第16話 悪役の位置づけについて・後編

 悪役の位置づけがあやふやだと何が起こるか。以下、その実例を紹介します。




 以前ある人から、「ストーリーがまとまらない。どうしたら良いだろう」と相談されました。


 元々のストーリーは前後編で、「強力な魔物がヒロインを連れ去った。はたして青年は魔物を倒し、ヒロインを救出できるのか! 後編にご期待ください!」というシンプルな筋立てでした。


 ところが作者はその魔物を気に入っていたので、「あいつがもっと強力な敵を倒して、魔王に成り上がる展開を入れよう」と思いつきました(もちろんそんな敵は前編に登場していません)。


 そして勢いに乗り、「実は魔物にも悲しい過去があった。今こそ憎き魔王に復讐する時だ!」という幕間エピソードを書いてしまったのです。


 そのエピソードで、魔物は魔王と戦うための切り札を手に入れます。ただでさえ強力だった魔物が、ここでさらにパワーアップ。もはや青年がどう頑張っても倒せない怪物へと進化しました。



 物語は作者の脳内で暴走を続け、いくつもの展開が浮かんだとのこと。


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【A案】

 魔物は魔王を倒したが何もかも虚しくなり、連れ去ったヒロインを解放する。


【B案】

 魔物は魔王に挑んだが力及ばず、青年の知らないところで倒されていた。


【C案】

 登場人物は全員死ぬ。

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 ちなみにB案については、こんな結末を考えたそうです。


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【B案の結末】

 もっと強い大天使が現われて魔王を封印する、または相討ちになる。

 青年はどさくさにまぎれてヒロインを救出し、ハッピーエンド。

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 私は一つ質問しました。


「この物語の主人公は誰なの?」

「えっと……」


 作者は答えることができず、考え込んでしまいました。



 誰が主人公で、何をどうする話なのか。サブキャラクターへの愛が暴走した結果、物語の主軸が崩壊していたのです。着地点が見えなくなるのも無理はありません。そこから物語を軟着陸させるのは一苦労でした。




 悪役の位置づけを曖昧にしておくと、こんな悲劇も起こりえます。本エッセイを読まれた皆さんは、同じ轍を踏まないようご注意くださいね。

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魅力的な「悪役」について ベネ・水代 @Bene-Mizushiro

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