは考える。
自分がお人好しということなのだろうか? いや、それとも無意識のうちに彼女のことを好きになっているのだろうか? その答えを、彼はその時点では出せなかった。
「無事に直せればいいんだけど……」
早田くんには電気系統に関する専門知識があるわけではなかった。それでも彼女の依頼を引き受けてしまったのには、いくつか理由がある。
まず、早田くんが三尾森さんに話した太陽光発電に関するデータが曖昧なことだ。早田くんは三尾森さんと出会う前に今後必要になるような情報を立ち寄った図書館で収集していた。そのときに数年前に出版された本をちらっと読んで手に入れた知識なので、記憶もあまり残っておらず自分が誤った認識をしている可能性も高かった。
また、これから向かう設備に詳しい取り扱いに関する説明が記載されていれば、知識が薄い自分でも直せるのではないかと考えたからだ。今後、こういう経験があれば何か役に立つ可能性もある。
「ああ、ここか」
階段を上りきり、屋上へ入るための扉を見つけた。早田はドアノブに手をかけて回してみる。しかし、ガチャガチャと音が立つだけでドアノブが回る気配はない。
「やっぱり鍵がかかっているか」
早田くんは持ってきたリュックサックの中からハンマーと鉄で出来た杭を取り出し、目を保護するためのゴーグルをかけた。杭を扉のガラス部分に立て、ハンマーでガンガン打ちつける。細かいガラスの破片が周囲に飛び散り、ガラスにひびが入る。ガラスは防犯加工されているため、渾身の力を込めて打ちつけてもなかなか削れなかったが、それでも早田くんは覗けるだけの穴を作ることに成功した。
「あれだけ打ちつけてもこの程度の穴しか作れないのか……。人が入れる程度にまで広げるのは相当時間と手間がかかるな」
早田くんはゴーグルを外し、作った穴から屋上の様子を覗き込んだ。
見えたのは目だった。
「!?」
早田くんは驚いて後方へ飛び下がった。早田くんが屋上を覗き込むのと同時に、何かが扉のすぐ向こう側から彼の方を覗き込んでいたのだ。
「こいつは……」
巨大な黒い影。その正体は死神だった。
その死神はしばらく穴から早田をじっと見つめていたが、やがて興味を失くしたようにそこから屋上の奥へ去っていった。
「あいつ、こんなところにもいるのか……」
早田くんはホッとしてため息をつく。
「音に寄ってくるんじゃあ、これ以上ガラスは壊せないよなぁ……」
彼はもう一度穴から屋上を覗き込んだ。
「あれが原因か?」
穴から見えた景色、かなり暗かったが屋上の隅まで見渡すことが出来た。ソーラーパネルが何枚も並び、その横に関連した装置が置いてある。
「あれは……修理できそうにないな」
その装置はカバーが剥がされ、中から白い煙を出している。コードが引きちぎられ部品があちこちに散らばっていた。
「あいつがやったのか……?」
その装置の近くには先程の死神がうろついていた。
どうやら、機械の熱と作動音に反応して壊したらしい。
「さて、戻るか……」
早田くんはこれ以上復旧作業を続けるのは不可能だと判断した。覗き穴から顔を離し、腕を組んで考える。
「ここのガラスも割れないし、あそこまで装置を壊されたらなぁ……」
早田くんは使った道具をリュックサックの中に戻し、階段を下りていった。
* * *
自分が泊まっていた部屋の前まで戻ってきた。マンションの廊下の電灯も停電によって消えており、閑散としている。
「おーい、様子を見てきたぞ?」
さっきまで三尾森さんは廊下にいたはずだが、姿が見えなかった。
「部屋の中か?」
早田くんは三尾森さんの部屋の呼び鈴を鳴らす。
(確か、呼び鈴は電池式だったから、まだ動いてるはず。さっき僕もそうやって起こされたし……)
呼び鈴のボタンを押してから数十秒経過した。中から三尾森さんが出てくる気配はない。
「は?」
早田くんは何度も呼び鈴を鳴らす。三尾森さんへの報復のつもりだった。連続で20回ほど鳴らしたが、それでも出てくる気配はなかった。
「……」
早田くんは外の景色に違和感を感じ、目を外へ向けた。夜空の暗さが薄まり、青くなりかけている。
「……夜明けだ」
こうして早田くんはトボトボ歩き、自分が泊まっていた部屋の玄関へ戻っていった。
「あぁ……何やってんだ僕は……」
三尾森さんには恩があるわけでもないし、このマンションの電力を復旧しても自分には得にならない。自分が何を何のためにやっているのか全く分からない。
「だめだ、眠気が取れてない……。早朝から作業する計画が破綻だ……」
眠気とイラつきが頂点に達したまま、早田は自分が眠っていた寝室のドアを開けた。
「なぜ、お前がここにいる?」
自分が眠っていたはずのベッド、その上に、寝巻を着た三尾森さんが眠っている。体を大の字に広げ、すやすやと寝息を立ててベッドを占領していた。その気持ちよさそうに眠っている顔が腹立たしい。
「いや、怒るのはまだ早い」
早田は自分の胸に手を当てて、自分を宥める。
「ぼ、僕を待ってる間に眠っちゃったのかもしれないし……」
早田くんは何とか自分の怒りを静めたものの、眠気は限界だった。瞼が重く、頭の回転が悪い。
「一緒に寝るのはさすがにまずいよな……」
頭を振りながらそう言いつつも、彼は極限状態の眠気によって他の部屋に行くのが面倒くさくなっていた。
「いや、もういい。だって、これは僕が寝ていたベッドなんだから……」
ドサッ……。
早田くんは三尾森さんの隣へうつ伏せに倒れ込んだ。
(あぁ、やわらかい……)
三尾森さんは大の字になって寝ていたため、彼女の腕が早田くんの頬に当たる。
(そういえば、こいつと直接肌で触れるのは初めてだな)
早田くんが顔を横に向けてチラッと目を開けると、三尾森さんの顔が目の前にあった。透き通るような白い肌を、さらさらとした黒い髪の毛が強調させている。彼女の横顔は、パーツが整っており、近くで見るととても綺麗だった。
(さっきまでギャーギャー言ってたけど……可愛いな、こいつ……)
早田くんは彼女の顔をしばらく薄く眼を開けながら見つめていた。
(いや、でも、このまま眠ってしまうのはまずいか……)
しかし、彼の意思に反して、視界はどんどん狭く暗くなっていく。
こうして彼は彼女の隣で眠りについた。二人とも、穏やかな寝顔をしていた。
そして窓の外は徐々に明るくなっていった。
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