4『ー結ー』

『私がこの髪型…ツインテールが好きな理由はさ。

 頭の横で自由に飛び回る髪が好きでさ…

 自由に飛び回る鳥みたいで、なんか自由だー!って感じじゃん。』

3日前の私と、3日前の姉。

この日、ライブハウスに行く前に話してくれた髪型の理由。

ライブを見にいけば、姉はギターを弾きながら頭を振っていた。

その髪は自由に暴れまわり…まるで鳥のようだった。

『それじゃ行ってくる…今日はただの練習だよ。

 またいつもくらいに帰ってくるから!』

そう言うと、ギターケースを手に家から飛び出していった。

どうしてこの時、もう少し話さなかったんだろう。

どうしてこの時、もう少し引き止めなかったんだろう。

後悔しか残らない。


目が覚めると、朝の9時。

長い長い夢を見ていた。

姉はいつでも笑っていたのに…私は全然笑ってないや。

布団から出ると、姉のヘアゴムを手にドレッサーの前へ。

髪を左右で結び垂らす…ツインテール。

鏡に映る私の姿が、姉の姿と重なる。

よし、と心に一喝すると、ギターを手にして家を飛び出した。


緑色の木々を両手に眺め、あの高台を目指して走っていく。

まわりの景色がどんどん後ろへ吹き飛んでいく。

すごい気持ちがいい…こんな晴れた気分はいつぶりだろう。

天気はあいにくの曇りだが。


高台へ着くと、崖のギリギリまで進む。

下の木々が私へ向かって手を振っている。

一緒に踊ろう…一緒に踊ろう…

遠くの海が私へ向かって手を振っている。

一緒に遊ぼう…一緒に遊ぼう…

そんな錯覚を抱くほどに、私の精神は壊れかけていた。

もう肉体的にも精神的にも限界だった。


ギターケースを開き、ギターを取り出す。

「みんなー!準備はいいかー!」

姉の真似をして、大声で叫ぶ。

「いくよ…ここからは私の時間だ!!!」

姉の真似をして、大声で叫ぶと、私は跳んだ。


真っ逆さまに落ちていく。

ああ…姉の笑い声が聞こえる。

私の周りで、鳥たちが飛びまわっている。


『いつか一緒に武道館のステージで立ちたいな…』

『最強の姉妹シンガーとして世界一になろう!』

『もし私がだめでも、お前ならやれるから…』

いつか、姉と約束した言葉が脳裏をよぎる。

ダメだ…私は姉の夢を叶えなければならない…!


はるか遠い空を目指し、手を伸ばす。

パシッと、誰かが手を叩いた。

それはまるで、姉の手のように暖かいものだった。


ゴリッという音とともに、私は頭から落ちた。

深紅に染まる意識の中、私は…


笑いながら「―痛い。」と呟いた。

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