任務二

「整備急げ! 他の奴らがいつ出撃入るかわからないんだぞ!」


 冴えない青の繋を着た中年男性の怒鳴りに周りの同じ繋の皆々がハッキリと「はい!」と威勢良く叫ぶ。


「ふぅ……よし、デバイス調整はこれで完了。姿勢制御と回避システムのパターンαtypeにしといたが良いか? 青空」

「うん。大丈夫だよ、おやっさん。見た感じ得に何も言うことは無い」


 おやっさんと呼ばれる中年男性の隣には競泳ウェットスーツみたいに身体に張り付くピッチピッチなスーツを着た黒髪の少年・保谷ヤスタニ 青空アオゾラが手元のタブレットで後ろに沈黙する自らのアームズの調整をチェックする。



「今回の武装は何で言った方が良いと思う?」

「あー………そうだな、パーティカルランサー両手に8.8mm対艦砲を二つ背中、足にはミサイルポットをつけて位で良いんじゃないか?」

「そうだね。今回は量が物を言うし、その装備で行こう」


 タブレットに装備のオーダーを打ち込む。

すると、後ろでガタンと音がし、見てみると次々とオーダーした武器が装備されて行く。

 中世ヨーロッパの騎士が使った三角柱の槍、2mのアームズ程に長さがあ対艦砲、足にはミサイルポットが二つ付けられる。


 これで準備は完了。

あとはアームズの身体部分、空洞になっている部分に青空が入れば完全に完成だ。


「ほら、先に入ってたらどうだ?」

「うん、そうだね。足だけ装着させとくよ。」


 タブレットと外した眼鏡をおやっさんにたくし、スタスタと駆け寄る。

身長170cmある青空でも2m強の巨体を隣にはすると小さく見える滑らかなフォルムが特徴的な白い鎧。

青空は億する事なくそれに飛びこみ、アームズの五つに別れる内二つのパーツのレッグパーツに足を入れる。

 膝のスーツからでるペットボトルのキャップ位の大きさのリンクデバイスにレッグパーツの接続部位が入ってきた。


「くっ…」


 ボルトが閉まり、きつく閉められるのに少し違和感を感じるのはいつも通り。

内側が冷たく、捕まれる感覚は不思議な物だったが、既に数年同じことを繰り返していれば嫌でも慣れる。

 眼鏡を外し、ぼやける視界に目元が見えなくする為の備付けられているバイザー(換えあり)を装着。

特別に度が入ってる為にボヤケは消えた。


 後は待つのみ。

体重を前に倒し、固定されている足を残して前のめりになる。

 明るい証明が煌々たるドックは青空には居心地が悪く、目をつぶる。

時折聞こえる無機質な機械音と金属音をBGMにイメージトレーニング。

シュミレーションでは数百回と繰り返した行動を脳裏に再現して実行する。

 無意識に操作動作をする両腕とブツブツと状況を呟く口。

いつものことなので誰も気にかけないのが密かにありがたかった。


「作戦終了………よし」


 イメージトレーニング終了。

シュミレーション結果は完璧、いつでも行ける。


『アームズドックで作業中の総員に通達。オペレーションがフェイズ2に入る。総員、ドックより退避。本艦は浮上する。繰り返す。本艦は浮上する』


 来た。

厚い壁に囲まれたドックに反響する淡々とした連絡事項。

聞いた瞬間、青空の足元から熱が奪われる。

毎度毎度のこの感覚は病み付きになる、堪らない。


「ほら! 全員急げ!! 深海でキモい魚共と踊りたくないなら早くしろ!」


 おやっさんが部下全員の退避を急かす。

しばらくして、急かしい足音も無くなり、怒鳴り声も消え、周りから誰も居なくなった事を確信し、目を開ける。

 確かに周りには誰も居ない。

目の前には厚い壁だけ。


『30秒後に浮上する。ストライカー4は出撃体制に入れ』

「ストライカー4、青空了解」


 耳にかけたバイザーの部位から命令が入る。

浅く深呼吸。

やるぞ、と意気込みを新たに重心を後ろに戻し、両腕を脇のアームパーツに入れ、肘のリンクデバイスに入ってきた。


 冷たい感覚。

腕からは腕の感覚が無くなり、槍と一体になったアームパーツ同様に槍になった感覚を得る。

 両腕槍じゃ生活しにくいし、日常生活ではやっかいにはなりたくないと思いながらも久しぶりの槍の感覚に心を踊らせながら最後のパーツ・ユニットパーツを装着する。

 後ろから押さえれる微かな衝撃。

背中のど真ん中に物が入ってくる感覚。

そして自分に翼が生える感覚。

 この時、青空は少し笑う。

自分が飛べると、誰よりも高く飛べると思えるから。


「網膜投影開始」

≪網膜スキャン。ストライカー4と確認。投影開始≫


 青空にしか聞こえないアナウンスと共に視界には一筋の青白い光の後に残弾数ゲージ、質力ゲージ、レーダーが表れた。

全身には高エネルギーシールドが薄い膜を張る。

 問題は無い。

コンディションオールグリーン。

いつでも行ける。


『浮上完了まで5秒。4、3、2、1。浮上!』


 地が上に上がる。

