宴で舞う
だが次第に声もかからなくなり、こちらから無理に出掛けていく理由もなく、だから宴などずいぶん久しぶりのことである。
昔馴染みの
春官
その様子に馴染めずに、それが宴から遠ざかった理由であることを思い出した。
今宵はいかがしたのか、とからかう朋輩には、いつもと逆のことを言えばいい。仕事が片付いたのだと。
……托陽に連れ出された、というのが本当のところだとは思うが、当の本人は宴の場にいないようだし、噂の種を自ら撒くような愚かな真似はするものではない。
欄干に額を擦るようにして寄り掛かり、月を見た。
十三夜月。
春の、朧月である。
露台の端、朋輩と、酒。
おぼつかぬ心地でこの宴に身を置く。
……詩を吟ずるには、確かに良い風情なのだった。
耳には
「俺は酔っている……」
それが口に出て、己の耳に聞こえるのか、胸中の声か、それさえ危うい。
綜白は父も母も知らない。
母は
遠縁だという夫婦は綜白を持て余して領主である鄭家に
鄭家に子がなかったために里子の扱いを受け、どうにか科挙を受けることができ、今がある。
幼い頃の記憶はほとんどない。ただ、姉がいた。
鄭家に出され、会えなくなった。暫くして、その姿が消えた。
聞いても答えてくれる者はなかったから、今もどうしているかわからない。
月に故地を想う、詩歌の型がある。だが、その故地を思い描こうにも、その情景は綜白の記憶にないのだった。
成年してから母の
……綜白は扇を収めた。
詩を吟じ、舞終えたから。
露台に、吐息が満ちた。
池を見やると、そのほとりの
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