人影を射狙う
よく整備された港の護岸、その背後に建ち並ぶ石倉や会所をこの入り江から見たのは初めてだ。……いつも、見えるのは皆が忙しく立ち働く、騒がしくも華やかな港だったから。
啓泰は
港に人影は無い。啓泰の考える弩弓の届く範囲というものは、護岸の端に立って海に射る距離だから、倉の物陰から射るならばまだ届かない。
だが、
強くはないが、風がある。その分、
狙いを付けたのは一点。港に立ったひとつの影。
大袖を重ねた礼服姿は
皆の吐く僅かな息遣いさえも聞こえそうだ。不思議な程に物音がない。
畳んだ帆を潮風がなびかせている。
音が、あるはずだった。
皆、張り詰めた空気の中で息を殺している。
今、無事を祈る者は、……誰の無事を祈るというのだろう?
副船は護岸に達していた。その帆のために若君の姿が見えなくなる。
汐迅は腕のよい
だが、その帆が啓泰の定めた狙いを覆い隠した。
弓引いて矯めた啓泰の腕に、汗が流れた。
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