☆ 魔

 ぼくが東京から離れた原因のひとつは魔の存在だ。

 思えばその頃から、ぼくのまわりに魔が現れては消えている。

 気づいたのは、ぼくだけではない。

 当時の友だちの何人もが通学路上に撒かれた大量の虫や残酷に殺され樹に吊るされた猫や烏などの死骸を目撃している。


 死骸、死骸、死骸!


 それは大抵の場合、車に轢かれ、引き摺られ、あるいはフェンスか壁に全体をしたたかぶつけられ、骨と内臓が混ざり合いながら露出した死骸だ。

 それら小動物に激突した車が気がつかなかったとは思い難い。

 でも結果は、どれも轢き逃げ、または当て逃げで、運転手が車を止めた形跡はない。

 さらにその死体を再ディスプレイするものがいたのだ。

 それが魔!

 どこかはわからないが、ぼくの町の近くに潜む。

 ぼくが見た小学生時代の魔の最後の仕事は殺人だ。

 小動物が人間に代わる。


 それは幼い少女に……。


 少女の命が猫より軽いはずはなかったけれど、結局、ぼくの知る期間に実行犯は捕まらない。

 単に逃走したのか、それとも気づかれずに隠れ住んだのか。

 ぼくの推測では真犯人=魔は町に残ったのだと思う。

 おそらく、たぶん、きっと、しばらくの間は……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る