理想と現実の影
近付いた港に人の気配は無かった。……常にこの港は忙しなく動く人々が行き交う。それが無いだけでこんなにも違って見えるのかと把栩は思った。
浩阮と爺、そして
その
これより先……
何の為に。
街の皆のために? 事態を素早く収めることは確かに彼等のためだろう。……蜂起した者とされた者のの立場の違いを無視するのならば。どちらに
尚家のために? 托陽のために?
それはそうなのだった。己の拠って立つ場所は常にそこにあるのだから。
だが、そういうことではない。
己のために?
その問いにも、把栩は首を振ることができた。違う。そうではない。
……それは「揮尚」という名の
それだけは、汚すわけには、いかない……。
なぜそのように思うのか、把栩には言葉にすることができない。
結局はその大幟旗を、「揮尚」を、いずれは超えるのだと見定めた己のためなのだと。
そういうことなのかも知れなかった。
だがその大幟旗は「こうであるべきだ」と把栩が思い定めた「
心に思い描く行く末は、いくらでもやり直しの利くものだ。
街の誰からも慕われた「揮尚の托陽」の姿は、把栩が幼い心に描いた理想に過ぎなかったのだろうか。その証に、この現実を思い描いたことがなかった。
人の心は見えぬものなのだった。それを忘れていたために「本当の街の姿」を見誤っていたということか。
本当はいつ街の皆が蜂起してもおかしくはない、そんな状況だったのかも知れない。それとも把栩がこの街を離れた半年の間に急激に
……それすら思い量る術のない。それが己の最大の
蒼穹に在る日輪が落とす己の影が、把栩には酷く昏いものに感じられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます