☆ 初期動向

 最初に堕ちてきたとき、天使はことさら何をするようでもなかったという。

 川で水を飲んだり、牛と一緒に芝生でまどろんでいたりしたようだ。

 といっても、その体長は優に一〇〇メートルを越えていたから、牛などは虫に見えたし、小さな山の斜面など簡単に覆い尽くされてしまう。

 目撃例は全世界で三〇〇万件を超えたという。

 そして誰ひとり天使に近づくものはいない。

 畏れたというより、呆気にとられたというのが真相だ。

 その事情は、どの国の軍隊でも同じだったようだ。

 レーダーや各種追尾システムに突如現れたその影は彼らをして仰天せしめる。

 もちろんスクランブル戦闘機への発信命令は下されたが、今までに経験のない事態に、すべてがまるで冗談のように捉えられたらしい。


 本当に冗談だったらよかったのにね!


 結果は絶望的だったと推測されるけれども、そのとき彼らが先制攻撃を仕掛けていたなら、もしかしたらその後の経緯と展開が少しは変わっていたのかもかもしれない。

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