第5話 ミオチャン、キョウハナニシテアソブノ? オニゴッコハミオチャンノホウガハシレルカラ、ボクガフリダヨ・・・・・・と嘆く静かな朝にも届くシャイニング・ホーリー・ソードはひんやりコンクリ

 マックスが三尾森さんのペットとなり、一夜が過ぎた。

 三尾森さんが起床したのは午前8時。既に高く太陽が昇り、カーテンの隙間から強い光が漏れていた。


「おはよう、マックスー。どこー?」


 マックスを室内に入れて扉に鍵を閉めたのだから、まだマックスは近くに存在しているはずである。しかし三尾森さんの視界には入ってこない。


「え? まさか、脱走?」


 ベッドから飛び起きた三尾森さんは走って扉へ向かい、鍵がかかっていることを確認する。


「だ、大丈夫、鍵はかかってる。じゃあ、どこに……?」


 三尾森さんがベッドの下を覗き込むと、マックスはそこにいた。


「うほぉ、かわいぃ……」


 相変わらず、マックスはちょこちょこと脚を動かして位置を調節していた。三尾森さんはこの仕草がお気に入りであり、これを見る度に心がキュンとなる。マックスが見つかって一安心した彼女は、マックスに向かって声をかけた。


「おはよう、マックス」

「ウン、ミオチャンオハヨウ、ココハネゴコチガイイネ」


 三尾森さんは裏声で勝手な代弁をした。


     * * *


 三尾森さんは今日も湯を沸かしてカップ麺を温める。三尾森さんの食事はこれで十分だが、問題はマックスの食事である。三尾森さんはとりあえずマックスをキッチンに連れてきたが、その生物が何を食すのか全く知識がなかった。


「マックスは何を食べるの?」

「ヤダナァ、ミオチャン。ソンナノワカッテルクセニ」

「分からないよぉ。ねぇヒントちょうだい」

「ボクノカラダカラソウゾウシテミナヨ。アレダヨ、アレ!」

「そっかぁ~、アレかぁ~。やっぱりアレだよねぇ~」

「……」


 勝手に会話を成立させてみたものの、三尾森さんは全く分からなかった。そこで三尾森さんはこれまでのマックスの行動を振り返ってみることにした。


「まさか、ベランダにヒント?」


 マックスを発見したのは自室のベランダであった。そこから三尾森さんはベランダにマックスの好物があるのではないかと推測したのだ。


 彼女は急いでベランダに向かい、床を確かめる。しかし食すようなものは何も置いてない。床に顔を近づけ、微細な砂粒まで確かめたが何もなく、ひんやりとしたコンクリートが彼女の鼻先に触れただけだった。


「まさか、コンクリを舐めるんじゃ……。いやでもカタツムリは塀のブロックとかから栄養補給するって聞いたことがあるし……」


 とりあえず三尾森さんはマックスを両手で抱え、ベランダに連行した。


「さあ、おいしいコンクリだよ。お食べ」


 マックスをベランダに下ろし、しばらく様子を見たが何も変化はなかった。


「え、違うの?」


 三尾森さんはベランダに何があるのか、再度観察を始めた。そして、この2畳もないであろう狭いベランダの観察に1時間かけ、ようやく革新的な答えへと辿り着く。


「そうか! 分かった! 日光だ!」


 三尾森さんは両手でマックスの背中をつかみ、日光にかざすように持ち上げた。


「きっとマックスはプランクトンみたいに葉緑素を体に持ってて、太陽の光で栄養を補給するのよ!」


 昨日の綺麗な夕日が予兆だったように、この日も雲一つない快晴で、日光は十分に降り注いでいた。


「え? どうしたの?」


 自信満々にマックスを持ち上げた三尾森さんだったが、その数秒後、マックスが脚をパタパタと激しく動かしていることに気づく。普通に抱えるよりも激しい動き方をしており、これは明らかにマックスが嫌がっているサインだと三尾森さんは感じ取った。


「ご、ごめん!」


 三尾森さんは慌ててマックスをベランダの日陰に下ろし、謝罪した。マックスは日陰にちょこんと座ったまま動かなかった。


「ごめんねマックス。太陽は嫌だった?」

「タイヨウキライ」

「本当にごめんなさい。全く知らなかったの。ベッドの下みたいに暗くてじめっとした場所にいたあなたが日光を好きなわけないものね」

「イインダヨ、ミオチャン。ジンセイハシッパイノツミカサネナンダカラ」

「ありがとうマックスー!」


 無理矢理美談に仕立て上げた三尾森さんだったが、マックスが何を食すのかという肝心な問題は解決されていないことに気づく。


「仕方ない、ちょっと遠いけどホームセンターに行こう。そこなら食べたいものがきっとあるよね」

「ワーイ、ヤッタァ! タベモノアルカナ、アルヨネ」


     * * *


 こうしてマックスの食べ物を探すためホームセンターに向かうことになった彼女たちだったが、マックスの恐ろしい本性が現れるそのときが、刻一刻と迫っていた。

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