重力がしたからかかってきた。

 とうとうだ。

視界は開いた厚い壁の先にどんよりと重く広がる灰色の雲の海を映す。

直立不動の体制から、腰を落とし、ジャンプスキー選手さながらの格好にする。


『ストライカー4・フリューゲルゲッティン【二型ツヴァイ】、発艦!』

「了解、ストライカー4発艦する」


 直立不動だった地が急発信。

体に打ち付けられる潮風は寒く感じる。

その風に身を任せ、カタパルトから足を脱する。


「ウィング展開。ブースター着火」


 背に背負うフライトユニットのウィングを展開。

平行に4枚重なっていた翼はXの形になり、ブースターは火を青い噴き、カタパルト射出の勢いを殺さずに風に乗った。


 視界に誘導案内が表情される。

目指すは総合自衛隊北海道方面第3基地。

そこを徹底破壊するのが、彼の今回の任務だ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ふ~んふ~ふ~ん♪」


 どこで聞いたか、なんのメロディなのか忘れたが記憶に残るメロディを鼻歌で奏でながら基地の無骨な廊下をスキップしながら行く。

その姿は先程まですき間なく、礼儀正しく、軍人の模範たる格好だった彼女とは考えられない程に女の子だった。

 夕焼け色のポニーテールをしっぽの様に荒ぶらせ、見ただけで周りの人間を幸せにするオーラを撒き散らしている。


「私は今日から小隊長~♪」


 浮かれに浮かれるこの姿を日下部が見たら歎くか、または変わらないなと苦笑するだろう。

さっきまで我慢していた興奮が押さえきれないのだ。


「ふふ~ん♪ ん?」


 足を止め、眼は廊下の左に連なる窓の先の曇り空に投げる。

何気なく、ふと思っただけのたわいの無い気まぐれ。

それでも何かを感じ、どうしても見なければならない気になってしまい見てしまう。

 無論、視界には窓の枠に収まる今にも雪が振りそうな灰色の空と忙しなく規律正しく広場を行進する訓練中の自衛隊員だけ。

不思議な事は一つも無い。


 やっぱり気のせいか。

喉に詰まる違和感をむりくり飲み込み、足を進ませようと前を向こうとした時。

 灰色の空に輝く星を見た。


「!?」


 ありえない物を見た驚きとその正体の知りたさに突き動かされて窓を開け、寒空に上半身を乗り出して目を細める。


 閃光。

また光る。


 やはり、見間違えじゃない。

しかも次の光は特大で、そう流れ星の如く空を走り、大きく近づいて来る。

遠近感の通り、遠くの物が近くに来る。その様まんまーーーー


「ウソ!?」


 光の柱はそのまま基地の建物に命中。

咄嗟に頭を押さえ、床に伏せた舞には轟音と共に衝撃が背中を霞め、身体の核がスゥーと凍えるのがわかる。


 衝撃は一瞬だった。

耳に高くキーンとなる音が響き終わり、目を開け、立つとそこには別世界が広がっていた。


「ウソ……でしょ……?」


 目の前の世界は煙たく、照明が火花散り、つい数秒前まで歩いていた道も崩れ崩落した地獄絵図。

 何がどうなってこうなったのか。

舞にはちんぷんかんぷんで、叫びも涙も怒りもなく、どうしようも無かった。


 地獄絵図から目を背けたく、窓に身体を向ける。

窓枠があった壁には無残な大穴があき、冷たい風を多く吸い込む。

 その穴から見た景色も変わっていた。

下の広場も小さなクレーターが複数創られ、行進していた自衛隊員も居なくなっていた。

 景色を上にスライドさせ、天を見る。

天には変わらない曇り空、それと両手に四つ爪の粒子砲、背に二つの巨大な細筒を背負い、当たり前の如く浮いていた。


「あれは………アームズ?」


風により揺れる髪も気にかけず、空に浮かぶ原因を睨む。

自慢では無いが、舞は視力が2.6と通常よりは良い。


(あのアームズは……クロス型フライトユニットを採用しているからドイツ製か………確かに最近発表されたリスペルンエンゲルに酷似しているけど、レッグパーツとアームパーツが少し違う?)


 冷静に自分の知る知識と合致させ、考えながら行動に移す。

走りながら、ポケットから自らのスマホを取りだし、ある連絡先にコールをかける。


『舞!? 大丈夫だったの!! 良かった…』

「安心は後! 鏡カガミ、私のアームズ準備しといて!!」

『うん! わかっーーー』


 窓の外が光る柱により輝く。

その光が焼いた先は今から行こうとして居たアームズ格納庫だった。

 スマホからは返事が途切れる。

もしかしたらと最悪の自体が過ぎってしまう。


「クッソ!! クソクソクソクソクソクソぉ!!!」


 悪しき考えを脳裏から落としたく限りなく早く走って、一番の親友が待つアームズ格納庫に足を進ませ、階段をかけ下がった。



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