姉君への思慕
黒地に金と
恐れたような大風はなく、代わりに風向きには恵まれず、
水夫たちは
把栩は
あの樟木の程近くには
彼女の美しく結い上げた艶やかな髪には大仰な
すぐには会えない。
大岩の岬に樟木が遮られて見えなくなってもまだ岩の向こうを透かし見ようとする
「若。気持ちは分かりますがね、
女のしなを作り声を真似てみせた気心の知れた伴人に、
「
「とりあえず腕組んで眉根を寄せてくれていればいいんです。いくら頭の中身が姉君様のことばかりでも、それならば見ても判りませんからね」
浩阮は爺の
彼にとっての姉君への思慕は、腹心の伴人にも掘り起こされたくない、不可侵の女仙を想うように高潔にして高尚なものへの憧憬にも似た想いだった。いついかなる時に御会いしようとも、時の流れも
もしも、何もかもすべてを投げ出さねばならぬときがいつかきっと来るのだとしたら、それは姉君のためなのだろうと思う。彼女の黒目がちで濡れたような瞳が、把栩にそう思わせるのだ。
「……まぁた。鼻の下が伸びてますよ、若。この半月の間に御会いになれますでしょう。そろそろ
浩阮のいうそれらしい格好というのは、
浩阮は主人たる若君が十五を超えて未だに官位を授からないのは、奔放で気さくに過ぎる人柄に起因しているのだと勝手に思いこんでいる。
浩阮の亡き母方の祖父は高位を賜っていたが官職を与えられず、そのままあらぬ疑いを掛けられて失脚したのだという。それでも位階を剥奪されなかったため、
もっとも位を得ても官職がなくては王宮に出仕しても意味はない。名ばかりのことになるのだから、今までと何も変わることもない、だから気にするな、と把栩は妙な慰めをした。浩阮からすれば気にしてくれなくては困るのである。
「浩阮、姉君のことも位のことも、もう少し的の得たところで気にせねばならぬだろうが」
位を賜ればそれに応じた
浩阮が主人と官位の板挟みに悩むとすれば、本来そういった観点からの悩みになるはずなとだと把栩は思うのだが、浩阮はそのあたりの感覚がずれていた。
「若は昔から大変物分かりのよろしゅうございます。臣下の苦言を広くお聞きくださいますところとか、ね」
折りよく
尚都が見えた、と。
そろそろ
懐かしき慕わしき
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