その2 伝説は燃え尽きた
季節は真夏。
炎天降り注ぐ都会という名の天然サウナの中で“少女”は戸惑っていた。
人々が往来する道のど真ん中で立ち止まり片手でもつ携帯電話(スマートフォン)に集中する少女。
どう考えても迷惑で邪魔にしかならないのだが、 その少女に誰1人として文句を言う者はいなかった。
都会の人は他人に興味がないとか根も葉もありそうな話とかではなく、 そもそも少女に気づいていない、 いや、 気付けないのだ。
少女の格好が地味というわけではない。
むしろ逆だ、 髪の色はスーパーサ○ヤ人のように逆立ってはないが日の光が反射して眩しいくらいの金色。
顔は西洋風の、 まだ幼さがのこる顔つき。
服装はレース、 フリル、 リボンなどをあしらったもので全体的に黒色を使ったものだ。
ハロウィンでもないのに仮装してると思われてもおかしくない少女が道のど真ん中に立っている異様な光景だが、 誰も見向きもしないというのはさらに異様な光景だった。
そしてさらにおかしいのは半袖とはいえ、 季節に全く合ってない厚みのある服装に加え熱をため安い黒色を全身に着ているにも関わらず、 少女の“西洋人形”の様に白い肌は汗一つかいていことだ。
もはや光の屈折による蜃気楼とすら思える少女だったがぽつり、と声をもらした。
「なんで、“私”に電話がかかってきてるの……?」
小刻みする携帯電話を見つめそうつぶやく少女。
少女が疑問に思うのは無理も無い。
なぜなら少女に“電話がかかってくる”ことは物理的にあり得ないことだからだ。
それは少女がボッチで友達がいないとかいう悲しい真実からくるものではなく、 本来少女が『存在していない』からである。
少女の名前はメリー。
通称というか俗称というか、 世間ではメリーさんとさん付けされることが多い。
彼女はメリーさんの電話という何処かの誰かがつくった、 作り話のようなきっかけによって生まれた“都市伝説”が具現化した存在だ。 物理や数学で言えば無から有が生まれたと等しいあり得ない存在であり、 また“本来特殊な条件”がなければ彼女の存在に気づくことすらできない。
メリーが存在していないということは彼女のつかう携帯電話の番号も存在していないものであり、 そこに電話をかけてくるということはゲームで例えれば存在しないプログラムを無理矢理生成、 改編したようなもの。 チートやバグでも使わない限りたどり着くわけのない事象だ。
現実にチートやバグなんてものがあるはずもなく、 全てのことに“できる理由”があるはずなのだが、 メリーにはその理由に思い当たるものは全くなかった。
メリーは正直電話に出たくはなかった、 だがこの虚数ともいえる番号にかけてきている事実がある以上、 それを行ってる主はまたかけ直すこともできると考えた方がいいだろう。
たまたまや偶然でたどり着く場所ではないのだ。
「………………はいなの」
恐る恐る携帯画面の受話器ボタンを押して電話に出る少女。
そして、
『俺コウタ!今駅前にいるんだけど、メリーさん今どこにいんの? 』
そして、 間髪いれずに見知らぬ誰かから居場所を尋ねられた、 しかも極めて軽く、 チャラく、 調子よさげな感じで。
「(コウタ……、小唄? 孝汰? 子豚? 男の人なの? よくわからないけど、 なんなのこのヒト、私の名前を呼んでるっていうことは確信犯ってことなの……? )」
あり得ない状況に意味不明な状況、 メリーの頭に言葉の羅列が並び目まぐるしく出ては消えるを一時の間繰り返す。
だがそんな中で唯一でた答えがあった。
「気持ち悪い人なの……」
…………素直な、 答えだった。
そんな返答に異議を申し立てるものが1人、 電話の向こう側にいた。
『ええ! どこにそんな要素が???』
「本気で言ってるならいいお医者さんなんか知らないけど脳外科をおすすめするの」
第3者から見れば見知らぬ少女に電話をかけて居場所を探る変質者にしか見えない。 ……まあ第3者は彼女を認識することはできないのだが。
メリーのいうことは最もではある、 しかし当の変質者はぶつくさと「おかしいな、 こうすれば好感度upイベントで100%あがったたはずなのに」とつぶやいていた。
どうやら現実とゲームの違いがつかない系の危ない男のようだ、 (私が人間なら間違いなく通報してるの……)とメリーは心のなかでそんなもしもをつぶやく。
「(このヒト、本当に人間なの?私と同じ“存在”なんじゃ……)」
人間からは認識することのできないある意味では高次元的な存在であるメリーに電話をかけてきているのだ、 相手が人間であるよりは自分と同じような存在であるほうが合点はいく。
だがこいつは一体なんなのか、 考えたところでメリーにわかるはずがなかった。
考えるより聞いた方が早いと気づいたメリーはコウタとなのる男に尋ねる。
「あなたは、一体なんなの?」
『俺? 俺だよ、俺俺。コウタだよ!』
「詐欺なの?」
『いや、オレオレ詐欺じゃないから!自己紹介しただけだって!』
「私には孫はいないの、それじゃあこれで失礼…」
『待って! ちゃんと答えるから待って!!』
このまま切ってしまおうとしていた所を止められるメリー。
軽く心ので舌打ちをする。
まあメリーとしてもこの男の招待にすでに興味がわいてしまっている。 きちんと答えるなら仕方ないと耳を貸すことにした。
『俺はオンリーワンでナンバーワンなのさ!』
が、 即座に後悔する。
このまま携帯電話を握り潰しそうなくらいにキレているメリーだったが、 溜まった怒りを吐き出す様にため息をした。
逃げ場を与えてしまってるからだめなんだ、 もっと直接的に聞かないとこいつは自分の望む答えを出すことは無い。
「……そうじゃないの、名前じゃなくて、あなたが人間なのかそれとも、人間じゃないのか」
そう思ったメリーは先の質問内容よりも明確に、 限定的に相手を問い詰める。
これならyesかnoのように二つに一つしか答えることはできない、 相手には見えていないだろうがメリーはしてやったりといった顔をしている。
『…………』
思い悩んでいるのか、 電話の向こうが静かになる。
今まで雑音のようにうるさかったのは電車の音や人が往来する音だとわかるくらいにコウタは静まり返っていた。
そして、 時間にして10秒くらい、 その口をようやく開き、彼はこう言った。
『ごめん、 よく考えたらオレオレ詐欺じゃなくて母さん助けて詐欺だったね』
「なんの話!?」
『いや、ほら。 さっきの詐欺どうこうのやり取りでなんか違和感あったんだけどようやくわかったよ、 ちゃんと正しい名前を言わないとね』
「どうでもいいの!! 言われるまで全く気づかなかったし! そもそも定着してないの!! っていうか! さっさと答えろなの!!!」
『え? ああ、 人間だよ?俺は』
珍しく感情的に声を荒らげたメリーに対し、 さらりと答えるコウタ。
一体今までのやりとりはなんだったのかとても疑問である。
「……で、人間が何のようなの。 ただのストーカーさんなの?」
『えー、ストーカーは酷いなぁ、 君だって似たようなもんだろ?』
「ぶばっ!? ば、バカにしてほしくないの! 私のどこがストーカーだって-」
『“見知らぬ”相手に電話かけて挙句勝手に家に上がり込む……うん、確かによく考えるとそこらのストーカーと一緒にはできないね』
自分のしていることを客観的に評価されたメリー。
恐怖を与えて自分の存在を語り継いでもらうことが目的なのだがコウタの言い方では恐怖の種類が全く別のものになってしまっている。
反論したいもののやってることは彼の言う通りなのでぐうの音もでなかった。
なんとか自分をストーカー以上の犯罪者から生ける都市伝説メリーさんとして確立させようと悩みに悩み、 出し抜いた答えはこれだった。
「……………………し、 死んじゃえなのおおおおおおおおおおお!!!!!」
目尻に涙を溜め込み顔を真っ赤にしながらそう言い放ち電話をブツっと切る。
もう、 思いつく罵倒をしつつ電話を切ってしまう方法しかプライドを保つ方法は、 思いつかなかった。
「……今日は、 もうなにもしないでいよう……………………」
眩しい青空を見上げて小さくつぶやくメリー。
そして肩を落としトボトボと歩きながら彼女は雑踏の中へ消えていった。
メリーさんのストーカーさん @Kikunn56
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