エピローグ『Forever』

 お嬢様と出会ってから10年の月日が流れた。



「今回の事件も勝つまでに大変でしたね」

「そうですね」


 後輩の女性弁護士と一緒に、俺の勤める法律事務所の入っているオフィスビルから出る。5月でも日が暮れると結構寒いもんだな。


「今夜はどうします? 一段落しましたし呑みに行きますか? 九条弁護士」

「いいえ、私はまっすぐ家に帰りますよ。こういうときこそ、妻やメイドのくるみさんとゆっくりと過ごしたいなって」

「そうですか。家族がいるんですから、家でゆっくりしたいですよね。今日はせっかく、九条さんに奢ってもらおうと思ったのに」

「ははっ、そんな魂胆があったとは思わなかったです。近いうちに、呑みに行きましょうか。私の家に来てくれてもいいですし。私は大歓迎ですよ」


 そっちの方が変に誤解されるような心配もないし。まあ、後輩の子のことはちゃんと分かっているから、そういう心配は無用だろうけど。


「じゃあ、また明日。今日もお疲れ様でした」

「九条さん、お疲れ様でした」


 後輩の女の子と別れ、俺は自宅である九条家のお屋敷に帰っていく。

 あれから、俺は高認試験を合格して、大学の法学部に入学。在学中に司法試験に合格して、今は弁護士として働いている。

 出会ってから1ヶ月ほどで恋人として付き合い始めた九条由衣お嬢様とは弁護士になってからすぐに結婚し、九条家に婿入りした。なので、今の名前は九条真守くじょうまもるだ。

 今はとある法律事務所に勤務する刑事事件を担当する弁護士として、後輩の女性弁護士と一緒に刑事裁判に臨む日々である。また、お嬢様が重役を務める九条建設の顧問弁護士も引き受けている。


「ただいま、由衣、くるみさん」

「おかえり、真守」

「おかえりなさいませ、真守さん」


 互いに忙しいときもあるけど、由衣は俺の帰りをくるみさんと一緒に笑顔で待ってくれる。そのことで仕事の疲れもなくなっていく。

 結婚するまではお嬢様と呼んでいたけど、由衣の要望で結婚後は由衣と呼ぶようになった。今でも違和感がちょっとあって、たまにお嬢様と呼んでしまうことも。


「すぐにお食事の用意をしますので、リビングで休んでいてください」

「分かりました」


 くるみさんはキッチンの方へ向かった。

 俺と由衣はリビングに行き、ソファーに隣同士で座る。


「今日もお疲れ様、真守」

「由衣もお疲れ様です」

「それで、どうだったの? 今日、判決が出たんでしょう?」

「はい。こちらが示した最初の要求通り、被告人は無罪になりました。検察側がやり手で、最後まで厳しかったですが。何とかなりました」

「そうだったんだ。でも、良かった。あなた、最初からあの人は無罪なんだって言っていたもんね」

「ええ。ですから、しっかりと無実だと示すことができて良かったです」


 俺が担当する事件はやっかいなものばかりなのは気のせいだろうか。事件内容もそうだけど、相手の検察官も。10年前に由衣と恋人同士になってからも色々なことがあったし、俺は元々そういう体質なのかもしれない。


「昔のことを思い出していたでしょ」

「ええ。由衣と恋人同士になってからも色々なことがあったなぁって」

「そうね。それでも、真守と一緒に乗り越えられたから今があるんじゃないかしら」

「そうですね」


 隣にいたのが由衣だったからこそ、俺は様々な困難を乗り越えられたんだと思う。それはきっとこの先の未来も変わることはないだろう。


「ねえねえ、真守。くるみにはさっき言ったんだけど……今日、産婦人科に行ってね。……できてたよ、赤ちゃん。3ヶ月だって」

「そうですか! おめでとうございます!」


 俺は由衣のことをぎゅっと抱きしめてキスする。そうか、由衣と俺の間に子供ができて、俺達は親になるんだ。


「おめでとうって。あなたが頑張ってくれたおかげじゃない。その時間、私も気持ちよくて幸せな気分を味わえたし。それも含めて……真守、ありがとう」

「いえいえ。由衣と一緒だから頑張れたんですよ」

「嬉しい言葉ね。ただ、真守にはこれからもっと頑張ってもらわないと。もちろん、私も頑張らないとね」

「支え合いながら一緒に頑張りましょう」


 これからは親として守るべき存在が産まれてくるんだ。それまでの間、由衣が大変なときもあるだろうし。今までよりもしっかりしないといけないな。


「由衣様、真守さん。お食事の用意ができました」

「さあ、行きましょう。真守」

「はい!」


 今夜も愛する妻の由衣とメイドのくるみさんと3人で楽しい時間を過ごす。ただ、いずれは4人になるのか。いや、もしかしたら5人、6人と増え続けるのかも。

 あの時、SPだった俺は弁護士になり、高校生だった由衣は経営者になった。肩書きは変わったけど、俺達が一緒であることは出会った頃からずっと変わらない。

 そんな俺達夫婦に対して、子供が産まれることを含め色々なことが待ち受けているのであった。それでも、俺と由衣は前に向かって歩いていく。あくまでも。いつまでも。




後日談 おわり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

SP-Security Princess- 桜庭かなめ @SakurabaKaname

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